ケイケイの映画日記
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2010年01月24日(日) 「誰がため」




私の素敵な映画友達の淑女たちを、ことごとく陥落させているマッツ・ミケルセン主演作。私が淑女かどうかはともかく、私もその理由で観てきました。先行で観た方々には賛否両論だったので、期待値下げた観たのが功を奏したのか、中々見応えのある作品で、私は良かったです。本国デンマークでは2008年度観客動員NO・1作品です。

1944年、ナチスの占領下に置かれているデンマークのコペンハーゲン。23歳の若いフラメン(トゥーレ・リントハート)と33歳の妻子のあるシトロン(マッツ・ミケルセン)は、レジスタンスとして活動しています。末端の活動家である彼らは、上層部からの指示で国を売る敵を暗殺していましたが、フラメンの恋人であるケティ(スティーネ・スティーンゲーゼ)暗殺を命じれてから、本当に売国奴を暗殺していたのか?という疑念が、二人に湧きます。

少し調べたのですが、デンマークはナチスが諸外国に「保護占領下」のモデルとして示す為、表面的には国民の日常は変わらなかったようです。しかし他国に侵略されているのには変わりなく、国民としての誇りや意地が、多数の人々をレジスタンスへと駆り立てたようです。

前半はテンポが遅いです。フラメンの独白で、この任務に対しての葛藤や鬱屈が語られ、相棒であるシトロンの背景も語られます。その他丁寧に登場人物が解説されるのですが、馴染みのないお国事情と歴史、たくさんの登場人物は、マッツ以外は馴染みのない俳優ばかりで、作品の基礎を頭に叩き込む事に必死で、内容を楽しめるまでには至りません。

しかしその苦痛を劇的に救うのが、マッツではなく意外やフラメン役のトゥーレ。実物の彼は北欧の人らしくプラチナブロンドみたいですが、この作品では上の画像の通り赤毛です。気品のある貴公子風の容姿から、冷徹な暗殺者でありながら良心の呵責に悩み、任務と愛する女性との私情の狭間に苦悩する姿は、スクリーンを引っ張る魅力に溢れています。前半はトゥーレを観ているだけで充分満足出来ました。

主に暗殺を担当していたのはフラメンで、妻子のある善き家庭人の側面を匂わすシトロンは、暗殺には逃げ腰です。それがレジスタンス一辺倒で家庭を顧みれない夫に、妻が愛想を尽かして逃げてしまってからは、脇目もふらず活動に入れ込む姿が哀しい。夫が国のための正義の使徒であるより、不穏な世の中の情勢の中、子供と自分を守ってくれる男性を妻が選ぶのは無理からぬこと。期待のマッツも妻子持ちの頃と別れてからの変貌は、何が彼をそうさせたか、静かに観客に訴える演技で、ファンとしては大満足でした。

同じ尊厳を抱き強い絆に結ばれたフラメンとシトロンが、自分達は利用されていたかも知れないと疑念を抱いた時、前半から受ける印象とは正反対の様子を示したのが印象深いです。動揺するフラメン。間違いはなかったんだと言い切るシトロン。愛する人を得た者と失った者の違いが、現れていたように思います。

誰が敵か味方かわからず、疑心暗鬼になる二人。この辺の心理戦は、主役二人が厚みのある演技で重苦しさを好演。しかし誰が黒幕か観客にはすぐわかります。普通のサスペンスなら下手な演出とこき下ろすところですが、この作品は史実に基づくもの。方や裕福なホテル経営者の、頭脳明晰な自慢の息子(フラメン)、方や平凡な善き家庭人であった父であり夫である男(シトロン)の人生を狂わせたのが何なのか?と行きつくと、やはりそれは戦争なのです。そう感じると娯楽として観る気分にはなれず、当時の二人の、自分達は利用されて人殺しをしていたのか?という、とてつもない苦悩に、心は同化していきます。

ちょっと気になるのは、運命の女ケティを演じるスティーネ・ステンゲーゼなんですが、かなり魅力不足。というか、はっきり言って容姿に不満が残るんです。パッと浮かんだのがオアシズの大久保佳代子な訳ね。そう思うともういけない。私は決して彼女を嫌いじゃないですが、あの男この男を手玉に取るファム・ファタールが、大久保佳代子じゃ気がそがれるでしょ?(大久保さん、ごめんね)。個人的にはここが最大の欠点でした。スティーネの画像がなかったので、これは大久保佳代子。この画像はスティーネに似てると思います。

暗殺現場に向かうフラメンを見送るのに、常に汗をかき神経を紛らわす為に酒が手放せなかったシトロンが、ラストにたった一人で繰り広げる銃撃戦が、私にはとても哀しかったです。シトロンが選んだ方法も切ない。生け捕りになると、どんな最後が待っているかを知っていたからでしょう。罪のない人々を手に掛けたことは確かな彼らが、何故民衆から英雄視されたかが、イマイチわかりませんが、デンマーク国民としての誇りを守った最後であったのは確かです。

「自慢の息子であったお前は、今は人殺しで英雄だ」と、フラメンに語る父。父子両方の身を切られる辛さがわかり、涙が出ました。人の運命を変えてしまうのが戦争だと、このことを強く感じることが出来さえすれば、少々描かれる国の事情に疎くても、戦時中を描いた作品を観た値打ちがあるのだと、私は思います。



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