ケイケイの映画日記
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2009年01月04日(日) 「ワールド・オブ・ライズ」




毎年お正月は、三日くらいに難波に出て夫婦で映画を観てきます。この作品は近場のラインシネマでもやっているので、私は心斎橋シネマートで上映中の「バンク・ジョブ」の方が良かったんですが、夫がこちらをチョイス。しかし映像の迫力は、大きいスクリーンの方が堪能出来る作品で、なんばTOHOでの鑑賞で正解でした。面白かったですけど、社会派娯楽作というより、単純に娯楽作として観た方が楽しめる作品のような気がします。

フェリス(レオナルド・ディカプリオ)は、中東に滞在し命の危険を顧みず情報を集めるCIAの工作員です。上司のホフマン(ラッセル・クロウ)は安全なアメリカに身を置き、彼に非情な命令を送り続けます。今の二人の標的は爆破行為を繰り返すテロ組織のリーダーであるアル・サリーム(アロン・アブドゥブール)を探し出すこと。ホフマンはヨルダンの諜報部のリーダーであるハニ(マーク・ストロング)に協力を要請すべく、フェリスにヨルダンに向かうように指示します。

とにかくアクションシーンも含めて映像が圧巻。爆撃シーンやら低飛行のヘリの様子やら、それを冷徹に監視し続ける大きなモニターなど、この辺はさすがリドリー・スコットと言う感じの華麗さです。弟のトニーがカチャカチャカメラワークをいじくり過ぎて、作り手はスタイリッシュを狙ったつもりが、目が疲れるだけじゃねーか!と言う事がしばしばあるんですが、リドリーの方は腰の座った撮り方というか、堪能かつ感心させられます。

次にいいのが登場人物のキャラがきちんと確立されていることです。非情な面も持ちあわせながら、義理や人情にも揺れ動く、やり手の諜報部員フェリスを、華も実力も着々とアップのレオがワイルドに好演。紳士然としてエレガントな風情から、切れ者の風格を漂わすハニ役ストロングもとても良かったです。「私には嘘は絶対つくな」「こうやって恩を売るのだ」という言葉からは、中東の思考というより、私はインテリ極道みたいだと思いましたが。この彼の思想というか信念が、ラストで効いてきます。

ストロングはアンディ・ガルシア似で、もっとスマートにした感じの人ですが、キザっぽさが若き日の津川雅彦にも似ているのだね。津川さんの方がもっと俗っぽかったですが。






しかーし!意外なことに私が一番良かったのはメタボで慇懃無礼、尊大にして冷酷な「俺様がアメリカだ!」と公言してはばからない、ホフマン役ラッソーでした。28キロも役作りのため太ったって、元々じゃがいもみたいない人ですから、そんなに変化は感じませんでした。憎々しいのですがね、仮面マイホームパパぶりさえ愛嬌があるお茶目ぶりで、レオやストロングにはない、堂々たる風格の大物感を漂わせて好演していました。この作品でも表現される、毎度お馴染み反省と自虐的なアメリカの自国感でしたが、どこかに救いを残したかったんでしょう、それはフェリスではなくアメリカに居座るホフマンで表現することで、監督は観客に光明を感じて欲しかったんではないでしょうか?

ラッソーってね、私は役者さんとしては好きなんですが、何と言うか、男性としてあまりに私の意識外の人なんでね(リドリー作品で大好きなのは「アメリカン・ギャングスター」のデンゼル様)、、彼が一番良かったというのはとっても意外でした。リドリーが信頼して何作も連投させる理由が、ようやくわかりました。

筋としてはレオの造形など少々甘いなと思う部分もあるし、あれだけ非情な事をして置いて、何人もの命も利用し奪っておきながら、良心との葛藤部分を、美しい女性とのロマンスで表現するのは、ちょっと虫が良い気がします。題名にある「嘘」も、国と国との壮大な狐と狸の化し合いも、それほど盛り上がったとも思えません。この作品を観て、中東やアメリカの関係が全部わかったような気がしては、いけないとも思いました。しかしながらそれを補うものが、主役である今のレオには充分ありです。脚本の甘さを監督の演出と実力を兼ね備えるスター俳優で補っていると感じたので、上記に書いた「社会派娯楽作」ではなく、お気楽に「娯楽作」として観た方が良いと書きました。

ハイテク機能による機密漏洩は、ますます容易になってるんだと思いきや、遠く離れた場所から衛星で中東を監視するアメリカに、テロ組織が撹乱させた方法は、とってもアナクロな方法でした。でも胸がすく思いがしたのは、私だけではありますまいて。


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