ケイケイの映画日記
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パク・チャヌクの描く吸血鬼映画。毎度毎度「血」を描くことには心血注ぐパク監督、テーマがツゥー・マッチじゃございませんか。今回ヌードも見せるということで、10キロ減量したガンちゃんが男前だと評判ですが、現在の韓国映画界をしょって立つ大物ソン・ガンホに一歩も引けをとらない、つーか若干食っちゃってる感もある、新星キム・オクビンが素晴らしい!色々ごった煮で、楽しめる作品でした。
病院で重篤な患者たちを看取ることしかできない自分に無力を感じる神父サンヒョン(ソン・ガンホ)。彼は死を覚悟しながら、秘密に研究されている病の実験台になることにします。ほどなく彼も感染し死亡。するはずだったのですが、輸血で蘇ります。しかしその輸血の血の中に吸血鬼の血が混じっており、あろうことかサンヒョンは感染し、吸血鬼になってしまいます。町では奇跡の神父として崇められていたサンヒョンですが、幼馴染のガンウ(シン・ハギュン)とその母(キム・ヘスク)に頼まれ、ガンウの病室に出向くと、そこにはガンウの妻でやはり幼馴染のテジュ(キム・オクビン)がいました。
ガンちゃんは吸血鬼となっても聖職者として己を律し、殺人は犯しません。まぁ間違った血の入手方法ですが。それがテジュと不倫関係になってから、一気にタガが外れたように、背徳一直線になってしまいます。
幼い時に家族から置き去りにされ、ガンウの母に育てられたテジュ。私はもっとなぶり者にされて育ったのかと想像していたんですが、「犬のように育てられた」というのは、忠犬のように忠実に誠実に私たちには接するんだよ、ということでしょう。大しててひどい仕打ちをされているようには見えません。
テジュが日々鬱屈した感情を持て余し、行き所のないエネルギーが充満している描写の数々が上手い。のちのち出てくる彼女の性悪な気質も見え隠れさせています。そりゃこの娘に病弱で薄らバカの夫を宛がうなんて、無理だわなぁ。
二人が魅かれあうのは、二人とも親から捨てられたと言う共通項があったからかと思いました。サンヒョンは施設で育ち、神を親と思い暮らしていたでしょうが、今はこのザマ。テジュはもっと根深くその辛さを感じていたでしょう。韓国人は特に血に拘る民族で、親兄弟の顔も知らない育ち方の辛さは、日本の人の想像以上だと思います。「お腹いっぱいは食べさせてくれた」と言いながら、「私の誕生日は祝ってもらったことはない」と、義母を恨むテジュ。「私にはお前しかいない・・・」と言いながら、サンヒョンがテジュに施したことなどは、孤独からの恐れだと思うのです。
欲望に駆られる聖職者も出てくるし、一見罪を犯した聖職者の葛藤を描いているように感じますが、根本には親のいない者同士の連帯感があるんじゃないかと感じました。「私はキリスト教信者ではないわ」と嘯くテジュと、もはや神から見放されたサンヒョン。いつまでもウジウジしたサンヒョンと、輝くばかりに生き生きと変貌していくテジュの対照的な姿は、深読みすると、いくらキリスト教が布教しても、儒教的精神からは絶対に脱却出来ないんですよ、と言いいたのかも。義母の扱いにもそれが現れていました。
今回確かにガンちゃんは美青年で素敵でした。しかし点滴の管から血をチューチュー吸ったり、恋しいテジュの誘惑にタジタジなったりと、彼ならではの間の取り方とユーモアで、やっぱりガンちゃんはガンちゃんだと確認出来て、嬉しかったりします。
キム・オクビンは今回初めて観ましたが、いや素晴らしい!ヌードあり流血シーンあり特殊メイクありで、汚れ役と言ってもいいくらいなんですが、どのシーンもとてもチャーミングです。生気のない初登場シーンから、段々と魔性の女として変貌していく姿は、如何に今までの人生が抑圧されていたかと感じさせ、悪女っぷりにも応援したくなります。ただの性悪女では無いと表現した、ラストも良かったです。世界で二人っきりなんだよねぇ。
他はシン・ハギュンがすごーく良かったです。頭の弱い夫ですが、テジュを純朴に信頼しきっているのがよくわかります。彼が素直で可愛い亭主だったので、より二人の背徳感や罪悪感が身近に感じられました。義母役のヘスクは、ちょっと白石加代子に似てて、中々の怪演で楽しかったです。
出血大サービスの流血シーンは元より、バイオレンス、官能、ヴァンパイアの特性など、これでもかと過剰気味に描いています。でもチャヌクも段々手法が洗練されてきたというか、嫌悪感を抱かせず、上手くユーモアで緩ませていましたので、観易くなっています。でも気の弱い人は、やっぱり辞めた方が賢明かも?韓国映画らしい作品です。
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