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2017年5月12日開催 第136回フリーワンライ参加作品 - 2017年05月12日(金)
2017年5月12日開催 第136回フリーワンライ企画参加作品
使用お題 冬の冷たさ、君の温もり ジャンル 一次創作
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
「冬の冷たさ、君の温もり」
さくり。さくり。 さくり。さくり。 凍った芝と霜柱を踏みしめて、まだ誰もいない公園を散歩してみる。 真っ暗で朝日もさしていなくて、霜柱を踏みしめる音の他は鳥の声も聞こえないような早朝に、冷えた手をダウンジャケットのポケットにつっこんだまま。 吐き出された白い息は外灯に照らされて、ほわりと間接照明のように滲んで足元に落っこちる。 こんな時間にこの公園を通ったって、公園の先にある図書館はまだ開館していないのに。
さくり。さくり。 さくり。さくり。 新聞配達員が回るには遅い時間。散歩に出るには早い時間。 ベンチのそばに忘れられた小さなピンクのゴムボールを、横目で見ながら通り過ぎる。空気に晒された頬がぴりぴりしてきて、身体が小さく震える。 せめて朝日が昇って、日差しが差して、鳥が鳴き始めて、散歩の人も増えてきて、子ども達が遊びにきて、図書館が開館したら、少しは暖かくなるのに。
さくり。さくり。 さくり。さくり。 図書館前の駐輪場の砂利を踏みしめて、ダウンジャケットを着てても冷えてしまった身体をすくめて、真っ暗な図書館を遠目に見る。 公園がよく見える、陽当たりのいい読書席。いつもの君の特等席。僕には判らない本を、大事そうにゆっくりとめくって。 あの柔らかい横顔が見られないのも、君の特等席に君がいないのも、こんな時間なら当たり前で。君がいつもいた時間いた場所に、もう君がいない事を確認する事が怖くて、僕はこんな時間にしかここに来られない。
君の温もりが消えたのを冬の冷たさのせいにしてないと、僕はまだ耐えられそうにない。
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