DAY
私の日々の下らない日常。
最近はマンガばなし。


*web拍手*

2007年07月25日(水) ハリポタ最終巻

読み終わった…!前作よりずっと読みやすかった印象です。
また感想書くつもりだけど、第一印象。

(ネタバレにつき反転)

ベースとしては「世界に親の愛より強いものはない」そして「誰もが親になって、その愛を受け継いでいく」というのがメッセージだと思いました。そして親には愛されなくてもリリーを愛することが出来たゆえに強くあれたのがスネイプであり、結局自分以外を愛さなかった故に脆かったのが(そしてそれを自覚できなかった)ヴォルデモートなんだな、と。
個人的には息子を守ろうと必死になるルシウスとナルシッサが一番印象に残りました。

ロンハーやらハリハーやら(あの状況でくっ付かないならもう世界がひっくり返ってもカップルにはなるまい)ハリジニやら、色々ありましたが、一番「恋してる」のはトンクスだな、と思いました。めちゃめちゃ共感した(一番共感できるのはジョージだけど。ウィーズリー一家の誰かが死ぬだろうとは思ってたけど、まさか双子の片方だけとは…)。ルーピン夫妻の結末については、自分でも不思議なくらい平穏な気持ちでした。
あんなに自分を率直に愛して、どこまでも自分だけを追いかけてきてくれる人を、ルーピン先生は本音では、自分の子供にすら与えたくなかったんじゃないかな、と思うから。ハリーが彼らの子供を本当に慈しんだだろうことは疑問がないので、彼らの最期にはただ良かったね、と言ってあげたい。

シリーズの前半は影が薄かったリリーですが、予想通りここにきて存在感が爆発。多分、スネイプはリリーにちゃんと告白したことがなかったんだろうなあ。きっと、「いま言えば、リリーに男として愛されるようになる」チャンスはあったと思うんです。だけど彼は言えなかったんだろうな。それでこそスネイプという気もするが…必死にリリーに謝る若かりし日の彼を見ると、他人事ながら横から掻っ攫っていった(完全にスネイプ目線)ジェームズに殺意を覚えます。
あとやっぱりハリーの一番身近な幸せを根本的な部分で阻んでたのは、空気を読めずにルックスにしゃしゃり出てきたジェームズのDNAなんじゃないかと思った(…)。
ハリーがリリーに似てれば、せめて女の子だったら、スネイプももっと心穏やかに在れただろうに…。ジェームズとどこまでも相性が悪かったんだね、きっと。



もしも「ここが知りたい!」というようなネタバレ希望がありましたらリクエストして下さい。
ま、もう色々ネタバレサイトさんできてるでしょうけど。



2007年07月20日(金) 裏切りの友

行かせてはいけなかったのだろうか。
いまさらながら武王は思った。

多分、自分が絶対に行くなといえば、武成王は行かなかったのではないかとも思う。楊ゼンの話を聞くと、武成王が地上に残ったところで、結局空間使いの妖怪仙人に連れ去られていただろうから、結果は同じだったかもしれないけど。
でも、違ったかも知れない。親友を救えなかったという深い傷を胸に負いながら、それでも彼はこの新しい国のどこかに居たのかも知れない。そうしたら、己の矜持にしか興味のない彼の息子も、変わらずに自分の護衛をしていたのかも知れないとも思う。彼の弟も、あんなに沈んだ顔をしないで済んだのかもとも。

だけど、何度やり直すことが出来たとしても、きっと自分は武成王を行かせてしまうだろうと武王は思った。
旦は行かせるなと言っただろう。武成王もそれを分かっていたから、武王がひとりでいるところにやって来た。全部分かって、武王は赦した。
「必ず帰って来いよ」とだけ言った。武成王は「御意」と答えたけれど、お互い叶えられない可能性に十分気が付いていた。

最初に武王を名乗ったとき、武王とはその衣にだけ宿る存在だった。緋色の衣を脱ぎ捨てた瞬間、若者はただの姫発に戻れた。周囲の目を盗んで遊びに行くのも、弱音を吐くのも平気だった。
しかし肌が柔らかさを失い、気力が高まっていくに連れて、姫発は自分が名実共に王冠を戴く者へと変質していくことを自覚していた。
姫発は豊邑の街を悪餓鬼たちと駆け抜けて、遊郭に入り浸って娼妓に可愛がられ、博奕打ちと馴れ合った。武王にはそんなことが許されているはずがないし、武王はそれを望もうとも思えなかった。
そんなことに自分の本質があるはずはない。自分は変わっていないと思いたい。けれど―――もう、姫発が何処に居るのか、自分でも分からなくなってしまったのは事実だった。

