紫
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伯父の葬儀場に、少し早く着きました。
いったんは車を葬儀場に止めたものの、時間はたっぷりあります。
私ひとりだったら、おそらく懐かしい場所をめぐって車を走らせますが、母はそうはいきません。
母は、私よりも、もっともっと、この地に思い出があり、おそらく、もっともっと、この地が変わったことを知りたくない人だからです。
さて、どうしよう。
「高校に、行こうか」
母が言いました。
母の言われるとおりに私が通っていた高校に車を走らせました。
「ここに、運動会に来たね」
あのときは、シアワセだったんだな、という気持ちしかよみがえってきません。
なんだか母の心苦しい表情に、早くこの場から去らせてあげたいと思い、早々を葬儀会場を後にしました。
シアワセって、なんだっけ?
私は今、シアワセを毎日満喫しているつもりだけど、それは、ウソ、ですか?
それは、やせ我慢ですか?
それは偽善で慈善ですか?
それでもいいんじゃない?
おやすみ。
母のいちばん上の姉、つまり伯母の結婚式に出たとき、たしか私は小学生だったように思います。
もちろん再婚。
伯母には、私より5つ上と3つ上の娘がいて、私ともよく遊んでくれていました。
新しく伯父になったその人を、私はいまいち好きになれず、ずっと避けてきました。
実際に、伯母に災いばかりをもたらし、再婚してからは伯母は苦労ばかり背負わせてきたような人。
きょうは、その伯父のお通夜に参列してきました。
「続くときは、続くんやね。こんな年なのかな」
意外にも悲しんでいる伯母に驚きながら、
ソンナ年ナンテ、ナイヨ
心の中でつぶやきました。
お通夜が始まり、お坊さんの怠惰な読経を聴きながら、思い出すことはやはり4カ月ほど前のことばかり。
私はこのとき、どんなふうだったかな。
私はきちんと、挨拶、できたかな。
私は父の最期を見届けたっけ?
私は……、私は……。
「私」ばっかり。
自分のことしか考えられていない自分に嫌気がさしたきょうのお通夜。
伯父のことばかり悪く言えませんね。
久々でもなく集まった親戚たちは、長女である伯母ではなく、末っ子である母とその娘の私のことを心配してくれていました。
モウ、大丈夫、ダヨ
そう言えればいいのにね。
おやすみ。
もうすぐ初盆がやってきます。
あいかわらず、冠婚葬祭に無頓着な母子。
何をすればいいのか、さっぱりわからん状態です。
きょうは、初盆前に棚経を上げてもらいにいきました。
あちこちから檀家さんが集まり、小さなお寺は大賑わい。
きっと、きょうが一年のうちでいちばん忙しい日なのでしょう。
お寺を実家にもつ友とその家族のことを思い出しながら、静かに順番が来るのを待ちました。
きれいだな。
6人のお坊さんが唱和する経が歌のようにも聞こえ、心のどこかを震わせています。
いっしょに唱えたい、と思ったけれど、あいにく手元に経本がありません。
父の戒名がよばれ、手を合わせました。
もうすぐ、初盆、です。
姿の見えない父に語りかけました。
返事はもちろん、ありません。
ぐったり、疲れました。
こういうときの私は、私にかかわる人を、立ち直れないくらいに傷つけてしまうのです。
だから、きょうは、誰に会うこともなく。
おやすみ。
あしたも、忙しい1日です。
きのうのバスのなか、高速道路でもらった長野の地図を見ていました。
ご存じのとおり、私は地図で旅ができます。
バス酔いの恐怖に動じることなく、ずっと地図上の「山」を目で追っていました。
その熱が覚めやらず、きょうはとうとう新たな山行企画を立ててしまいました。
