ケイケイの映画日記
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あぁ〜面白かった。気分爽快、清涼飲料水のような作品。えっ?と思いますよね。爽やかさなんか微塵もない、やくざ映画のどこが?って。血生臭い暴力シーンのオンパレードに、気分が程良く高揚して行く自分に、改めてバイオレンスをテーマにした作品は、上級の娯楽映画になるのだと実感しました。監督は北野武。
関東一円を仕切る巨大暴力団の山王会。そこの若頭加藤(三浦友和)は、傘下の池元組と弱小暴力団村瀬組が盃を交わした事を怪しみ、組長池元(國村隼)に、村瀬組を締めろとせっつきます。池元は配下の大友組に丸投げ。面倒なことはいつも自分の組だと、組長の大友(ビートたけし)はぼやきますが、若頭水野(椎名桔平)以下組員に指示を出し、村瀬組との抗争がはじまります。しかしこれには山王会会長関内(北村総一郎)の思惑があり・・・。
ストーリーは至って簡単。ヤクザ社会の掟、上下関係、それに絡む陰謀や裏切り渦巻く世界を、行間を読む手間なんざ一切なく、潔いくらいの単細胞的演出で、めちゃくちゃ解り易く描いています。人殺しや殺傷、裏切る事に、良心の呵責も葛藤もなくイケイケドンドン。出演者は四つの組織入り乱れてかなりの人数ですが、名の知れた俳優を大挙使ったお陰で混乱も一切なし。キャラも似ているようで皆それぞれ違いがくっきり、この辺はキャスティングに演技巧者を集めた点が生きています。
てめぇ、このヤロー!バカヤロー!、舐めてんのかこのヤロー!、ぶっ殺されたいのかてめぇは!このどれかが三分間に一度は出てきます。あぁ〜気持ちいい〜。だってさ、実際現実にね、こんなこと言ったんさい?言いたい瞬間・相手は数あれど、言っちゃったら終わりですよ。そこをぐ〜と堪える。それをやくざさんたちが代わりに暴れてくれるのですね。ずっと大昔、作家の安部譲二が、「ヤクザの頃は金がなくて支払い出来ない時は、『無いものはねぇんダよ!』と凄んで開き直っていたけれど、頭を下げてすみませんと謝る事が、どれほど男らしくて大人であるのか、堅気になってようやくわかった」と書いていました。そう、ワタクシどもは皆大人。でも後先考えずに暴れたい時だってあるじゃんか。画面はそれのオンパレードです。
凄まじいバイオレンスシーンが売りだと聞いていましたが、私的にはまぁ色々見せてくれました、くらいかな?斬新と言うよりオーソドックスに物量作戦と言う感じ。それより血が噴き出しているのに、笑えるシーンが多数あったことが印象的でした。でもこの笑えるっていうのが、とてもリアルでね。当人は本当に痛いんでしょうが、遠巻きで観ていると滑稽なのです。恐怖と笑いは紙一重ってか?
「仁義なき戦い」シリーズを観た時も、これって「やくざで学ぼう、社会学」だなと思いましたが、30年弱経ってのこの作品も同じです。名前は「大友」ですが、組長大友は、かのシリーズの広野昌三的役回りでしょうか?弱小企業は言葉巧みに、吸収合併と言う名の廃業に追い込まれ、利権は大企業へ。その画策には配下の者を使い、上は手を汚さぬまま。「俺たちゃ、いつも貧乏くじだ・・・」という大友のため息に、思わず我が身を重ねる方がいるはずなのもいっしょです。所謂「しのぎ」も、覚せい剤が簡単に手に入る場面を描写、治外法権の大使館の使い方もなるほどと思い、上手く現実感も出せています。
「全員悪人」というキャッチコピーですが、悪党であっても悪人じゃ無い輩もいました。汚職賄賂まみれの小日向文世の刑事が、大友から「刑事っていいよな。弱くってもやくざに集れるんだから」と言われる時の目が印象的。あの目の意味は深いよ〜。最後まで何にもしないこいつが、結局一番狡猾で悪い奴なんだよなぁ。やくざより悪い刑事!この辺は脚本の妙味かと思いました(脚本も監督)。
「仁義なき戦い」シリーズでも、「代理戦争」辺りになると、上半身裸の菅原文太が、墨の入った背中を向けて振り返ると、それだけでもう目がハートになってしまったワタクシですが、今回はもう絶対椎名桔平!今まで達者な役者だとは認識していましたが、今回はもう惚れ惚れ。忠実な大友の部下役なんですが、案外見せ場が乏しいのに、その少ない見せ場全てがマックスの存在感でした。やっぱり男は40代だね。他に目を引いたのはインテリやくざの加勢亮。メークで眉を薄くしたのが酷薄そうな印象を受け、役柄にぴったり。中々はまっていました。
彼以外でも、だいたいやくざの役やると、男優はみんな生き生きすんのね。男優はやくざ、女優は娼婦を演じると絶対上手く演じると言われますが、作家の勝目梓は、「同時期の中上健治の才能に打ちのめされた。その上彼には書くべき部落というバックボーンがあるのに対し、自分は何も無い。暴力とセックスなら、誰もが持つ欲望であるから、自分にも書けるのじゃないか?」と思い、純文学からバイオレンス官能小説にシフトしていったとか。 潜在的に誰もが持つものだから、娯楽に成りえると言う訳ですね。
こう言う事書くと、眉をしかめる「良識ある方」もいらっしゃるでしょうが、この悪党どもが尽く最後どうなったか、ちゃんと映画は描いているので、その辺まで読み取って下さい。娯楽であっても、決して暴力を賛美している訳じゃないから。
一か所だけ濡れ場がありましたが、女はほとんど記号扱い、名の知れた女優も、大友の愛人役の板谷由夏だけでした。その濡れ場も当人の心情が伝わる場面で、この手の作品にありがちな男性観客へのサービス的な女優の使い方はなく、これは一見女はいらずと見せかけて、監督の女性への敬意と思っていいのかな?女が殴られる場面はなかったし、一蓮托生ではあっても、男に泣かされる女もいませんでした。
と、このように日頃の憂さが吹っ飛ぶ作品です。別に目新しさはないけど、このアベレージ感+αは、幅広い観客を取り込めるよう、監督が当てに行った作品だと感じました。とにかく私はストレス解消出来て大満足。間違っても賞を取るような作品じゃないけど、私はもう一回観てもいいわ。感動させるだけが映画にあらず、迷ってる奴ぁ映画館に行くんだぜ、このヤロー!!!
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