ケイケイの映画日記
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2005年11月24日(木) 「あんにょん・サヨナラ」

今年の釜山国際映画祭・ドキュメンタリー部門の最優秀作品。この作品のことは全然知らなくて、ネットでお付き合いさせていただいている神宮寺誠さんのサイトに遊びに行き、偶然知りました。神宮寺さんの感想にとても興味を引かれ、公式HPに飛んでみると、私の住む生野区の区民ホールで11/23日に上映となっており、昨日駆けつけた次第です。上映形態は自主上映の形で、小学校の講堂のようなホールにパイプ椅子を並べての鑑賞でしたが、主催者側の方のご挨拶に拍手が沸き、上映開始、上映終了後も拍手が沸きました。やはり一人で鑑賞するビデオやテレビと違い、映画という形での鑑賞は良いものですね。日韓合作の作品。想像以上に立派な作品で感激しました。

韓国に住むイ・ヘジャさん(62歳)は、1歳の時父親を徴兵され、以降生死もわからず辛い日々を送りながら生きていました。結婚し子供の手が離れたのを期に、父の消息を探すようになり、1992年に中国で戦死したと知ります。そして父が日本軍の英霊として靖国神社に祀られていることも知り、2001年に合祀取り下げの申し入れをしますが、却下。そんな彼女に、韓国人の戦後保障の問題を支援する古川雅基さん初め、多くの日本人が支えています。

この作品はヘジャさんの問題を軸に、靖国の成り立ちから解説、沖縄のひめゆり部隊の生き残りの方、在韓のハンセン氏病患者の方から聞く当時の話、靖国の合祀取り下げを要請する多くの日本の方、在韓従軍慰安婦の皆さんのインタビューを盛り込んでいます。そして日韓だけではなく、古川さんが中国へ渡り、戦時中を生き残った方々にもインタビューしています。

私は日本生まれの韓国人ということで、イマイチ本国の人の気持ちが掴めない時が往々にしてあり、戦後保障の問題にしても正直いつまで言うのだ、戦後何年たっているんだと言う気持ちがありました。さりとて日本の人の靖国や教科書問題に関しての「内政干渉」と言い切る言葉にも、良き未来のために過去に何があったか知ることは重要だという思いがあり、納得出来ない思いもありました。戦後保障の問題の疑問はこの映画で一発で解消。一言で言えば種々の提訴している方々には、まだ戦争は終わっていないのです。

この作品では日韓中台湾の市井の老若の方々初め、学者、市民グループ、靖国の参拝を守る方々まで幅広くインタビューを挿入しています。合祀取り下げの方を軸にはしているのですが、決して参拝を賛成する人を糾弾することなく、時間を割いてご意見も紹介しています。靖国問題についての考えを、見る者に委ねる方式です。

第二次大戦はアジアの国々を白人の植民地支配から守った聖戦だと語る若い男性がいます。そういう考え方があるのは知っていました。が、夏に原爆を開発した科学者が来日し、被爆した方と対面したドキュメントを見たおり、「私は謝る気はない。原爆投下で日本は降伏したのだから、あの投下は正しかった。日本を救ったのだから」。失望を禁じえない被爆者の方を見て、私も憤りを感じたことを思い出しました。若い男性はこの科学者の言葉をどう聞くのだろうと思います。しかし考えてみると、ヘジャさんや多くの戦争を引きづる韓国人の気持ちが理解出来、科学者に怒る私は、両方の国の人々が理解出来るということです。両方の国の心がわからないのではく、両方の国が理解出来る、これが私の特性であり個性であるわけです。

南京大虐殺の展示場を訪れた古川さんが、手足を釘で打ち付けられて死んで行った子供の遺骨の前で、何度も「ごめんなさい」とつぶやかれます。私は加害者側の子孫が全く責任を感じないのもおかしいですが、さりとて謝る必要も無いと思っていました。しかしこの古川さんの行為に咄嗟に私の胸に浮かんだ言葉は「ありがとう」でした。「ありがとう」の理由は、上映終了後の古川さんのご挨拶の時にわかりました。「『ごめんなさい』の後の続く言葉は、『2度と繰り返しません』です」。

私が涙が止まらなかったのは、父の死後いかに母とヘジャさんが苦労したか、夫を父を恋しく思った姿と、兄の合祀取り下げを要請している老婦人が語る、息子を戦争で失った自分の母の哀しみを語るときでした。誰にも理解出来る同等の哀しみに、国の違いはありません。歴史観には様々な認識がありますが、事実はたった一つではないか?まず事実を見ることが大切なのではないか、そう感じました。

阪神大震災の時来日した時は、「犠牲者の冥福を祈る。しかし日本に罰が下ったのだ」とすさまじい言葉を吐いたヘジャさんが、韓国が国益重視のため、戦後の苦しみから抜け出せない自分達を見捨てた中、支援してくれる多くの日本人と接するうち、「日本を許そうと思う。日本にもたくさん良い人がいる。」とまで変化します。そんなたくさんの日本の人がいることを、私は全く知りませんでした。マスコミも伝えていないと思います。

お互いがお互いを理解し、被害者側加害者側が手を携えて乗り越えていくことで、真の平和は来るのだというメッセージを作品から受け取りました。愛国心イコール軍国主義のように受け取られがちですが、本当に自分の国を愛し平和を愛する人は、他国の人が自国を愛する気持ちを尊重するはずです。

この作品の韓国人が日本一たくさん住んでいる生野区での上映に尽力されたのは、車椅子の在日の方でした。私がアンケートを記入している横で友人とお話されていましたが、「日本の人がこんなに韓国人のために頑張ってるのに、俺らもなんか頑張らなあかんやろ。」と笑顔で話されていました。そう私も頑張らなくちゃ。お互いの国の人を真に理解してもらうよう努力するのは、在日の義務なのだから。上映形態は自主上映で、金額的には観客動員一人につき、500円のバックだそうです。私の感想を読んで自分の街で是非上映したいという方がいらっしゃれば、とても嬉しいです。以下に神宮寺さんのサイトと、「あんにょん・サヨナラ」の公式HPを記しますので、よろしくお願い致します。


「神宮寺表参道映画館」

「あんにょん・サヨナラ」





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