夏が行っちゃうのって 風船に似てない?
おっきな風船(水素入り)が昇ってく感じ
そのヒモをつかんだら グンとひっぱられて 足が地面からはなれて いっしょに昇っていっちゃいそうな
わたしも、つい、母の事を話した
アサキは目を丸くして 「だっておまえ、そんな不幸な少女には見えなかったぞ?」
不幸な少女、という言い方が可笑しくて プフッと吹きだしてしまった
机のふちをなぞりながら、 おもいきって言ってみる
「母がいなくなって、じつはホッとしてるの」
「そか… うん、そっか」
アサキは何度も頷くと、本の表紙をみつめた
母が私にだけ厳しかったとか それは話さなくてもいいと思った 不幸とかカンチガイされても困るし
だって いまの、この瞬間のわたしは なにひとつ不幸じゃないもん
こうして 本のにおいのするところで 隣りにはアサキがいて
なにかがいっぱいで いっぱいすぎて あふれそうなくらいだもん
本にらくがきしながら、アサキがいった
「真ん中だからさ」
3人姉妹だなんてしらなかった
「母親は妹につきっきり、父さんは姉と仲良しで」
わたしは鉛筆のあたまとおしりを持って うんうん、うん、と頷く
「ラクだよ? ほったらかしでさ」
アサキはそう言うと ぎぃ、と椅子をきしませて伸びをした
嘘や強がりで言ってるんじゃなさそうだった
ラクっていうのは、わかる わたしも、今のほうがラク。
|