♀つきなみ♀日記
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風に揺れるその花の姿を、万葉人は「藤波」と詠んだ。
貴なる色の、紫をまとい、房を連ねて咲き誇るさまは、豊饒であるがゆえに妖艶でもあり、夜の闇に浮かぶその姿は、この世ではない世界へいざなうように揺れる。
清廉なる色の、白をまとう花は、天上のすがしさを起想さえさせ、手招きしながら踵を返す、しかし、それは駆け引きや手管ではない、乙女を思わす風情もある。
かくしてそ 人は死ぬといふ 藤波の ただ一目のみ 見し人ゆゑに(万葉集 / 詠み人知れず)
『ただ一目見て(恋をしてしまった)、藤の花のようなあなたのためだけに、こうして人は、死んでいけるんですね』(意訳:つきなみ)
恋しけば 形見にせむと 我がやどに 植ゑし藤波 今咲きにけり(万葉集 / 山部赤人) 『恋しい(あなたとの思い出とつながっている)ので、(せめてもの)形見 にしようと思って、私の家に植えた藤の花が、今咲きました(が、あなたは、どうしているんでしょう)』(意訳:つきなみ)
藤の香りは、例えようもなく清しい。根を同じくする花房は、棚を助けに広がり、数多の花弁からおなじ香りを放ち、見る者を包み込む。
一千有余年の時を経て、藤は人々を誘う。
風かよふ 棚一隅に房花の 藤揉み合へば むらさきの闇 (宮 柊二)
白藤の せつなきまでに重き房 かかる力に 人恋へといふ (米川 千嘉子)
藤に抱かれて、闇を飲み、恋を思って過ごす晩春は如何でしょうか。
テキスト庵
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