Heroine
 そんなに悲劇のヒロインぶりたいなら、其の儘僕の手を離して去って下さいな。

 僕の言葉を如何相手が受け取ったかは知りませぬ。
 中學の時親友に言はれた言葉を他者に突き付けた心算でゐました。
 自分の身の哀しみばかりを歎いて悲劇のヒロインぶり續けるのならば貴方は私の親友ではない、と親友は僕に己の身ばかりを歎くのを止めるか否か選擇を迫ったのです。

 此の水無の月は僕には辛くて溜まらぬのです。
 毎日のやうに親族の命日が來て、毎晩のやうに彼等が夢に出て來てしまふ。
 まう居なくなった人達が夢の中で見せる笑顏、これは夢なのだと僕が氣付く度に彼等が見せる哀しみの眼。そして、父の死に顏。夢から覺めても、何度覺めても忘れ切れ無いのです。
 僕は今辛いのかも知れませぬ。だけれど、辛いなどと他人に對し口に出して何になりますか。
 如何にかなると思って居ないからこそ僕は口を噤んでゐるのに。

 貴方とは違って私は辛い状況にあるのだ、と告げるお孃さんの悲しみを今は受け止める事が出來ませぬ。
 彼女の苦しみは彼女にとっては大きいものなのでせうけども、「その程度で歎くな」と言ひたくなる僕が今は居ます。
2004年06月09日(水)


 水無月
 六月になりました。
 聽きたくない聲が耳に入ってきます。

 さうですね。また今年も六月がやってきましたね。御墓參りに行かねば。
 だって皆六月に逝ってしまったのだから。父も祖母も大叔母も大叔父も。
 今となっては最初に逝ったのかは誰なのか判らないけれど、逝ってしまった人達は皆一人ずつ自分に近しい人を連れて逝ってしまひました。

 貴方さえ居てくれたらやっていけたのに。
 墓石に一言二言呟き手巾を目に押し當てる戚等を見るのは未だ耐えられませぬ。

 だけど今年は水無月から逃げられ無い。
2004年06月01日(火)
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