ケイケイの映画日記
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2013年03月27日(水) 「ダークホース〜リア獣エイブの恋〜」

いや〜、すげぇ悲劇なんですけど。このポップなチラシを見ると、オタクを描くコメディ且つ成長物語みたいに思うでしょ?そんな事全然ありませんから。だって監督がトッド・ソロンズだもん。今までの作風同様、笑い難く毒のあるシニカルなユーモアが充満しつつ、ストレートな泣かせどころを最後に持ってくるなんて、ソロンズも50を越えて、心境に変化があったかもですね。私は声を殺して大変笑いました(だって観客7人だもん)。

ハゲ・デブ・オタク、その上のマザコンのエイブ(ジョーダン・ゲルダー)は30半ばの青年。性格も最悪の自己チューで、現在はパパ(クリストファー・ウォーケン)の会社で雇って貰っていますが、仕事そっちのけでネットを見てはフィギアを物色する始末。息子を甘やかしてしまったと後悔するママ(ミア・ファロー)ですが、それでも過保護の溺愛は変わりません。医師の弟(ジャスティン・サーバ)に差を着けられたエイブですが、「俺はダークホース。いつもで大成出来るさ」と、根拠のない自信が満々で、親の心配などどこ吹く風。そんな彼が美女ミランダ(セルマ・ブレア)に恋します。一度は断られたものの、何故か彼女はエイブのプロポーズを承諾。しかし彼女はある秘密を隠しており・・・。

とにかくオタクの描写が秀逸。ポロシャツの裾はズボンの中。買ったフィギュアに傷がある、交換しろと、開封したのにトイザらスに難癖つける。ダイエットする気もないのに、飲み物はダイエットコーラ。フィギュアやポスター、コミックでいっぱいの部屋をミランダに紹介するも、「俺はトレッキー(スタトレマニア)じゃないし。ハッハッハー」に至っては、生息地帯の違いで、お互い不穏な仲なのまでわかる。惜しむらくはリュック背負ってなかったのよねー。そして唖然とするほどの幼稚性が強く他罰的なのです。

どうしようもないわコイツと、親兄弟が思っていても、裕福なれば、息子を放り出せないのが親の情ってもんです。それが例え飼い殺しであっても。それを「両親には自分が必要だ」と大きな勘違いしているエイブ。

ミランダは初登場シーンからただ事ならぬメンヘラ感が充満。またセルマが上手いのよねー。投げやりで気だるく無表情。確かに美人だけど、これで一目惚れするのは、エイブも変と言うか、それ程女性を知らないのでしょう。おぉ、ここでもオタク男性の特性が。

私はメンヘラが隠し事だと思っていたんですが、そうではなく意外なものでした。って、えぇぇ!こう言うプロット大丈夫なのかな?関連団体から抗議されないのか?と思いましたが、大丈夫だったんでしょうね。でもなさそうでありそうな秘密は、観客もエイブと一緒に考えてしまいます。この辺の毒がいっぱいのセンスは、さすがソロンズと言う感じ。

さぁかつてない不安と葛藤がエイブに押し寄せる。これ以降は、妄想と現実を行ったり来たりの描写が続きます。妄想部分は、エイブが見ようとしなかった現実が突きつけられています。ママからは「同じに育てたのよ。弟は成功であなたは不良品」。弟からは「俺は努力したんだよ。賢くて悪かったねー、ハッハッハ」。普段はエイブに優しい会社の同僚マリーも、妄想の中では辛辣に彼を評します。でも普段彼に厳しいパパだけは、妄想に出てこない。出てきたのは、幼い頃背の高さを測った柱の傷に書いてある言葉だけ。ここで私たちは、思わず落涙するはずです。

誰も自分をわかってくれないと思い込んでいたエイブですが、本当は家族や同僚、そしてミランダにさえ愛されていたエイブ。でも時既に遅しなんですね。エイブは全然成長もせず救われもしません。思うに、大層な事を考えず、今自分に出来る力量・範囲の中で、コツコツ始めなさいよと言う教訓でしょうか?だって人生はトイザらスのフィギュアのように、返品は効かないから。後悔先に立たずと言いますが、後悔すらエイブにさせないところが、ソロンズらしい皮肉です。

ミア&ウォーケンの元カルト系美男美女の、老いを晒しながらの演技がとても楽しいです。ミアは可愛く品がよいので、溺愛ぶりのダメさより、エイブのマザコン息子のダメさ加減が上手く浮かびます。ウォーケンはね、お若い方は知らないでしょうが、シャープでハンサムだったんですよ。それがヅラをかぶり顔は弛みまくり。その弛みはエイブを心配する親心からだと感じさせます。

しかし何といっても、本作の白眉はエイブを演じるジョーダンですね。スーツ着て髪も上手く誤魔化しゃ、結構恰幅の良い男性で通りますよ。それがオタク青年の嫌悪感と、ちょっぴりの愛嬌を滲ます様子が絶妙でした。

何故一度振ったのに、ミランダが結婚をOkしたのか、その謎がわかります。あの嘘は相手を想う愛のある嘘ですよ。ソロンズファン以外には、何ですか、これ?だと思います。「ウェルカムドールハウス」「ハピネス」などに通じる物がありまくりなので、ちょっと気になるかも?と思われる方は、まずこちらからご覧下さいませ。待ってます(笑)。


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