ケイケイの映画日記
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タイトルの「甘い人生」など真っ赤な大嘘、極道一直線作品。前々から約束していた韓流ドラマ好きの友人二人と三人で観て来ました。韓流ドラマは一つも観ていないワタクシ、血生臭く極道の哀愁に満ちたこの作品は大いに気に入りましたが、友人たちのドン引きが気の毒で。キャッチコピーは「命がけで愛した人を守る究極のラブストーリー」。嘘つくんじゃねーよ!
一流ホテルの総マネージャーであるソヌ(イ・ビョンホン)は、裏社会でも力を持つ社長のカン(キム・ヨンチョル)にとっては、両方の世界での片腕でもあります。ある日カンは、自分が中国に出張中に若い愛人であるヒス(シン・ミナ)の動向を見張るように命令します。最近浮気をしているようなので、現場を見つけたら二人とも殺すようにも命じます。ヒスを尾行したり彼女の世話をする内、彼女へのほのかな恋心が芽生えたソヌは、ヒスの浮気現場を押さえながら、二度度会わないことを条件に見逃します。しかしこの時ボスの命令に背く一瞬のこの判断が、彼の人生を狂わす事柄に発展するとは、思いもよらなかったのです。
というストーリーなのでてっきり私は女連れで逃亡すると思ったら、一人ぼっちで戦うのね。しかし寝たわけでもない、キスはおろか手も握ったこともない女のため、人生を狂わせるクールガイの戦いは、守るものが不確かな分、自分でも何故こうなったのかの自問自答の繰り返しです。だから一人で戦うはポイント高し。冷徹に生きてきたはずの一人の極道の一瞬の血の通った迷いに、素直に彼の心に沿えるよう上手く演出出来ています。
表社会でものしあがったカンは、住む世界が違うとでもいうように、チンピラまがいの小賢しいやくざは相手にしようとしません。しかし自分の意に沿わぬことをしたソヌの行為を、執拗に粘着質にそして凄惨にあらゆる手を尽くして制裁を加える姿は、所詮やくざはやくざ、結局はその辺のゴロツキと変わらぬ同じ穴のムジナであることを示しています。カンがチェリストでもあるヒスを愛したのは、文化的なことに憧れ、自分の内面の下卑た部分を埋めるためでもあったように感じました。
しかしここで問題なのはヒロインのヒスを演じるシン・ミナ。二人の大物極道の人生を無自覚に破滅させるファム・ファタールを演じるには魅力が不足しています。初登場シーンでこそ長い足を惜しげなく見せ、あわやパンチラのシーンもありで小悪魔ぶりを印象付けたいのでしょうが如何せん田舎くさくて、言葉は悪いですが小便臭い感じです。チェリストであるとの設定にしても、優雅さや品の良い清楚さに欠け、美しさが不足しています。故にゴージャス美女に囲まれた生活を送れるであろう二人の男が、彼女に惹かれたというのがイマイチ説得力に欠けます。
そして謎のまま終わる何故カンの愛人になったかと言う理由。音楽家としてスポンサーになって欲しかったのか、実家への援助が欲しかったのか、何も描かれていません。ですから命がけのはずの浮気相手への気持ちの説明がつきません。他は武器商人とソヌが相対する場面では、ご都合主義ありまくりの展開で終始し、「人を愛したことがない」と表現されるソヌが何故そうなったのかの説明もないまま。「箪笥」でも見られたキム・ジウン監督のいいかげんさが露呈されています。
しかしこれらのことを不問にしていいほど、ビョンホンが魅力溢れています。目にも鮮やかな回し蹴りやカッコいいスーツ姿や軽業師のような身のこなしが決まると思えば、凄惨なリンチに合う場面では、怖気づいたり血みどろになりながら、やるかやられるか、決して堅気ではわからなぬ極道の道しかしらぬ男の、後には引けない哀しさを感じます。後半から血のオンパレードで、気の弱い方なら見ておれぬシーンも続出ですが、「復讐者に憐れみを」と違うのは、これはやくざ社会を描いた作品だということ。バイオレンスに描いても嫌悪感はありません。派手な銃撃戦も見応えがありました。
冒頭チョコケーキを頬ばったり、デミタスコーヒーに大きな角砂糖を入れたり、ソヌは甘党だと言うのがわかりますが、甘党で切れ者のやくざという面白い設定を生かす場面はありませんでした。しかし2時間大画面を一人で引っ張るスターとしての華に溢れたビョンホンを観ながら、大した人だと感心しました。上の書いた難点も含め、気に入りましたが傑作とは言えませんが、優れたスター映画であるとは言い切れます。おば様方に人気の韓流俳優に偏見を持つ方々、まずはご覧下さい、きっと人気の一端がご理解いただけるかと思います。
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