ケイケイの映画日記
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評判が良いので、急遽映画の日に観てきました。最近は、とうとう来ました、更年期・・・。という体調を整えるため、岩盤浴にはまっていて、週イチは通っているのですが、今週は用事がたくさんあって、涙を飲んで岩盤浴はパスしての鑑賞でした。が、岩盤浴に行った方が良かったかも。この手の老人や家族をテーマにした作品は、自分に近しい環境のため、滂沱の涙というのも珍しくないのですが、説明不足や次の展開への繋ぎが悪い様に感じ、最後まで乗れず、居心地が悪いまんまでした、監督は小林政広。ちょっと悪口も書くので、ネタバレ気味です。
北海道の寂れた海辺の村に暮らす忠男(仲代達矢)は元漁師。妻に先立たれ、一人娘は六年前に自殺。今は足の不自由な身で、19歳の孫娘の春(徳永えり)に世話をしてもらって生活しています。しかし、春が給食調理員として働いていた小学校が廃校。生活のため、春は都会に働きに出て、忠男は兄弟の誰かに引き取ってもらおうと、春は提案します。怒った忠男ですが、なす術がある訳でなし、長年疎遠だった兄弟たちを、春と共に訪ねて行く事にします。
予想通り、兄弟には兄弟の事情があり、ましてや長年疎遠だった兄弟が突然世話をしてくれと来たんですから、各々良い反応はありません。エピソード的には、どれも無理はないのですが、話の持って行き方の繋ぎが悪い。場当たり的と言うか、長弟を訪ねる際に、「清水」という女性を探すのに、入った食堂の女主人(田中裕子)がそうだったのですが、そのきっかけが、常連客が「清水さん、定食一つ」と注文するところから、糸口が。食堂のおばさんに、名字で呼び掛けるか?田中裕子を見つけ出す前の、小林薫との会話も、あれで見つけ出せるなんて都合良すぎ。
姉・淡島千景は旅館を経営していて、この不況下、満員御礼の日もあるほどなので、経営はそれなりに順調なはず。しかし「ここは働けないものには、居て貰っちゃ困るんだよ」と、愛情深くですが一蹴します。そして「今の不遇はお前自身が作ったんだ、だから春ちゃんだけは自由に。独りで生きなさい」と諭します。でもなぁ、確かに孫に甘えてばかりで、今までの我がままぶりも想像出来る勝手な爺さんですが、推定70半ばの、世話してもらったことしかない男の老人に、それはあまりに酷です。私はこれが弟のためになるなんて、思わないなぁ。突き放すには忠男は老い過ぎています。
「姉ちゃんだけには頭が上がらない」と苦笑いする忠男ですが、こんな冷たい姉ちゃんのどこが?ほとんど知らない春に女将修業はどうか?と持ちかけるのは、身内の情として由として、それなら忠男もいっしょに住まわせるのが普通だと思います。そして別れ際、春にお小遣いくらい持たせて当然なのでは?忠男の家庭の窮状はわかっているはずです。淡島千景の凛とした演技は素敵であっても、見過ごせない謎の造形の姉でした。
それに比べたら、長男の大滝秀治と末弟の柄本明のエピソードは良かったです。特に仲が悪くて今も取っ組み合いのけんかをするような間柄の弟が、今は自分も落ちぶれているのに、無理してホテルのスィートルームを取って、忠男と春を一晩泊めるのには、ホロッと来ました。妻(美保純)の「あの人に惚れ直した」というセリフも心に残ります。兄弟って、こういうもんでしょう?
そして祖父を観て、春は長年会っていなかった父(香川照之)に会いに行きます。語られる両親の離婚の原因を考えても、春は父が引き取るのが筋では?お蕎麦屋のエピソードから、色々推察出来ますが、お金には困っていない父親は、養育費は送っていたのでしょうか?ならあの窮状は?ここも父の再婚や春の母親の三回忌など、雑多なエピソードを語る割には、肝心な父娘の交流がどの程度だったのか、不透明。なので盛り上がるはずの春の慟哭も、今イチこちらに届きません。
言いたい事はわかるし、良い骨格なのですが、脚本が雑に感じました。饒舌に語らす割には、肝心のところは見えてこない描き方です。色んな方が書いている通り、あのラストの唐突さもいただけなかったです。
仲代達矢は、まぁ無学な元漁師にはちょっと見えなかったけど、素敵だったのでOK。いや〜、あんな素敵な老人に街で「お茶でも」なんて言われたら、喜んでついて行きそう。徳永えりは、大御所仲代に一歩も引かず、大健闘でしたが、終始がに股だったのが、最後まで謎。あれで地方の若い子の純朴さを表現したつもりなら、ピントがずれてます。
以上の理由で、私はあまり乗れませんでした。個人的には惜しい作品ですが、引っかかりのない方も多数いらっしゃる作品ですので、お確かめになって下さい。
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