いっぺんでいい
払いのけてみたかった
本屋で 風邪のにおいがした
母を おもいだした
風邪のときは優しくて 病院にまでついてきた すきなだけ食べていい苺 氷を全部つかった水枕 玉子を溶いたお粥
「お熱は…」 母のおでこ わたしのおでこ 手のひらがいったりきたり
そんなときは なんともいえない気持ちになった ただおとなしく 手を受けていた
震える手で 2枚のチケットを切り離す
いくぶん興奮のおさまったところで あ、と思い出し 手のひらのゴロゴロから タカシ君にひとつ選ばせた
「学校でね、友達にも配ったの」
うそつき。
うそじゃないけど ほんとじゃない
わたしもひとつ食べてみた
ぬるくて 甘くて いたたまれない
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