ケイケイの映画日記
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2005年01月02日(日) |
「マイ・ボディガード」 |
2005年の初映画です。昨年は3日の日に、十三のナナゲイまでフェリーニ特集の「カビリアの夜」を張り切って観に行くも、正直めでたさも中くらいの感じでしたが、今年は近くのラインシネマでお手軽でしたが、これがスマッシュヒット。初映画から涙がこみ上げ、縁起がいいんだか悪いんだか。でも泣ける映画が大好きな私ですから、今年も良い作品にめぐり会えそうです。
クリーシー(デンゼル・ワシントン)は、16年間米軍のテロ対策の特殊部隊に所属し、暗殺の仕事に従事していました。そのため心を病み希望のない日々を酒で紛らわし、辛うじて生きています。ある日今はメキシコで妻子と暮らす部隊の先輩レイバーン(クリストファー・ウォーケン)から、誘拐の多発するメキシコで、実業家の9歳の娘・ピタ(ダコタ・ファニング)の護衛の仕事を紹介されます。無邪気で愛らしいピタと接するうち、人生から消えうせていた笑みや希望を見出すクリーシー。穏やかな日々がずっと続くと思われていたある日、ピタが誘拐されてしまいます。
原作はA・Jクィネルの「燃える男」(「man on fire」)。 私は未読ですが、多分長尺の原作なのでしょう、前半のクリーシーとピタが心を通わせる部分が、駆け足で描かれているように感じます。しかし初めてクリーシーがピタに笑顔を見せる場面、水泳大会のため、ピタを特訓する様子など要所は丹念に描く心得た演出です。それにデンゼルとダコタの演技が上手く重なり、二人が信頼関係を築くのに無理を感じさせません。
同様にクリーシーの特殊部隊時代のトラウマも、具体的に何があったとは出て来ません。その苦悩から自殺しようとする場面も出てきますが、ピタの護衛を勤めている初めの頃で、順番とすればそれ以前に見せて欲しかったのですが、デンゼルの演技力でそれをカバー。直後に電話を受けるウォーケンの暖かみのある演技が心に染み、これもそれほど気になりませんでした。
クリーシーを暖かく見守るレイバーン役のウォーケンですが、ケレンのある悪役で名を馳せている彼には珍しく、捻りも何にもない好人物。上に書いた電話の場面でも、レイバーンは子供を妻と川の字にはさんで寝ているシーンを映し、孤独なクリーシーと対比させています。彼に演じさせることで、レイバーンもクリーシーと同様の苦しみから抜け出し今があると感じさせます。眠っていたのにもかかわらず、それを気にするクリーシーに、「まだ起きていたよ。テレビを見ていたんだ。」。たったこれだけのセリフで、レイバーンがクリーシーに対して、いかに心をかけているかを感じさせます。これはひとえにウォーケンの力です。彼の立ち振る舞い、セリフの一つ一つが、クリーシーの造詣にまで深みを与えているかのようです。柔和な表情と厳しい表情の使い分けも自在で、小さな役なのに存在感たっぷりで、腕のある役者は違うなぁと、とても感心しました。
老境に差し掛かった刑事役・ジャンカルロ・ジャンニーニも、主役を数多く張っていた頃を思い出させる枯れない渋さがありました。その他いつも手堅い新聞記者役・レイチェル・ティコティン、意外な好演だった両親役のマーク・アンソニーとラダ・ミッチェルなど、出演者の健闘が印象に残ります。ミッキー・ロークはまぁそれなりです。
後半ピタが誘拐されてから、壮絶で残虐なクリーシーの復讐劇が展開され、この誘拐にも二重三重のからくりがあり、二人の心の交流を描いた前半とは一転、バイオレンスタッチのサスペンス劇となります。軽いタッチで前半を描いていたので、このクリーシーの変わり様に少々戸惑うのですが、考えてみれば彼は元特殊部隊所属のいわば殺人マシーン。やっと訪れた穏やかな日々をプレゼントしてくれたピタを奪われ、閉じ込めていた当時の感情が露になったと思えば納得です。犯人逮捕を警察に委ねず、自分の手で処刑していく「俺が正義だ」に、嫌悪感を持つ方も多いようですが、誠実さを常に感じさせるデンゼルが演じることで、爽快感とまでは行きませんが、私はあまり嫌悪感はありませんでした。何より誘拐という行為は、子供を持つ者にとってこれほど怒りを感じる犯罪はありません。その事が私の感想に影響しているかも知れません。
ラストは少々強引で消化不良が残ります。ちょっと調べたところ、このラストは原作とは違うようです。しかし映画的に考えればアンハッピーともハッピーとも取れる、あいまいなラストは良かったのかも知れません。この作品でのダコタちゃんは、賢く愛らしく子供らしさも感じるのに、どこか寂しげで、「スゥイート・ヒア・アフター」で初めて見た、少女の頃のサラ・ポリーを彷彿させました。そして父を愛しているのに、クリーシーに父を感じているように見えました。その後の展開でこの父親なら頼りなく思うよなと、納得しましたが、若干10歳の彼女がここまで役を理解していたのでしょうか?やっぱり只者じゃないぜ感がいっぱいのダコタちゃん。次もとても楽しみです。
監督は水準以上の娯楽作を常に提供しているトニー・スコット。今作でも手堅い演出で、クリーシーに観客が感情移入しやすく作られています。素直に上手いなぁと思いました。BGMもメキシコが舞台ということで、ラテンのダンスミュージックや哀愁のメロディ、私が大好きだったリンダ・ロンシュタットの歌声も効果的に挿入されています。アルバムジャケットがチラッと映ったのも嬉しかったです。
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