立てたといっても、行きたい山と私の実力、いっしょに行こうとしている仲間の体力と相談して、2〜3個にしぼっただけですが。
日程だけでもおさえてもらおうと、数人の友にメールをしました。
さて、あとは返事を待つばかり。
そして再び思いました。
私って、やっぱり誘ってばかりで、あまり人から誘われることが、ないな。
誘いにくいのか誘いたくないのか。
自分の性格を振り返り、ま、仕方がないのかな、と納得。
でも、いいのです。
こんな私でも、思い出したかのように誘ってくれる友がいるだけで、十分なのです。
おやすみ。
ご来光は8合目手前の山小屋から見ました。
雲海に広がる朝陽の広がりが、とてもとても幻想的で、雲の上にいるという感覚を確かにしました。
夕べ23時30分。
ガイドさんが言いました。
「山頂は台風並の強風のため、山頂アタックは中止します」
ぎゅうぎゅう、と互いにくっついて寝ることを余儀なくされていた私たちは、布団の中から身動きひとつせず、その報告を聞いていました。
外の強風は寝る前からわかっていました。
だから、もしかすると……と思っていたけれど、やはり中止はショック。
でも、もっと眠れることのほうがうれしくて、あっという間に寝てしまいました。
で、起きたら4時半。
ご来光を見て、朝食を食べて、下山です。
途中、さっきまで見下ろしていた雲のなかに入ると、霧雨のように水滴があちこちを舞っています。
ずるずると滑る「ブルドーザー道」を、みんなでわいわい、わいわいとおしゃべりしながらの下山。
とてもとても楽しかったです。
きのう、眼下に広がっていたはずの広大な景色は、きょうはもう真っ白。
同じ山とは思えない景色を眺めて、そして五合目で朝8時の「おつかれさまビール」。
そのあと、温泉に入ってまたまた乾杯をして、バスのなかでたくさんお菓子がまわってきて、おしゃべり。
やっぱりきょうもみんな、思いっきり笑顔でした。
思えば、私は山頂には縁がないのかもしれません。
でも、そのたびに、どんなことでも楽しくしてしまう仲間のたくましさを、いつもいつも実感するのでした。
楽しい山行を、どうもありがと。
また、山登り、しましょう。
おやすみ。
富士山へ向けたバス車中は、とてもにぎやかでした。
いえ、にぎやかなのは私たちのグループ総勢12名。
バスに乗ったとたん、お菓子の回しあいっこ。
あぁ、懐かしい雰囲気。
でもしばらくすると、みんな熟睡モード。
今晩からの富士夜間登山に向けて体力を温存しているのか、それともふだんの昼寝癖がここでも出たのか、は明らかにするまでもありません。
かくいう私も、ぐーすかぐーすかとたっぷり睡眠を取りました。
朝7時に出て、富士山五合目に着いたのが17時前。
早めの夕食を取り、登山の準備をして、今は晴れ渡っている富士山をバックに写真を撮りました。
このまま、晴れていてくれますように。
台風情報を知らせてくれる人も数人いましたが、それよりもここ数日の天気の荒れ模様のほうが気になるところ。
とりあえずは山小屋を目指します。
ツアー客約40名が、ゆっくりゆっくり、ガイドさんの話を聴きながら、ゆっくりゆっくり歩を進めます。
眼下に広がる富士吉田の町、山中湖、河口湖、遠くに小田原。標高を上げていくにつれて山の向こうに見えて広がる町。
山中湖で催行されていた花火を見下ろしながら、一歩一歩、登ります。
あんまりにもゆっくりすぎて、ちょっとしびれをきらしたこともありますが、それもこのツアーの良さなのでしょう。
21時過ぎ。
山小屋到着。
2時間ほど仮眠をして、それから頂上のご来光を目指します。
さて、あした。
ちゃんと起きられるかな?
