ケイケイの映画日記
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2005年02月25日(金) 「ニワトリはハダシだ」

うぉー、良かった!と雄叫びを上げたくなる快作でした。昨日シネフェスタで観てきました。え?ここは何ぼなんでも雑なんちゃう?という箇所も1,2,3,4・・・。しかし、えーい小さいこと言うな!せこいことにこだわらんと、このバイタリティを見習わんかい!と、スクリーン狭しと豪快に楽しくお説教されている気分でした。

京都・舞鶴。知的障害のある15才のサム(勇)は、潜水夫の父と共に暮らしています。在日朝鮮人の母は、サムに対する教育方針の違いから、妹チャル(千春)を連れ近所に別居しています。元気に養護学校に通うサムは、担任の直子先生が大好きです。今世間は検察と暴力団の癒着が関心の的で、その事件にかかわっている検事は直子先生の母の兄で、捜索しているのは、直子先生の父である警部でした。その頃暴力団重山組組長が検事に賄賂として送ったベンツが盗難されます。その中には機密費の帳簿が入っていました。偶然そのベンツに乗り込んだサムは、帳簿を丸暗記してしまいます。そのことが明るみに出ると困る警察と暴力団の両方からサムは追われ、両親と直子先生は、体を張ってサムを守ります。

私は舞鶴には行ったことがないのですが、あまりの古いというか懐かしいというか、昔ながらの街並みがそこかしこに残っているのにびっくり。劇中でも「岸壁の母」が流れますが、それがぴったりの風情です。確かに底辺の匂いがするのでが、明るさや人情の方が全面に出ていました。

登場人物のキャラがとにかく魅力的。サムはちょっと目には障害はないように見えますが、抜群の暗記力が特徴なので自閉症でしょうか?多動症、感情をコントロールするのが苦手など、障害児独特の様子を写しながらも、伸びやかさが強調されています。チャルと共に鳥の羽の張りぼてをつけて遊ぶ様子に、それが表れていました。チャルは本当に可愛い!おしゃまでお喋りで、こちらも自然児でした。

父と母の原田芳雄と倍賞美津子は共に60歳前後で、年齢的にはチチハハではなくジジババなのですが、スケールが大きく人間的な豊かさ、そして愛嬌が必要とされるこの役にはぴったりです。以前ダウン症児のおられる方から聞いたのですが、ドラマや本では美談仕立てが多いが、本当は障害児が生まれると、離婚する家庭も多いのだと仰っていました。サムが一人前に自立できるよう潜水夫の修行をさす男親らしい厳しさと、母親を恋しがる息子に「サムに嫌われたら、チチは生きている意味がないわ。」とふてくされたり、何より別居時に手のかかる障害児を手放さなかった彼に、息子への深い愛が感じられます。

「ニワトリハダシだ」と言うのは、わかりきったことの例えだそう。「あんた、結婚する時、私がチョンでもええか?って聞いたら、にわとりははだしやって言うたなぁ。」と言う母。そんなわかりきったこと、承知の上だということでしょうか?きっとこの夫なら障害児を生んだ妻に、心無い言葉など言わなかったでしょう。

直子先生を演じるのは新人の肘井美佳。並み居るお歴々の中で、恐れ多くも出演者トップに名前が出ます。期待に恥じない演技で、元気いっぱい素直さと与える愛の豊かさがとても好感が持てます。喜怒哀楽のはっきりした猪突猛進の女性で、相手が権力者であろうがやくざであろうが、殴られようが一向にひるまず、殴る蹴る噛み付くと言う素晴らしさ。一発殴られたら三発殴り返すようなたくましさで、痛快でした。これはサムの母もいっしょで、息子を羽交い絞めにするやくざに包丁を持って応戦するなど、女性の描き方が私のツボにどんぴしゃで、最近これほど愉快に思って観たヒロインたちはいません。

肝心の盗難車や機密書類の扱いがご都合主義で雑ですが、まぁええわい。市井以下の底辺とも言える人々の、体を張って生き抜く姿を、お涙頂戴ではなく、猥雑な風景の中、弾けんばかりのエネルギーと明るさと笑いで描いた作品です。直子先生の母が、「布袋さんはな、時々知恵の薄い人のふりをして
この世に出てきはるねん。あの子ら(養護学校の子たち)だけが、あんたを救えるんよ。」と、仕事を続けるよう娘に言います。サムの母が彼らのために作ろうとしているような授産所が、うちの近所にもあります。ずっと昔から50歳になったらそこで働きたいと思っている私ですが、この言葉に、なるほど私は救われたかったのかと思った次第。直子先生の気性は、とっても私に似てるし。容姿が似てたらもっと良かったのに。


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