ケイケイの映画日記
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2008年09月09日(火) |
「next」(DVD鑑賞) |
先日のオフ会で、ピンク映画の巨匠・池島ゆたか監督のサポーターを自認されている、お友達の北京波さんよりいただいたDVDで鑑賞しました。「何でも観るなぁ」と、映画友達からはあきれらている私ですが、ピンク映画というカテゴリーは全く未見です。あちこち情報を集めていると、ピンク映画に秀作ありとはよく耳にしていたのですが、当然ながら、劇場に行くのが怖いわけでして・・・。
日活がロマンポルノに衣替えしたのが、私が小学生の頃です。それから数年も経たないうちに、キネ旬他各種映画祭で、ロマポ作品はベスト10の常連に。そうこうしているうちに、ドラマでもロマポ出身の女優さんたちが顔を見せるようになります。ぽっと出のタレントとは違うしっかりした演技に、私が感心の言葉を口にすると、亡くなった母は、「どんな映画も映画は映画。裸見せて、世間から格下に見られても、映画とテレビは違うんや。映画の水で鍛えられた人は、みんな一味違う」と答えました。母の言葉はとても意外でした。何故なら母は何事にも偏見が強く、まさかこんな言葉が返ってくるとは思っていなかったからです。娘からすると問題の多かった我が母なのですが、それだけに重みのあるこの言葉は、以降私の映画鑑賞の際の座右の銘となります。
という訳で、監督と北京波さんに敬意を表するため、僭越ながら感想を書かしていただきます。私には合わなくても、感想は書こうと思っていましたが(それが敬意)、素敵な作品で、正直ほっとしています。
ピンク映画に長年携わってきた老監督。今は死の淵にいる彼が、自分の人生に深く関わった三人の女性を絡めながら、回想する様子を描いています。その回想の仕方が、若かりし青春時代は叙事的に、老いては詩的にファンタジックにと、その強弱が上手い。映画と言う「夢」に賭けた一人の男性の生き様が、好意的にこちらに伝わります。
脚本もとてもしっかりしていました。青春時代の夢と挫折、そこからの再起、制作現場での意気込んだ様子などを無駄なく織り込み、死の床の老人を主軸に据えているにも拘わらず、私には「人生は長い青春だ」という風に感じられました。
単なるアダルトビデオとピンクの違いは、如何にセックス場面に人の心を表すか?ではないかと思われます。いや想像なんですが。その点その時々の場面で、セリフより雄弁に登場人物の心を語っており、女性でも観にくいことはありません。ただ私は、一般映画でも性愛場面はあまり好みではないので、ぼかしがあんなに薄いと、ちと恥ずかしいです。ただしピンクの主な観客は男性でしょうから、それは致し方ないかも。猥褻さで言えば、18禁ですが昨年一般公開された、「人が人を愛することのどうしようもなさ」の方が、上でした。
AVとの違いは、この作品でも上記の事を表すようなシーンが出てきて、若かりし頃の監督は屈辱を感じています。そしてその怒りが、彼を発奮させて、夢である映画監督にさせるという筋はなめらかでした。その他印象に残ったのは3Pシーン。コミカルな導入でしたが、終焉は哀愁漂うものでした。自分の放出後、好きな女性が長年のパートナーとの営みで、そこに愛を見せつけられる時ほど、哀しいものはないでしょう。私はピンク映画で、こんな哀しい男心を見せられるとは思っていなかったので、とても感心しました。
女優さんは、いわゆる美形ではありませんが、皆とても美しく撮れています。ピンクというカテゴリーからは当然なのでしょうが、私はもっと裸の姿ばかりが協調されていると思っていましたが、服を着ている時の方が、女性の私には魅力的に観えました。清楚でイノセントな監督のミューズ、長年の公私に渡ってのパートナーで、艶やかな大人の色香を漂わす妻、キュートで小悪魔的な青春時代の恋人と、描きわけもきちんと出来ており、それぞれの女優さんにファンがついているだろうと思わせるチャーミングさでした。個人的に妻役の人が表情や仕草など、演技的に一段格上を感じさせました。
映画が完成した時、監督はいつも開脚した股から逆さまになった世間を観ます。この癖は初心忘れるべからず、ということでしょうか?ラスト近くの白紙の台本ともに印象的です。100本以上撮った今でも、更なる飛躍を誓う、池島監督の気概のように感じました。
少し苦言を呈せば、監督のミューズが「エロい」という言葉を発しましたが、彼女の設定では、その言葉は知らないと思います。それより以前に、彼女にこの言葉は似つかわしくなく、単に「いやらしい」で良かったと思いました。男優さん達はそれぞれお芝居は上手でしたが、女性の視点では、女優さんに比べて、少し物足らなさが残ります。劇団の演出家、医師役の人などハンサムだったように思いますが。それと3Pの部屋に大きな液晶テレビが壁にかかっていましたが、あれも十数年前の回想場面だと思うので、映ったのは失敗だったかと思います。
しかしピンクの現場は、撮影は三日間と聞きました。それで60分の尺を撮るのは、大変な苦労があると想像に難くありません。なので、私の苦言もピンク初心者の戯言だと思って下さって結構です。
なかなか手応えのあるピンク初見作品でした。しかしそうは言えども、やはり劇場まで足を運ぶかというと、これはやっぱり難しいなぁ。私はレスリー・チャンがポルノ映画監督役で、映画への熱い情熱をたぎらせていた、「色情男女」がとても好きなのですが、池島監督で一般公開の日本版を、観たいなと思いました。
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