ケイケイの映画日記
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昨日観て来ました。タイトルから想像しにくいシニカルなホームドラマ風のコメディで、大変丹念に登場人物の心を掘り下げていて、好き嫌いは別として、全ての登場人物を理解出来る作りが好感が持てます。後半からは子供達の心を思い、ずっと胸が締め付けられていました。監督・脚本はノア・バームバック。女優のジェニファー・ジェーソン・リーの夫です。
1986年のブルックリン。父バーナード(ジェフ。ダニエルズ)は昔は新進気鋭、しかし今は落ちぶれた作家で、大学講師をしています。母ジョーン(ローラ・リニー)もまた作家で、近くニューヨーカ誌に華々しくデビューの運びの新進作家です。父親びいきの16歳のウォルター(ジェニー・アイゼンバーグ)と、母びいきのフランク(オーウェン・クライン)ですが、何年かの険悪な時間を過ぎ、両親は離婚。兄弟は共同監護という名目で、週の半分づつを両親の元で交替で暮らすことになります。行ったり来たりの生活にストレスを感じた彼らは、やがて問題行動を起こすことになります。
冒頭二手に分かれてのテニスのシーンで、容赦なくママ・弟チームをコテンパンにする父ちゃんの姿で、この父ちゃんがどんな人か、現在の家庭の雰囲気など、全部わかるようになっています。昔はこんなしょうもない勝負にムキになるところに、ママも少年ぽさを見出して嬉しかったんだろうなぁと、こわーい顔したママを観て思いました。
この父ちゃんが、ほんとーーーーーにダメで。自分が学位を持っていることや、知識や教養豊富なことを鼻にかけ、小説が売れないのは、難解過ぎて下々の者にはわからんのだとか。その割には内面は俗っぽ過ぎるほど俗っぽく、浮気を繰り返す女房を追い出すことも出来ない小心者です。空虚な中身のない話、文学などを織り込んでは、まだまだ世間知らずな長男の尊敬を集めています。でもホントに子供を思えば、母親が他の男と寝た話なんぞ、息子にはしないぞ。子供を味方につけたい母親がやる手ではないか。おー、女々しい。
ママの方も、鬱憤晴らしにあの男この男と浮気を繰り返すのは感心しません。それも息子の友達のパパなんて、信じられん・・・。だいたい母親が浮気してショックが大きいのは絶対男の子の方です。しかしちょっと彼女が理解も出来るのです。虚勢を張って仕事を選んでいる夫は、まずは自分第一で家族は二の次三の次でしょう。出会った頃の何でも知っていて尊敬できる人ではなくなっているのですね。でも愛のない浮気は虚しさが残るだけだと、ちゃんと学習もしているし、何より彼女がニューヨーカー誌に発表出来るまでの作家になったのは、こういう虚しさや結婚生活での心の傷を肥やしにして、乗り越えたからでしょう。その辺が頭でっかちで成長しないパパとは違うのです。
しかし両方とも「大人になりきれない親」であることには、変わりはありません。自分たちの都合で子供たちを振り回し、まだまだ親の加護が必要な子供を突き放すかと思えば、執拗に追い掛け回したり。でも観ていて共感は出来なくてもこの人達の気持ちが理解出来るのです。
私も心当たりがあるからです。大きくなった長男を観るママの眼差しは、幼い子を見る目なのです。成長した息子を見ているようで、幼い時の彼らを見ているのです。幼い子供ほど、親に生きる希望と力を与える物はありません。だからいつまでも幼い時分が忘れられないのです。それが高じて反作用する時もあるのです。こんなに愛しているのだからいいじゃない、私がいなければこの子たちは生きられないのだと、子供の気持ちを尊重せずに、口応えして反発する息子達の気持ちが、この親たちにはわからない。
子供にとっては、親は絶対的な存在です。親の離婚という試練を乗り越えて行く様子を、4歳の差を上手く使ってそれぞれに、異性や性を絡めて、親への慕情を効果的に使い描いています。
ダニエルズは、若い時はなんていうことのない俳優でしたが、この作品のパパは秀逸。ジェフ・ブリッジスみたいでした(褒めている)。演技派リニーは私が今一番好きな女優ですが、ほとんどノーメイクで崩壊家庭の主婦をさりげなく熱演。家族の修復を懇願する夫に対して、家庭とは妻と子供が二個イチであるのが当然と思っている夫と、夫と子供は別モノだと思う妻との深い溝を、一瞬の爆笑とその後の様子で表現でしていて、震えが来ました。
息子達二人も好感度大。実は弟の方が世間に長けて大人な兄弟なのですが、父の影響を受け頭でっかちで繊細、本当は誰よりママが好きな兄をアイゼンバーグが好演しています。弟を演じるクラインは、あのケビンク・ラインとフィービー・ケイツの息子です。ビール飲んだり奇行に走り、ちょっと変態っぽいこともするのですが、本当に可愛くて、まだまだ子供なのだと観ていて愛しさが募ります。
子供にとって親とはある年齢まで、何でも出来て守ってくれて、自分の世界の中心にデンと座っているものです。その絶対的だった親の弱さを見たり、バカさ加減を知る時、子供は幻滅した後、寂しく悲しく落胆するものです。そしてその時がお互い親離れ子離れの時なのです。父との別居の際母の頼りなさと世間知らずの数々を思い知った私は、何故こんなに頼りない自分を知らず子供を巻き込んだのかと憤慨した後、こんな頼りないのに、一生懸命私と妹を育てるのは、どんなに心細かったことだろうと受けいれた時が、私の本当の親離れでした。ラスト、母と観た「イカとクジラ」を食い入るように見つめるウォルターは、子供を振り回しながら依存する親たちの愛だけを受け入れ、きっと親を乗り越えていくことでしょう。
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