ケイケイの映画日記
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2013年09月27日(金) 「ビザンチウム」




とっても良かった!昨日は「ウォーム・ボディーズ」の予定でしたが、この作品が週末からイブニング一回だけと知り、急遽予定入れ替えで観ましたが、本当に見逃さず良かったです。ニール・ジョーダン監督久々のヴァンパイアもので、前回の「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」と打って変わり,今回は女性二人、それも母娘の道行です。

清楚な16歳のエレノア(シアーシャ・ローナン)と8歳年上の妖艶なクララ(ジェマ・アータートン)の姉妹。クララは海辺の「ビザンチウム」と言う元ホテルに、言葉巧みに持ち主の男性を言いくるめ、滞在します。実は二人は姉妹ではなく母娘で、200年の時を生きるヴァンパイア。しかし彼女たちの属する秘密結社は、女性のヴァンパイアは許されておらず、二人は各地を転々として逃亡しています。孤独と逃亡の辛さに疲れ果てていたエレノアは、フランクケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と言う白血病の少年と知り合い恋に落ちます。そして彼に自分の秘密の全てを告白しようとします。

冒頭、秘密結社の男に追われるクララのシーンが、ちょっとしたアクション映画並みで、上出来。「どんな役でも引き受けます」のジェマですが、アクションも出来るとは知らなんだ。あの手の振り方は、結構走れる人なんでしょうね。秘密結社の男役に、私の好きなデンマークのトゥーレ・リントハート。彼が出ているなんて知らなかったので、超得した気分。

逃亡にはお金が要るもの。二人は何を生業にしているかと言うと、クララの売春です。「彼女は何故かすぐに客を見つける」と言うエレノアの独白がありますが、その理由も後で拾っています。

クララの事を愛しているエレノアですが、同時に抑圧され鬱屈した感情も持っています。それは人間のティーンエイジャーと変わりません。ヴァンパイアものは永遠の命を持つ苦しみを描く事が多いですが、エレノアの苦悩は「忘れられない」事。年が行くと物忘れが激しくなるもんですが(私も絶賛進行中)、永遠の16歳の彼女は、母の語った話、自分の体験など、200年間分全て覚えている。人生は良い事ばかりではなく、苦しみや哀しみ、恥ずかしかった事など、辛い記憶も多いはず。私は年齢を重ねた人が忘れっぽくなるのは、神が与えし恩寵だと思っています。それが全てを覚えていたら、どんなに苦しいか。自分の秘密を紙に書いては捨てるエレノアが、とても理解できます。

忘れなさいと娘に教えるクララ。彼女だって、全て覚えているはず。なのに、感傷など一切感じさせない獰猛さと逞しさです。これはひとえに娘を守りたいからです。彼女はエレノアには決して売春させません。汚れた事は一手に自分が引き受ける母。それは母親の業で、娘に永遠の命を与えてしまった贖罪なのでしょう。「あなたのために、私がどれだけ頑張っているか!」と、重い母性を振りかざすクララですが、根源の部分では娘に詫びたい気持ちがあったと思います。繊細さと清楚な心を失わないエレノアですが、矢面に立ち続けたクララあっての事でしょう。

ヴァンパイアはヴァンパイアになった瞬間時が止まるので、8歳差の二人は謎でしたが、それも回想場面で解けました。あちこち思わせぶりな描写があって、気になっていましたが、現代と過去を上手く交差させ、判りづらい事はありません。200年前は幻想的なゴシック調で美しく描き、ヴァンパイア好きの思いも汲んでくれます。

ジェマはビッチで暑苦しいママを大奮闘で熱演。ユーモラスな役からエロビッチまで幅広く演じて、個人的にはどれもハイアベレージだと思います。日本で言うと、鈴木砂羽に似てません?今回半裸で豊満な肉体美も惜しげなく披露していて、其の辺も好感度大です。シアーシャの少女期の美しさを見られるのは、これが最後でしょう。彼女も全編出ずっぱりで、親離れしたい、でも母を愛してやまない葛藤、そして切ない恋心と、少女役最後(勝手に決めてますが)にふさわいし透明な存在感でした。

200年も男だけの結社なんて、時代錯誤な!と怒っていたら、最後はちゃんと現代の感覚が反映されていました。200年も生きているんだもの、学んで成長しているんですね。この味付けも今までに観たヴァンパイアものとは少し違い、新鮮でした。俳優は他に、フランク役のケイレブの繊細さと、サム・ライリーの如何にもイギリスの優等生的な、誠実な美青年ぶりが印象に残っています。

親離れ子離れとは、果てしなく時間がかかるもんだなと、ラストを観て思いました。そのきっかけにも注目してね。血の禍々しさとロマンチックさが上手く共存した、「美しい」お話です。


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