武王はもう、友人の為に死ぬことは出来ない。
自分の為に自分を賭けることも出来ない。
民の為に望まれる為に存在する王。それが武王だ。姫発ではない。
王の座はあまりに孤独だった。
いつだって誰よりも信頼できる旦が居てくれた。たくさんの仲間が居る。支えてもらってようやく自分は王になれる。だけど冠を頭に載せることだけは誰とも分け合えない。


武王は立ち上がり、欄干に近づいた。空は抜けるように青い。綿菓子のような雲が散らばっている。
うつくしい、と武王は思った。
この世界はうつくしい。それなのに―――彼は孤独に潰されそうになる。
「姫発」は世界を美しいと思うこと以上の何も望まなかったというのに。

いつか自分が武王であるために迎える女が、姫発を見つけてくれないだろうか。
強い風が吹く。
友を救うために、ただ自分のためだけに死んだ男が、疎ましいほどに羨ましかった。

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仙界対戦の折、武成王が武王に許可を取ったかどうかは分かりませんが、常識で考えれば無断で来たとは思えないので、こういう捏造ネタを。
発も武王=姫発の境地に至れるには、邑姜との出会いが必須だったのではないかと思います。「姫発」を知らない邑姜が愛してくれて、心の一番深い場所にまで降りてきてくれるのが、本当に支えになったのではないかな。
姫発は本質的に非常に利他的で、逆に天化はとことん利己的な人間だと思っています。

上がった封神熱に浮かされて、発邑とか望普とか漁ろう〜と思って渋谷のまんだ○けに行ったら、封神スペースが棚半分になってて大ショックでした。つ、ついこの間行ったらちゃんとカップリング別になってたと思ったのに…!
やっぱり連載終わるとこんなもんですね〜…寂しい…。池袋とか中野にはまだあるかな。近々行こう…。



2007年07月14日(土) きみがすき

西岐が西岐のままであったとしても、施政者になるしかない家柄と立場に生まれたが、姫発を育てたのは城ではなく街だった。
完璧な兄と優秀な弟に挟まれ、決して愚鈍ではなかったものの彼らと同じようには傑出することは出来なかった次男は、自分の居場所を老いも若きも、富めるも貧しきも犇めき合う雑踏に求めた。
人気のない昼間の歓楽街。遊びまわる子供たちの歓声。嫁ぐために家を出るうら若き乙女。酔って喧嘩を始める日雇い労働者。残飯を漁り、それでも笑いあう幼い兄妹。姫発は彼らを心から愛し、それを悟った彼らも姫発を愛した。彼が「姫発」であることを街の人々は知っていたが、それでもなお彼は「発っちゃん」として深く受け入れられていた。
あるいは、少年の姿をした道士が彼を赤い城まで続く道の前に連れて行くまで、彼の家族は姫姓を継ぐ者ではなく、長逗留を笑って諌めた娼妓や赤ら顔で安い酒を彼の杯に注いだ荒くれ者であったとすらいえるのかも知れない。

そんな姫昌の息子が王を名乗るようになっても、また実際に王となっても、彼にとって兵士とは民であり、民である前に彼の友人であった。
姫発は一番前を行く兵士が妻にとっては良人であり、子にとっては父であり、隣人にとっては仲間であることを経験としてよく知っていた。だからこそ、彼らを彼らが居た場所に返してやりたいと強く願っていたし、彼らが戻る場所で彼らの家族が笑っていられることを何よりも求めた。その為に自分が王であることには、誇りを持てた。
そんな彼だから、まさに彼が名実ともに王となる狭間で出会った少女のことも知りたいと思うのだ。
姫発にとって、知ることは愛することだった。治めるために識るのではない。

「なあ邑姜お前、梅の花と桃の花とどっちが好きだ?」
筆を銜えたせいで少しくぐもった声で問われ、邑姜は大きく息を吐いた。
「武王…休憩ならついさっき取ったばかりです。手を動かしてください。ついでに頭のほうも」
「動かしてるっつーの。ホイ出来た」
言いながら姫発が投げて寄越した竹簡を受け取り、邑姜は片眉を上げた。出来てるだろ?と姫発笑う。
「これは結構です。それでは次はこちらを」
ずいっと押しやられた大量の仕事に姫発は唸り、一通り文句を言った後、一番上の木簡を紐解いた。
「で?梅と桃だとどっちが好きなんだよ」
「武王…そんなことより先に貴方が知らなければならないことはいくらでもあります。私個人の嗜好など捨て置いてください」
じろりと睨むように見ても、姫発の態度はあっけらかんとしたものだ。
「嗜好じゃないって。邑姜のことが知りたいんだよ」

