ケイケイの映画日記
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2006年08月14日(月) |
「プルートで朝食を」 |
観たくって観たくって観たくって、恋焦がれていた作品。何故なら内容中心で幅広く観ている私が、数少ないこの監督の作品ならばと思う、二ール・ジョーダンの新作だから。大阪ではテアトル梅田だけで上映で、予定は2週間。お盆の忙しさにかまけて見逃してはならじと、初日の初回に観て来ました。ふんわりふわふわとっても可愛い、だけど世間に流されず強固な自我を見せてくれる主人公に、泣き笑いしながら心洗われた二時間でした。
70年代のイギリス。IRAの独立運動が活発な最中、アイルランドの小さな町で赤ちゃんの時に教会に捨てられ養子に出されたパトリック(キリアン・マーフィー)は、自ら”キトゥン”と名乗り、「体は男、心は乙女」の自分を隠さず、好奇の目で観る世間も何のその、自分のスタイルを守って暮らしていました。養子先の母や姉には理解されず衝突ばかり、キトゥンはとうとう家を出ます。そしてミッツィ・ゲイナー似の美しい生みの母を求めて、ロンドンへと旅に出ます。
思い込んだら試練の道を、行くがオカマの生きる道。唯我独尊、少しの迷いもぶれもなく、なりたい自分生きたい自分の姿で突っ走る、痛快オカマちゃん一代記。男らしい男を望んでいた養子先に疎まれたり、学校でキツーイ「矯正教育」を受けたり、あの男この男との愛に破れても、どこ吹く風にみえるキトゥン。しかし「あなたが口先だけとはわかっていたわ。でも幸せだった。」「笑っていなければ哀しくて生きていけなかった」の言葉は、それまで強烈な自我を見せ付けてられていたので、ほんの一言二言が、ずしんと心に響きます。
キリアン・マーフィーが可愛くて可愛くて可愛くて!結構美形な彼ですが、骨格のしっかりした顔は、女装はちょっとしんどいかと思っていたのですが、(こんな顔↓) どうしてどうして、堂にいってます。アイルランド時代やロンドンに行った当初の様子は、大昔のピーター(池畑慎之介)のようなシスターボーイ風で、制服の襟や裾に飾りをしたり、お手製の服を着てみたりでお洒落心いっぱいの様子が、とっても女の子っぽいです。囁くような軽やかな話し方、動作の一つ一つがエレガントで、上目遣いもとっても可愛い。ノンケの男性が次々彼に骨抜きになるのですが、さもありなん。普通男性同士のラブシーンでは、どうも居心地悪くなることがあるのですが、この作品に限っては皆無。それほどマーフィーは、男の体に生まれた女の子を自然に演じていました。
最初はこんなの→
それが最終的にはこんな風に進化、いや変身します。美しい!↓
家出をしてからのキトゥンは、ホームレスまがいになったり、怪しげなマジシャン(スティーブン・レイ)の相棒にさせられたり、着ぐるみで着てダンスを踊ったり、果てはとうとう街娼にまでなってしまいます。しかし彼が落ちぶれたなんて、全然思わない。キトゥンは好きで苦難の道を歩いてるんです。わかるなぁ、私もそうだよ。好きで日本生まれの日本育ちなのに、韓国人のままなんだよ。何で帰化しないって?そんなの理由はありません。少々暮らしずらいことがあっても、ネットで謙韓派の煽りにむかっ腹立てたり、選挙権がなくっても、私は「日本生まれの韓国人の私」が好きなんだ。キトゥンだって、何があっても「女の子として生きたい」という、彼の決意は揺らぎません。自分の心を隠して男として生きる不自由さより、どんな犠牲を払っても、本当の自分を隠さないことが、キトゥンのプライドなのです。
キトゥンは「真剣」という言葉を嫌います。この作品の背景にはアイルランドの独立運動が描かれています。「真剣」に国を思った結果が、殺し合いだったり、市民を巻き添えにする惨事だったり。「真剣」に考えてそんなことするくらいだったら、もっと目の前の壁を克服するとを考えてちょうだいと、彼は思ったのかもしれません。社会的な差別を受けているであろう仲良しの黒人系(中東?)のチャーリーや彼が、運動に携わらない姿に、それが表れているように思えました。
確かに物事は「真剣」に考え過ぎると、寛容さがなくなるものです。オカマや未婚で妊娠した高校生、女性を愛した神父が許せない、町の「善良な人々」を見て、「スタンドアップ」の、シングルマザーで子供を産んだ、ジョージーのママのセリフが思い起こされます。「あの子が銀行強盗をしたの?子供を生むのがそんなにいけないことなの?」。真剣すぎると真剣さに振り回され、人は一番大切なことを見落としてしまうのかも知れません。
「シュガー・ベイビー・ラブ」「子犬のワルツ」など、当時のイギリスのヒット曲がバックにふんだんに流れ、真剣に考えればとっても悲惨、でも本人はとってもエンジョイしているキトゥンの人生を、カラフルに彩ってくれます。とにかく楽しくて元気が出る作品。キリアン・マーフィー一世一代の名演技とともに、是非楽しんで下さい。
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