おやすみ。
父が亡くなったとき、メールをくれた友がいました。
よくいっしょにハイキングに行く友です。
「また、山登りに行こう」
そんなとりとめのない内容のメールがとてもうれしくて、すぐ返事をしました。
「今年はみんなで富士山か?!」
富士山にあまり魅力を感じていなかった私は、もちろん、冗談のつもりでした。
でも、すぐに返事がきました。
「富士山、行こう。山登り、しよう。人間くさく生きよう」
なんだか、そんなメールに感動して、この夏の富士山行きを決めました。
ということで、あしたから富士山ツアーの出発です。
ツアーにのらないと、かなりお金がかかることと、私自体が数年前に7合目付近でリタイヤしていることを考えて、ツアーでの登山を選びました。
4月からじょじょに準備を始め、登山初心者の友には買い物リストを作り、「富士山? 行く行く!」と気軽な参加者には「かなりしんどいよ」と念を押し、参加者全員に出発日まで「階段の昇り一段飛ばし」の義務を課しながら、富士山への熱気を高めてきました。
と言いながら、私がいちばん不安がっているのは百も承知です。
3000メートルより700メートルも標高の高い山に登るのは、日本では富士山以外にありません。
高山病や体力は大丈夫だろうか。
心配性の私。
ぐるぐる不安がうずまきます。
でも、大丈夫、という確信がひとつ。
それは、あした登る仲間のたくましさ。
あしたは、早いのさ。
おやすみ。
5月ころ、ハガキが来ました。
私のお気に入りの美容師さんからです。
どうやら店舗を替わった様子。
転勤かな?
この美容師さん、私が大阪に住みだしてしばらくしてからずっと同じ人に髪の毛を触ってもらっています。
同じ系列の違う店舗に異動してからも、その美容師さんのいる美容室に行きます。
これって、追っかけか?
でも、去年から、極貧状態になり、なかなか美容室に行けませんでした。
髪は伸ばしっぱなし。
毛先もバラバラ。
そろそろ美容室に行きたいっ!
と切に願っていたころに、届いたハガキ。
さっそく行くつもりだったけれど、今度は多忙につきなかなか行けず。
きょう、になりました。
ちょっとドキドキしながら予約の電話をかけました。
聞きなれた声に名前を言うと、とっても喜んでくれました。
あぁ、覚えていてくれたんだな。
かなりうれしくて、いそいそとその美容室へ行きました。
自動扉が開くと、見慣れた顔のふたりが一斉に待っていてくれました。
「場所、わかりました?」
「久しぶりですね」
「来てくれてうれしいです!」
私は私で知己と会っているような気持ち。
話を聞くと、独立して二人できりもりしているとか。
そっか。
がんばらないと!
大阪のJR福島駅からごく近くにある美容室「ever」です。
もし、行きたいかたは割引券を私が持っているので、ご一報ください。
ホントに腕のいい美容師さんと、気が利くアシスタントさんが待っていてくれます。
私も、がんばらないと!
おやすみ。
選挙に行く途中、母がふと、立ち止まりました。
「この木に、いるよ」
どうやら、蝉を見つけたようです。
とはいえ、私の目には、どこをどう見たって、蝉の姿は見えません。
鳴き声なんて、とんと聞こえません。
「どこにいるの?」
母に問いました。
「こっち。ここ、ここ。ほら、あそこ」
プラタナスの木を、ぐるりと反対側にまわって見上げるくらいの距離に、ひとつ、蝉が止まっていました。
あぁ、なぜ木の反対側に止まっている蝉が、母には見えたのでしょう。
今に始まった疑問ではありません。
でも、それは疑問ではありません。
母は、自然と対話ができる。
子どものころ、ふとそれに気づきました。
だから、母が育てる木や花は、どんどん大きく元気に育っていくんだって。
だから、母が通る道には、花がたくさん咲き誇るんだって。
残念ながら、私にはその血は伝わっていません。
ただ、花や植物が好きなことだけは、母譲り。
でも、今は休止中。
そんなことを考えていたきょう。
ベランダに蝉が舞いこんできました。
なんだか、今年はいろんなことをスタートさせたい気分になりました。
仕事も私生活も、勉強も山登りも。
そして……。
深夜に舞いこんできた蝉に。
ありがとう。
おやすみ。
深い人だな。
ゆうべ、夜更けまで語り合った友を駅まで見送ったあと、思いました。
私の吐く薄っぺらい言葉が、恥ずかしくなりました。
そんな友を夏の終わりの山の予定を聞きました。
残念ながら休みがとれるかどうかわからない、とのこと。
そして友は言いました。
「縁が合ったら、いっしょに登れるでしょう」
なんの焦りもなく、ただ自然体の言葉に「そうですね」とだけ答えました。
そう、あせっちゃいけない。
山はそこを動かない。
人生は長い。
長いんです。
おやすみ。
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