ケイケイの映画日記
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2012年06月12日(火) |
「外事警察 その男に騙されるな」 |
騙されるなって、こういう事だったのかぁ。元はNHKで放送されたドラマの映画化ですが、私はドラマは未見。いくらフィクションでも、この内容でよくNHKで放送出来たなぁと、びっくりしました。ところどころ、何かおかしいと思う箇所もありますが、俳優さんたちの迫力の演技の前に、観ている間はすっかり忘れちゃった。面白かったです。監督は堀切園健太郎。
大学施設から、核兵器についての機密書類が盗まれます。その時朝鮮半島から濃縮ウランが持ち出されたと聞き、日本政府は極秘に公安に捜査を依頼。刑事四課のチーフ住本(渡部篤郎)の元、部下(尾野真千子、北見敏之ら)が集められます。まず目をつけたのは、5年前に来日し、子連れの日本女性香織(真木よう子)と結婚し、日本国籍を取得した奥田。住本らは香織に近付き、密かに協力を要請します。
えーと、日本はスパイ天国だと言うのはよく聞く話で、昨今も中国大使館の人間がスパイだったと話題になったばかり。でも日本の公安も、CIAみたいな諜報活動をしているとは、正直びっくりでした。いやフィクションなんですから、これを鵜呑みにしているわけではありません。でも近しいことはあるのでしょう。ターゲットに近づくのに、身分を偽り、どこからか子供まで調達する様子はびっくりでした。
人の弱みにつけ込み協力者に引きずり込む様子は、虫酸が走ります。相手の何を利用して味方にするのか?と部下の尾野真千子に聞く住本。私は怒りだと思いました。ビンゴ。やっぱりね。人心を我が手に納めるためには法スレスレ、もしくは逸脱した事もやってのける住本。
日本政府、韓国政府入り乱れ、二重スパイが暗躍し、「国益を守れ」のお偉方の号令の元、丁々発止の狐と狸の馬鹿仕合が、繰り広げられます。爆弾騒ぎが起こり、殺人や銃撃シーンもありますが、基本アクションよりも、手を変え品を変え、心理戦で相手を追い詰める場面が印象に残ります。アクションは花を添える程度。でも充分にスリリングです。これに香織や科学者の背景を取り入れながら、ドラマ部分に厚みを加えています。
出演者で出色は真木よう子と科学者役の田中泯。田中泯の初登場シーンは、目だけが異様にギラつき、息を呑みました。深く皺の刻まれた顔に、背負ってきた過酷な過去を感じさせますが、目だけがとにかく鋭い。その目が虚ろになったり優しさを帯びる時は、哀しみを表します。真木よう子は、天涯孤独の母親の葛藤を、情熱的に好演。「あんたたちが私の幸せを奪ったのよ!」と言う矛盾極まりないセリフが、彼女の口から出ると、本当に切なく納得できます。整理しきれなかった奥田への愛や情の発露だと思う。「頼りない母親でごめんね」と幼い娘に泣いて詫びた時は、私も一緒に泣きました。薄幸さよりも、気の強さが上回る印象の香織の、本当の姿だと思ったから。この二人の御陰で、ドラマではなく、きちんと「映画」だと認識出来ました。
渡部篤郎は割と器用な役者で、この人も得体のしれない感が魅力の人です。人を人とも思わず、心を踏み躙る割には、人の心の善を信じ、韓国NSI役のキム・ガンウ(彼も好演)に甘いと言われます。しかし基本は相手の気持ちを騙すと言うか、手段の為には弄ぶような事もするのね。しかし最後のシーンで同じ事を見せられて、それを笑顔で受け入れる私がいます。最初の嫌悪はどこへやら、虫酸の走る住本に共感させられたのですから、映画は成功だったのでしょう。
大手配給の邦画は(今作は東映)お手軽な作品が多く、イマイチ私も足が向きませんが、この作品は大人の鑑賞に耐えられる重みのある作品だと思います。
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