もともと、邑姜は武王の正妃になる為にここに居る。新しい王にとってか欠かざるべき存在となり、羌族の地位を向上させることが邑姜の使命であり、生きる理由だった。
だから、こうして武王に個人的な関心を抱かれるのは、決して悪いことではなく、むしろ願ってもないことであるはずだった。自分はこの機会を逃すべきではない。
そう思いながらも、邑姜はさらりとそんなことを口にする姫発に対する苛立ちを抑えることが出来なかった。
「…梅と桃をどちらか選んだところで、私の何が分かるのですか」
姫発は一瞬きょとんとして、それから気まずげに鼻を掻いた。そんな様子を直視できず、邑姜は手の中の竹簡に集中しようと目を落とす。
他の部に折衝に行った周公旦様が少しでも早く帰ってきて、いつものように彼の兄と厳しくも気安いやり取りをしてくれればいいのに。
そうしたら、この人はまたいつもみたいに笑う。

数秒の沈黙を破ったのはやはり男の方だった。
「俺はさあ、梅のほうが好きなんだ。豊邑の街で遊びまわってた頃、遊び場の近くに立派な梅があってさ、花見だなんだと言っては仲間と一緒に騒いでさ。あと、ちょっと手折って女にあげたりとか、見舞いにしたりとか、たくさん思い出があるんだ。桃も色っぽいと思うけど、俺は梅派」
邑姜の毒など聞かなかったかのように、姫発の明朗でよく通る声が語る。邑姜が思わず顔を上げると、姫発はへらりと笑った。
「邑姜は?」
一瞬、邑姜は喉がつまり、応えようと思ってもそれが出来なかった。姫発はそれでもにこにこと邑姜の答えを待っている。まるで子ども扱いだと邑姜は思った。
歓迎すべき態度ではない。けれど───嫌だとも思えなかった。
そんな自分に、邑姜は戸惑う。
「羌族は遊牧民族なので…梅や桃のように季節を待つ花と一緒に過ごしたことがないので、分かりません。桃源郷は独自の生態系を築いていたので、梅も桃もありませんでした」
「そっか。そりゃそうだな。悪ィ、答えられないような質問して」
「いえ…」
姫発はもう一度邑姜に笑いかけ、それからようやく筆を持って木簡に何か書き込み始めた。邑姜は少しの間そんな彼を見つめ、それから自分も仕事に戻った。けれど、いつものような世界が凝縮されるような集中力は訪れない。それどころか、遊牧の民として鍛えられた彼女の聴力は、恐らくは用事を済ませた周公旦が戻ってくるのだろう足音を拾ってしまう。
武王は真剣な顔をして木簡を読んでいる。邪魔をするべきではない。邑姜は分かっていた。だけど、ふたりきりの時間がもう終わってしまうのも分かっていた。

「ここには…桃も梅もありますので」
我ながら小さな声だと思ったけれど、姫発は聞き逃さず、すっと邑姜を見た。釣りあがった切れ長の瞳を魅入られるように見返して、邑姜は言葉を続けた。声が震えないように慎重に舌に乗せる。
「そのうち、どちらが好きか、分かると思います」
姫発は一瞬で笑顔になった。
この人は決して笑顔を惜しまない。優しい言葉も、気遣いも。

───人を愛するために生まれてきたような人なのだ。

たぶん、そこがあの人に似ている。だから好ましいのだ。笑って欲しいと、笑いかけて欲しいと思うのだ。邑姜はそう考えた。自分が無理をしているのが分かった。
「じゃあ、一緒に花見しような。梅も、桃も」
弾んだ声で姫発は邑姜に言う。
みんなも誘おう。旦は酔わせると結構面白い。今、公共事業の担当をしている文官が琵琶の名手なんだ。歌が上手いヤツもいる。西岐ではよくみんなで花を肴に酒盛りをした。ここでもやりたい。
「きっと、お前も楽しいと思うぜ。桃も梅も好きになる」
「…そうですね。楽しみです」


