ケイケイの映画日記
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2006年04月19日(水) 「ヒストリー・オブ・バイオレンス」


行って来ました、映画館。3/30日の「力道山」以来、20日ぶりです。「ブロークバック・マウンテン」とどちらにしようか迷ったのですが、私には監督としてはクローネンバーグ>リー、出演者もヴィゴ・モーテンセンやエド・ハリスなど、「男は40過ぎてから」派の私に向くキャスティングだったので、こちらにしました。術後16日なのに、梅田の駅から遥々離れたリーブルで鑑賞という暴挙に出ましたが、その甲斐のある作品でした。

アメリカの小さな片田舎。ダイナーを営むトム(ヴィゴ・モーテンセン)は、弁護士の妻エディ(マリア・ベロ)、息子ジャック、娘サラと共に、慎ましくも幸せに暮らしていました。ある日トムの店に凶悪犯二人が強盗に入り、トムが鮮やかな身のこなしで射殺します。店にいた客や従業員の証言から、彼は一躍町のヒーローに。マスコミに英雄視されるのをいやがるトム。そんなある日、彼の店に怪しげな男達(エド・ハリス他)が立ち寄ります。そしてトムに向い、「久しぶりだな、ジョーイ」と呼びかけます。ジョーイなる人物は元マフィアなのです。人違いだと否定するトム。しかしその後、夫を信じていた妻エディが、疑心暗鬼になる事件が起きます。

題材とキャストが面白そうだし、クローネンバーグが監督ということで、是非観たい作品でした。冒頭の凶悪犯の非情さや流血場面のリアルさに、チョロッとクローネンバーグっぽい感じがしますが、全体に変態趣味は薄く、しごく真っ当な仕上がりになっています。




以下ネタバレ**********












暴力は暴力で清算する様子に、暴力の否定が感じられます。その様子から、過去から人は逃げられないとの捉え方も出来るでしょうが、私はそう思いませんでした。

父親が英雄となり、普段いじめられているジャックが、相手を病院送りにするほど叩きのめしたのは、あれはトムの件が引き金でしょう。息子は父親から勇気を受けたと思っていますが、何度もGFに相手にするなと言われているし、以前の時は上手くかわしていました。必要以上に暴力だとトムは感じたので、口答えする息子を殴ったのだと思います。反対に思わずハリスを射殺したジャックを抱きしめたのは、命の危機に面していたから。だからこの時は、動揺しているはずの息子を抱きしめたのだと思いました。

トムはジョーイでしたが、サスペンスタッチのそのことより、以降の本当の夫・父の過去を知った家族の葛藤が軸に感じました。エディがハリスたちを一瞬にして倒す夫を見て、彼がジョーイだと確信するのは妻ならではの勘だと思います。そこには、見たことのない夫がいたのでしょう。前半で大きな子供がいるのに、仲睦まじい夫婦のセックシーンが出てきますが、夫の過去を知った後の、半ば暴力的な階段でのセックスのためだと思いました。

たとえ暴力的であっても、妻にとって長年肌を重ねた夫がそこにいたのではないでしょうか?過去は知らなくても、知り合ってからの夫に嘘はないことを、妻が感じる場面であったように思います。夫に応じる妻の様子にそれが表れていました。警官の疑問を即座に否定するかと思えば、また理性がそれをかき消してしまう。そんな妻の葛藤がよく描けていました。

ラストの家族での食卓場面は秀逸です。実の兄を含む組織の人間を殺しても、トムは家に帰ってきました。家庭に戻って来たこと、暴力を振るった息子を殴ったこと、兄を射殺した拳銃を池に投げ入れたことなど、私はトムはジョーイには戻らないと感じます。彼がジョーイに戻ったのは、相手から拳銃を向けられて、家庭を自分を守る時だけだったと思います。言わば正当防衛。暴力の連鎖を描きながら、過去の過ちを受け入れる隙間を与えた、良い脚本だったと思います。

モーテンセンは、いつものただもんじゃないオーラを封印、穏やかなトムと凄腕のジョーイの演じわけが上手かったです。それより感激したのがマリア・ベロ。普通の善良な妻を好演、彼女が演じたから、妻の葛藤にも説得力があったと思います。少々トウのたった人妻のお色気の付録つき。ウィリアム・ハートは数分の出演でオスカー候補だったそうですが、さもありなんの存在感と演技でした。でもそれならエド・ハリスも候補にして欲しかったかなと。悪役の彼は久しぶりに観ましたが、片目がつぶれてても、やっぱりこの人はいいわー。

悩みながら妻は夫を受け入れてくれるはずです。二度目の退院の時、誰の付き添いもなく一人でトムが傷を抱えて退院する時、私は胸が締め付けられました。画面に描かれなかった妻ですが、きっとあの時、エディも辛かったと思うから。


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