ケイケイの映画日記
目次過去未来


2010年07月25日(日) 「必死剣 鳥刺し」





先週の連休中に観ました。すっかり日が経っちゃった。重厚かつ丁寧に作ってあって、見応えも充分。キャストや演出にやや疑問がありましたけど、充分秀作だと思います。監督は平山秀幸。

江戸時代・東北の海坂藩。藩主右京太夫(村上淳)は側室連子(関めぐみ)に夢中で、藩政に口を出す連子のせいで、藩内は乱れていました。ある能見物の日、兼見三左エ門(豊川悦史)は前触れなく独断で連子を刺殺。極刑を期待していた兼見ですが、老中津田民部(岸辺一徳)の口添えもあり、一年の蟄居の沙汰が下ります。家では亡き妻(戸田菜穂)の姪里尾(池脇千鶴)が、甲斐甲斐しく兼見の世話をします。蟄居が解かれたのち、兼見に下された沙汰は、近習頭取として役職に復帰、藩主の傍に仕えるという、不可解なものでした。

前半は丁寧に描いているものの、テンポがゆっくりなのがやや難点。しかし時代劇らしい所作や、テレビドラマでは難しい作り込んだセットなどが楽しめます。兼見夫妻の思い、里尾の兼見への思いが、楚々とした景色を背景に、情感豊かにしっとりと描かれます。兼見の一見唐突に見える行動も、里尾の「伯父さまは、死に場所を求めていらっしゃったのでしょうか」と言う言葉は、兼見の亡き妻への思い、武士としての藩を思う気持ちの全てが現れていたと思います。

冒頭で殺される連子ですが、回想シーンで何度も登場します。海坂藩史上、稀代の悪女だと思うのですが、本当にただの悪女。それにしては、藩主が骨抜きになる美貌や魅力に乏しいです。関めぐみには、荷が重かったかな?もっと背景に女の武器を使って成りあがらなければならない理由があるとか、もっとキャラに陰影が欲しかったと感じました。

それに比べ、突出した存在感を示したのは、藩主と対立する別家の帯屋隼人正役の吉川晃司。年相応の充分な貫録を示しながら若々しく、髷姿・馬に乗る姿も美しく、セリフ回しもカツゼツ良く、あんなに吉川晃司が素敵だとは思いませんでした。連子と反対に、隼人正に作り手の思惑以上に息吹きを吹き込んだのは、彼だったと思います。

後半の近習頭取となってからは、その理由の謎も解け、お話のテンポもアップ。「必死剣」に込められた意味が、最後で生きる展開です。同じく藩を思うはずの兼見と隼人正の間に起こったこと、妻を亡くし死に場所を求めていたはずだった兼見が、里尾によって、生きる希望を見出したその時に起こる顛末に、人の世の無常観が漂い胸に響きました。

ただ里尾の兼見への思いは充分描かれるのに、対する兼見の心の変化が描き込み不足。あれだけストイックだった兼見なのに、どうした心境の変化なのか、観ている方は複雑な気持ちに。ラストの里尾の姿は私の予想通りですが、あのための筋書きなら、ちょっと雑な気がします。

ラスト近くの大立ち回りには堪能しました。テレビドラマじゃ、やっぱりこうは行きませんから。久しぶりに良い時代劇を観たという気分にさせたのは、この大立ち回りのお陰でしょう。

トヨエツは今回は主役ながら地味な役柄ですが、持ち前の華やかさを抑えて、年齢より老けた感じが兼見のキャラに良く合って好演でした。入浴シーンで上半身を見せますが、変に作りこんでいない弛んだ皮膚が、兼見と言う人を表していたと思います。池脇千鶴は、う〜ん・・・。相変わらず上手いのですが、この役にはどうかと。ちょっと童顔過ぎて、出戻りの哀歓を感じませんでした。トヨエツとのコンビネーションは、妻役の戸田菜穂が良く合っていたので、ちーちゃんのイマイチ感が際立った気が、個人的にはします。

と、ちょろちょろ文句もあるのですが、武士の辛さや不条理、人の世の無常感が、そこそこのスケール感の中に上手く溶け込んでいる秀作だと思いました。


ケイケイ |MAILHomePage