ケイケイの映画日記
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2005年08月27日(土) |
「愛についてのキンゼイ・レポート」 |
皆様、お久しぶりでございます。今日や〜〜〜っと、2週間ぶりに映画館に行きました。妖怪の次はゾンビ(『ランド・オブ・ザ・デッド』)の予定でしたが、予定は未定、3時15分からのシネフェスタ上映に間に合わず、観たい作品目白押しの残暑、観たい順位はトップの4時20分パラダイススクエアでの上映のこの作品にしました。キンゼイ博士の講義の最中、男女の性器がボカシなしで映されることに話題が集まっていますが、 年齢・性別・人種のわけ隔てなく、18000人のアメリカ人に性についてのアンケートを行い、生涯を性の研究に捧げた、実在のキンゼイ博士のとても真面目なお話を、面白おかしくでなく、興味深く真摯に描いた作品です。 監督・脚本は「ゴッド・アンド・モンスター」のビル・コンドイ。
40〜50年代のアメリカ。厳格なエンジニアの父(ジョン・リスゴー)から、同じエンジニアになることを熱望されていたアルフレッド・キンゼイ(リーアム・ニーソン)は、生物学への夢絶ちがたく、父に背いて生物学を勉強すべくボードン大学に移り、さらにはハーバード大学で博士号を取り、今はインディアナ大学で教鞭を取っています。研究のテーマはタマバチという地味なものですが、似たように見えるタマバチの、各々の個性を重んじる彼の講義に魅せられたのが、生徒の一人クララ(ローラ・リニー)。急速に距離を縮める二人は、のちに結婚します。しかしお互い初めてであったため、初夜に失敗します。前向きなキンゼイは、専門家に相談し、まずは最初の危機を乗り越えるます。やがてキンゼイは、学生たちの多くが性について悩みを持つのを知ります。それがきっかけで、彼はインタビューを通して性についてのレポートをまとめようと決心します。
どうしてもテーマがテーマなので、品格を落とさず観客に博士の熱意を伝えるのは至難の業です。脚本や演出とともに、出演俳優の持つイメージは、演技力と共にとても大切です。その点では、この作品のキャスティングはこれ以上ないものです。キンゼイ博士には、威厳と風格を併せ持ちながら、人に与える印象は柔らかい知性を感じさせるニーソンで、少々常軌を逸した博士の熱意が、決して狂気ではなく、法外な情熱として観客に伝わります。
妻役のリニーは、さすがに40過ぎの彼女では、ほとんどノーメイクで大学院生役を演じるのは厳しい感もありましたが、それもすぐ気にならなくなります。あまりに当時の価値観から逸脱した夫を支える苦労は並大抵ではなかったはずで、彼女の喜び哀しみ、戸惑いが充分伝わってきます。最後までキンゼイの良き理解者であり、深い愛を捧げることが出来たのは、決して彼に振り回されたのではなく、彼女の強い意志がそこにあったからだと思います。一見夫唱婦随に見えますが、私はこの二人から、「夫婦は対等」の意味を教えてもらった気がします。
三人のキンゼイの助手に、ピーター・サースガード、ティモシー・ハットン、クリス・オドネル。三者三様の清潔感のある男性的魅力と知性を感じさせ、私も素直にインタビューに答えてしまいそうで、博士の優秀な助手として合格でした。中でもサースガードが素晴らしい!見逃した「ニュースの天才」の演技が大評判でしたが、取り立ててハンサムでもなく、むしろ好感が持たれにくい容姿ですが、夫婦両方と関係してしまう難しい役柄を、繊細な演技でいやみなく共感の持てる人物に演じています。
博士の研究が世のため人のためと燃えているのはわかりますが、性には人の感情や心も大切で、いささかそれを軽んじているように思わす作りです。実際そのためマスコミの煽りを受けたり、性をただの快感を伴う排泄行為としてしか考えていない輩が、キンゼイの理解者だと名乗りをあげたり、スタッフ間の感情の亀裂を生んだり、博士の強引な研究方法に疑問が沸いてくるのですが、それには監督の狙いがありました。
最後にインタビューを受ける、お婆さんになっても素敵な素敵なリン・レッドグレープの言葉と、助手からのインタビューで、愛について問われるキンゼイの言葉は、観客にキンゼイの研究の意義・真意を汲み取るように出来ています。キンゼイは変人で、人間らしい感情から外れた人に見えますが、彼が性について研究しようと思ったのは、妻と営んでいる豊かな性生活を、世間の人にもおくって欲しいと思ったからのはず。そこには体の相性以上に、信頼関係と深い愛情が必要なのを、この夫婦はしっかり認識していたのですね。
性の嗜好は人それぞれ、色々あっていいのだと、観た後元々薄かった偏見が更に薄まりました。キンゼイが確執があった父親を理解出来たのが、インタビューからだったシーンは、性が人を理解する糸口となり、人生と深く関わるものだとの認識をもっと深くしてくれます。何にしてもパイオニアは大変ですね。いくら研究のためとはいえ、自分がセックスしているところをビデオに撮ったり、スワッピングはいやですが、私もインタビューには答えてもいいかなと思います。ただし、知らない人限定!
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