きっと、もっともっと好きになる。
一日が重なるごとに、季節が巡るごとに。


戻ってきた周公旦に張り飛ばされる姫発を庇って、邑姜は零れるように笑う。
少しは暖かくなってきた風が微かに、知りもしない梅の香りを運んできたような気がした。


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最近、封神演義の完全版を読み返しているのですが、改めてなんて面白いんだろう!と感動しました。やっぱり、私の原点なんだよなあ…。ああ、それにしても飛虎さんってなんて素敵なのかしら!愛!愛!
望普とか道乙とか、昔伺っていたサイトさんがまだ活動されたりしていて、嬉しかったです。

前々から発邑で学園パラレルが書きたかったのです。で、久しぶりに熱が盛り上がったついでに色々と考えたのですが、異様にゴツい設定になってしまって驚いた。
そもそも封神演義とは、稀代の才能が大集結した物語なのです。だからこそ歴史の境目ともなった。比較的凡人という印象が強い姫発だって、普通の生活の中では出会いようがないくらい魅力的で、周囲の太陽となるような人間であるはず。邑姜や周公旦なんて、学校に通うような範囲にもはや収まらない天才。そんなヤツらを収めるには…とか色々と考えていたらゴテゴテの設定になってしまったのですが、コレでは学園モノの醍醐味が…本末転倒になってしまう!
というわけで、かなりスマートに直した設定でやりたいなあと思います。

邑姜は初めて会った瞬間から、羌族のために武王を落とすつもりで彼と接しているのですが、いつか本気で彼自身を愛するようになり、使命とか義務とか、そういうものもなく、ただの娘として彼に出会えればよかったのに、とどこかで思っていてくれたらいいなあと思います。
きっとね、彼らは王と臣下じゃなくて、遊び人と統領の娘として出会っても恋に落ちたと思うよ。
発邑を取り巻く環境はこれ以上ないくらい複雑で重いんだけど(そこが萌えポイントでもあるんだけど)、本人同士の一番深いところでは、ただ純粋に想い合っていて欲しいな、と。私の発邑観はそんな感じです。
先に好きになったのは邑姜だといい。
人に愛されるために愛する邑姜が、愛するから愛される発に出会って、彼の魂を心底愛おしむ。邑姜はそれを幸せだと思うと思うのです。



2007年07月01日(日) ポテンシャル

なんというか、私はミゲルのことを考えるとわくわくして仕方がないのですが、これは所謂「萌え」という感情よりも「期待」に近いように思えます。

例えば、ミゲルは既にチェーザレのためならば人を殺すことすら厭わない姿勢を明確に見せています。むしろ、それを自分の存在価値としている。ミゲルはある意味、初対面でチェーザレに完全に落とされているのであり、作品が始まる以前に「彼のために出来ないこと」という区分を既に失しているとも考えられます。
しかし、そうは言っても所詮彼らは16歳。ミゲルがチェーザレのために人を殺すにしても、今までの身辺警護という理由だけでなく、まさにチェーザレの野望のため、という部分が強まってくるはずです。そう、例えば10年もしないうちに、恐らくミゲルはチェーザレのためにルクレツィアの夫を殺す。ルクレツィアは、ミゲルにとって今まで相手にしてきた無頼者とは明らかに違うはずです。その時、ミゲルは何を思うのか。
ひょっとしたら、これは通説に過ぎず、惣領版チェーザレでは別解釈が採用される可能性もあります。しかし、これだけに限らず、チェーザレの立場がただの学生でなくなるということは、チェーザレの影であるミゲルの立場そのものも変容してしまうこととイコールです。
ドラマトゥルギーの常套手段と鑑みるなら、恐らくミゲルが「もう一度」チェーザレの影として生きることを決意するエピソードがあるはず。それはつまり、ミゲルに「迷わせる」存在の登場を意味します。その存在はひょっとしたらアンジェロかも知れないし、女性かも知れないし、同胞のユダヤ人かも知れない。
どうにしても、ミゲルがチェーザレを選ぶことは間違いがないのですが、相手がミゲルである以上、ミゲルだけでなくチェーザレの葛藤も描かれるに違いなく、その過程がいかにドラマチックになりうるのかと思うと楽しみでしょうがありません。

また、1492年にレコンキスタが完了すると、スペインはユダヤ人の国外追放令を出します。まあミゲルがこの命令に従う必要は恐らくないのでしょうが、それでも16歳の少年が、己が己であるということ以前に、国家によって存在を否定されることをどれだけ恐ろしく思うかは多少なり想像できます。ユダヤ人である自分が側近であることでチェーザレ、ひいてはボルジア家の不利益になるのではないかと悩むこともあり得るでしょう。
しかし、それでもやはり、ミゲルにはチェーザレの影でい続ける以外の選択肢を選ぶことはないのです。

