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★短編小説20 - 2007年08月17日(金)




[ 待てども ]

大学に入ってから、流川になかなか会えなくなった。
入学してから今日まで、流川と丸一日一緒に居たのは、たったの二日だけ。
お互い携帯を持ったくせに、相手がメールをなかなか返してこない。
電話をしても、「疲れた」だの「眠い」だの、そんな言葉しか聞かない上に、「電話が嫌い」とまで言われた。
こっちは、会えない分、ただ声が聞きたいだけだってのに。
相手が口下手なのは嫌というほど知っている。
それでも良いからと、電話している自分がバカらしくて、最終的に電話をしなくなった。
メールも続かないのを覚悟で送る。
ヘタすりゃ返事すら返って来ない。
メールするのが嫌になる。
携帯電話なんて、やっぱり要らないとか思ってしまう。

夏休みまであと1週間。
2ヶ月近くあるこの長期休暇の間に、流川と会える時間くらい少しはあるだろう。
そう思っていても、自分の予定と相手の予定を考えると、案外合わなかったりする。
ああ、もう、なにやってんだか。
この間貰ったばかりのシフト表を見て、ため息が出た。
このまま流川に会えない期間がずっと続いても、アイツは何も思わないのだろうか。
きっとアイツのことだから、なんにも思わないに決まってる。
電話を嫌いだと言って断るのも、メールの返事を返さないのも、平気でやってるようなヤツだ。
俺がこんなに考えたって、アイツはなんにも考えちゃいない。

充電器に繋がった携帯が短く鳴る。
開けて見ると、大学の友達からだった。
1ヶ月くらい前に、教室で声を掛けられた。
知り合いに同じ科目を選択してるヤツがいなくて一人だった俺と彼女。
たまたま座席が前後になったときに、後ろから声を掛けてきた。
「バスケ部の人でしょ?背、高いね。」
私もバスケ好きで、高校の時に部活やってたんだよね。
明るく喋る彼女は、人当たりも良くて、初対面なのに話しやすかったのを覚えてる。
同じ歳で、お互いバスケが好きで、お互い一人暮らしで、お互い話すのが好きだった。
共通点も多くて、すぐに仲良くなれた。
「女の人と話すのは少し苦手だ」と言ったら、「私も苦手だけど、桜木君とは凄く話しやすい。」と言われた。
全く同じことを、彼女に思った。
その場ですぐにメアドを交換して、それからちょくちょくメールをしてる。
今日も彼女からメールが来た。
寝っ転がって、返信を打つ。
こういうフツーの事が、今までない経験で楽しかった。
ただ、これって浮気になんのか?
疑問に思ったけど、彼女を恋愛の対象には見てなかった。

きっと彼女と付き合ったら、感覚も近いし、楽しいと思う。
一緒にいるところを安易に想像出来るのに、それが現実になることは想像出来ない。
流川を切り離すことが出来なかったから。
あんなに冷たい態度を取られて、今となっては微塵も愛を感じないくせに、なんでここまでするんだろう。
自分でもそう思う。
でも、流川を好きでいることに変わりはない。
虚しいのが分かっているのに相手を求める。
返って来ない返事をいつまでも待ち続ける。
主人を失った犬みたいに延々待ち続ける。
小さな可能性を信じて、待ち続ける。

高校生の時、「好きだ」と言って来たのはアイツのくせに、アイツから抜け出せなくなっているのは俺の方だ。
俺には、アイツじゃないと、満たされない心がある。
そんな風に、今ではなってしまった。


彼女から来たメールに返事を返して、携帯を投げた。
考えるのが嫌になって、目を閉じる。
このまま、眠りにつけば、何も考えなくて済む。
自分の満たされない心を隠すように、自分の腕を抱いた。
やっぱり虚しいだけだった。


...

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