ケイケイの映画日記
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ラインシネマでやっているので、気軽に仕事帰りに観るつもりでしたが、3時間近くの長尺と知り仕事休みの昨日観てきました。前評判も上々、スピルバーグの最高傑作という方もいて期待していましたが、確かに3時間近くだれることなく緊張感が続き、力のこもった秀作でした。
1972年のミュンヘンオリンピック。武装したパレスチナのテロリスト「黒い九月」が選手村を襲い、最終的にはイスラエルの代表選手11人が殺害されます。このことによりイスラエル政府は報復措置として、襲撃に加わったテロリストの殺害を決定。選ばれたのは5人、リーダーは諜報機関「モサド」から出産間近い妻のいるアヴナー(エリック・バナ)が指名されます。彼らは金で買った情報を頼りに、ヨーロッパ各地に点在するターゲットを次々仕留めていくのですが・・・。
1972年といえば私は小5で、ぼちぼち新聞を読みニュース番組も見だした頃、この事件も記憶にあります。アメリカ代表の水泳選手で、何個金メダルが取れるか期待されていたマーク・スピッツもユダヤ人だということで、厳重に保護されていた記憶があり、私がパレスチナとイスラエルの険悪な関係を知ったのは、この事件がきっかけであったように思います。
しかし政治の話には疎い私、どれくらい理解出来るのかとの危惧もありました。ハムラビ法典並みの報復を政府が決めるなんて恐ろしいと思いつつ観ている私は、あるシーンで立ち止まります。「暗殺者として生きている間、君の存在はこの国ではない。」と言われるアヴナー。何もかも抹消されて国を出される彼らには、大金が渡されるだけで、綿密な作戦も資料も手渡されません。そして「ちゃんと領収書を渡してくれ。ドイツ系のユダヤ人に無駄遣いはさせない。」と言われ、「僕はイスラエルで生まれ育った」と反論するアヴナーですが、「父親はドイツから来たのだろう」と厭味のこもった言葉が返ってきます。私ももし韓国で暮らすことがあったなら、「日本で生まれた育った奴は信用ならん」と言われるだろうなと苦笑しつつ、ある思いに駆られました。監督のスピルバーグはアメリカ系ユダヤ人。アヴナーの姿に自分を投影していたのではないかと。アメリカで暮らしながら、自分の血である人々が建国したイスラエルを、宙ぶらりんのように見つめるスピルバーグを見た気がしました。
最初常に五人で行動するは、作った爆弾の火薬の量を間違え、仲間の命まで危なくするは、上手く爆弾が点かないと面割れもなんのその、敵地に堂々と乗り込むなど、あまりに不細工な工作の仕方に唖然としました。ここはスパイ映画並みに華麗とまではいかなくても、もっと熟練した手練手管で見せ場にするはずなのに、何故と思いました。
アヴナーはこの任務を請け負うまで、人を殺したことはありませんでした。偽造パスポートの名手だったり、射撃の腕がすごかったり、爆弾を作ったり、「死体の掃除屋」であるメンバーも、もしかしたら素人に毛が生えた程度の人だったのではないかと思うと、この垢抜けない足のつきまくる暗殺の仕方は、俄然リアリティが感じられるのです。こんな暗殺者として未熟な人たちに任務を任せる国の恐ろしさ。マチュー・カソビッツ演じるロバートの告白が、一層その感を強くします。そう思い出すと、血の噴出し方、死に方などの生々しさとともに、彼らの凄まじい緊張感が観るものに伝わります。
最初は標的以外には火の粉が降りかからぬよう案じていた彼らが、段々と関係ない人々を巻き込むのも平気になり、標的を追い詰めていた彼らが、今度は自分達がターゲットになったのを知り、神経をすり減らし何のための任務か苦悩し葛藤します。自分のしたことの意義を感じたいのに、彼らには冷酷な国。利用価値がある時だけ必要な、元々捨石扱いだったわけです。政治的にはパレスチナにもイスラエルにも偏らず、むしろどこの国でも考えられる、国家対個人に焦点を合わせた描き方に感じました。
前半仲睦まじいアヴナー夫婦の、妻が妊娠中の営みが描かれていて何のためかな?と思っていましたが、ラストの方、帰還したアヴナー夫婦の営みのとの違いの対比だったようです。暗殺を経験して平凡で誠実なアヴナーには戻れないことを的確に表現していた、見応えのあるシーンでした。妻がアヴナーにたった一言、「愛しているわ。」と言うのが、私にはものすごく救いでした。
エリック・バナはアヴナーの変化を誠実に演じて好演。ラストまでだれずに観られたのは彼の功績が大です。ただ何故彼がリーダーに選ばれたのか、その辺がイマイチわからず、説明があればと思いました。メンバーの一人で、最後まで心がぶれず任務に非情に徹したスティーブに、時期ボンドのダニエル・クレイグ。何故彼だけが他のメンバーと違い、心がぶれなかったのかの描写もあれば良かったかな?と思います。クレイグはこの作品では好演でした。しかしボンドはどうかなぁ。少々アクが強いように思いますし、歴代のボンド役者のようなセクシーさやダンディさなど、男としての洗練度に落ちる気がします。私の予想がはずれていると良いのですが。
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