というふうに、ミゲルに関係することは現時点でもなんとなく予想がつく部分が多く、しかもそれがとびきりドラマチックな素材である。
とにかく、惣領冬実氏にさっさと続きを書いていただきたくて仕方がない、という話。
微力ながら、必ず新刊を買うことでお手伝いさせていただきたいと思います。



2007年06月30日(土) ないものねだり

ある日、父は私に「なにか欲しいものはないか?」と尋ねた。幼かった私は、無邪気に答えた。
「それならば、友人が欲しいです」
「友人?それならミゲルがいるだろう」
次男の側付きにするために自分がヴァレンシアから連れてこさせた少年の名をあげ、父は首を傾げた。いくら不在がちでも、この邸の主は父以外の誰でもない。その捨て子がとても賢く、また熱心であると家庭教師や武術の師範が喜んでいること、そして息子とその子が朝から晩まで一緒にいて、息子が母を恋しがって泣いてもその子がずっと側にいるものだから、大人に八つ当たりをして泣き喚くような真似はしなくなったことも当然耳に入っていたはずだ。
「だって…ミゲルが違うと言うのです」
「ミゲルがなんと言ったというのだ?」
顔を伏せ、寂しそうに呟いた幼い我が子を父は促した。私は思い出してまた少し辛くなりながら、父に言った。
「ミゲルが、自分は私の友人ではないと…そう言うのです」
父は一瞬驚いた顔をして、その次に酷く満足そうな顔をした。そして、軽々と小さな私を抱き上げ、笑っていった。
「なにを言う、チェーザレ。あれはお前の友人だ。一生お前の側にいる一番の友となるだろう」
「ではなぜ、ミゲルは違うと言うのですか」
「そうだな…きっと、照れているのだろう。あれも捨て子院からここに来て日が浅い。お前のような友人が出来たのが嬉しいのに、それを認めるのが恥ずかしいのだ」
父が目を合わせてくれること自体が嬉しくて仕方がなく、そのとき、私は父の言葉を丸ごと信じた。やはり、ミゲルは自分の友人なのだと思った。しかも、ただの友人ではない。ずっと一緒にいられる、親友なのだと。悲しい気分などどこかに飛んでいってしまった。

今ならば、ミゲルの言葉も、父の吐いた嘘もその意図も分かる。「自分の立場」について正確に把握し、自分を律することができるようになるのは、私よりもミゲルの方が早かったのだ。そして父は、自分が拾ってきた捨て子が想像以上に聡く、既に自分の役割を弁えていることを喜んだのだ。それそれは、息子にとって良い側近になるだろう、と。息子の剣にも盾にもなるであろうと。


長じた今も変わらず、私は友人を希求し続けている。
そいつは当然男で、私と同じ年だ。
少し掠れたような、しかしとても通りの良い声をしていて、歯切れの良い話し方をするだろう。そして素早く状況を理解し、打開することの出来る機転と、それを突破できる行動力を持っている。
私の友人はきっと笑い上戸で、時々自分自身の発言にまで息が出来なくなるほどに笑い出す。一発殴らないと笑いやまないことまである。私が冗談を言うと、他にも人間がいるときはそれを助長し、私たちふたりだけなら私をからかう。
私はその日にあったことを残らずその友人に話す。彼には知らせてはいけないことはない。彼は決して私を害さない。そして彼もきっと、私に話してくれるのだ。何もかも、彼の喜びも怒りも、私と共有しようと思ってくれる。

私は友人が欲しい。私の影ではなく、半身となるような友が。
私が思い描く理想の友人はいつもミゲルの姿をしている。
しかし、ミゲルは決して私の友人にはなりえない。
私は友人の為ならば、この命を擲っても良いと思いたい。
しかし私は、ミゲルのためにこの腕の一本すら与えることが出来ない。ミゲルは次の瞬間にでも、私のために死ぬ覚悟を持っているというのに。

私の願いはこれ以上ないほどに具体的であるにも関わらず、まるで陽炎のように近づくことは出来ない。
ミゲルが目を細め、私の名を呼ぶ。
私は時々、目の前にいるはずの彼を見失う。

私の願いが叶わないことを、私は知っている。


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惣領冬実『チェーザレ』/週刊モーニング
ミゲルのユダヤ人設定に唸りました。これは物凄く物語そのものに影響を与えるよな…。
史実(通説かも知れんが)と照らし合わせたとき、チェーザレとルクレツィア、そしてミゲルがこれから10年以上分かち難い葛藤に巻き込まれていくのかと思うと、続きが楽しみで仕方がない。


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