ケイケイの映画日記
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2013年06月13日(木) |
「イノセント・ガーデン」 |
パク・チャヌク初のハリウッド作品。主要キャストに売れっ子を揃え、どんな出来かな?と、とても楽しみにしていました。いつもの文字通り出血大サービスは控えめで、でもとても印象に残る使い方で、期待に応えて貰いました。
18歳の誕生日に最愛の父(ダーモット・マローニー)を事故で失ったインディア(ミア・ワシコウスカ)。母エヴィは、インディアとも父とも折り合いが悪く、それぞれが居心地の悪さを感じていました。父の葬儀の時、突然父の弟であるチャーリーが家に帰ってきます。容姿端麗で教養のあるチャーリーに、エヴィはすぐ親愛を見せますが、インディアは謎めいた叔父に懐疑的です。幾日が過ぎた後、メイド頭のマクガーリック夫人、訪ねてきた大叔母(ジャッキー・ウィーバー)が次々失踪し、インディアの周囲は不穏な空気に包まれます。
音信不通の叔父が母娘二人の家庭に入り込んだと設定なので、エヴィの弟だと思っていました。でも予告編でニコールとマシューのラブシーンがあったので、私はてっきり偽の叔父だと予想したのですが、これが亡き父の弟。エヴィは会った事さえないのに、すぐ打ち解けます。少し不思議ですが、娘との確執と、常に家に閉じ込められているような閉塞感に苛まれている彼女には、絶好の風穴だったのでしょう。
インディラは研ぎ澄まされた感性を持つ少女で、彼女が心を開いたのは父親だけ、学校でも独りきり。その感性で、彼女は得体の知れないチャーリーに疑惑の目を向けます。これでだいぶ引っ張るかと思っていたのですが、中盤であっさり謎が明かされます。しかし、お話はこれからが真骨頂でした。
原題は「STOKER」。インディアやチャーリーの姓であり、血の結びつきの濃さを表すと共に、狩りと言う意味も含まれているようです。インディアは父に連れられ、狩りを教えられていました。日に日に弟に似てくる娘を見て、父が考えた「息抜き」なのでしょう。その事はエヴィには言えなかったのでしょう。夫婦不仲の理由もこの辺りかも?この家に巣食う不穏さは、全てチャーリーからインディアに引き継がれた「血」なのですね。
インディアは前半と後半で印象が一変。前半はずっと仏頂面で可愛げがなく、これがあの可憐で透明感のあるミアか?と、びっくりするほど。秘密が解けた後半にかけて、笑顔を見せたり、また獲物を狙うような獰猛な目をしたり、生き生きし出すのです。シャワーシーンで苦悶の表情を浮かべたのは、自分の行為にショックを受けたからと思っていましたが、その直後に微笑み、もう私はびっくり!苦悶じゃなくて性的な恍惚感を表していたわけで。そーですか・・・、と言葉もありません。清純派ミアちゃんにここまでさせて、やっぱりチャヌクは鬼畜よね。
マシューもエレガントで素敵だけど、繊細さが足りないと思っていましたが、この役ならこれで正解。目が大きくて綺麗な人なのですが、今回妙にギラついているなぁと感じていましたが、なるほど、ギラつかなきゃいけない役です。役をよく理解していたんですね。
私が感心したのは、ニコール。大層美しく、教養も育ちも良さそうなのに、人として母として頭は軽く、中身も薄い。華やかさもこの家では、まるでドライフラワーのようです。しかし自分を嫌悪する娘に対して、激しい愛憎を見せるものの、娘からの愛を得る事が諦めきれない。これは本当に可哀想な人ですよ。夫ならまだしも、娘は諦めきれるもんじゃないはず。夫や娘との不仲は、決して彼女が悪かったわけではありません。ニコールがこんなに大きな子の母親役を上手く演じるなんてと、感激でした。
インディアとエヴィとチャーリーの関係に、終止符をつけたのはインディアでした。どこに向かうのか、このお話と思っていましたが、これは当たりました。兄から引導を渡された時のチャーリーの反応は、まるで子供でした。それから彼の精神は、多分成長していなかったのでしょう。孤独はもう嫌なのです。世界でたった一人、自分を理解してくれるインディアに、彼が執着したのは理解出来ます。対するインディアは、孤独ではなかったのです。彼女の最愛の人は、どこまでも父親。そして母を憎んでいたのでもありません。一見全く同じ性癖に見える叔父と姪は、実は違うのですね。チャーリーもインディアの愛を乞うていたと思うと、またまた切ないもんがあります。
お金持ち風のお屋敷や庭の様子がセンスよく、やぼったいルックスのインディアとの対比となっているのかと感じました。プロデューサーはリドリー&トニーのスコット兄妹で、彼らの意向があったのでしょうか、これがチャヌクか?と想う程、洗練されて美しく、かつ幻想的です。同じ脚本で韓国で撮ったなら、きっと過剰な演出で、必ずどこかに情念を入れちゃうはず。そうすると、この酷薄な美的感覚や官能性は台無しだったはずです。個人的には、大成功なハリウッドデビューだと思いました。
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