罅割れた翡翠の映す影
目次|過去は過去|過去なのに未来
悲しみを持つヒトは幸いだ 他人のそれに気付くから それ故に喜びに気付くから
面白い職場である。 他人により傷付き、自らによって破綻した精神の多い事。 他人と異なるという事はハイリスク・ハイリターンなモノであり、 彼ら(彼女ら)の殆どは半強制的にその道を選ばずに居られない。 己の存在に疑問符を投げ苅テけてしまったからだ。 そういう存在を見るのはとても興味深い。 今まで押し付けられて来た価値観と違った世界を見る人間は、 それだけで魅力的である。
それはレールの上を走らないモノ同志の共感であり、 憧れであり、ライバル意識でもある。 檻と鎖に繋がれた家畜よりも、 死と危険を承知でサバンナに生きる獣を選んだ。 幸福という糧を得るのにも実力行使を以てする獣達。 そんな獣の巣であるこの職場は、何と無く好きになれそうなのだ。
同情なんかいらない だから絶対話してなんかやるものか
ジレンマ。 気づいて欲しいのにプライドがそれを許さない。 気づかれない為の演技はますます上達する。 同じ、種類の人間がいる。
同じジレンマを持つ故に、 彼には演技を見破られるし 僕は彼に気づく。
精巧に模られた笑顔の仮面。 その奥で溢れ出しそうな涙。 無理矢理に凍らせてる感情。 融けてしまったら、南極と北極の氷が融けるのと同じで 全てが壊れてしまいそうで。
彼と居る時間は心地良い。 でも同時に苦痛でもある。 『何故気づかない?』 『こんなに泣きそうな顔してるのに?』 彼は僕の鏡像で、僕は彼の鏡像。 恐らく僕も同じ顔をしているのだろう。 そして彼にはやはり気づかれている。
過去に彼と誓約を交わした。 『頼らない』 鏡像に頼ったところで、 その鏡像だって頼りたいのだ。 そして気づいて欲しい人間はお互いに全く違う存在だから。 融けた感情を抑えられる器の形が違うのだから。
しかし、この痛みを伴う関係は続いている。 時に助けられながら。 多分、彼の方が痛いはずなのだ。 不思議な関係。 その痛みは、しばしば届いてくる。
彼には幸せになって欲しいと思っている。 それを通して自分も幸せになろうと思えた。 ずいぶんと彼には救われたものだ。 まだこの胸に彼の痛みがある。 恐らくまだ彼にも僕の痛みがある。 この痛みがお互いになくなる日が来たら、 改めて友達になりたい。
そんな人間が、居る。 感謝。
やや壊れ気味…。 感情は停滞。 のど風邪で接客が困難。 普段と仕事中の顔が違う…。 すごい作り笑いだわ。 A-ha。
実家から離れて二週間。 驚くほど楽にはなった。 仕事も充実してやってる。 それなのに空虚。
この身体は、望まれた存在だ。 そこそこに仕事をこなし、 そこそこ愛してくれる(なんて言っては悪いが)家族がいる。
でも、それは中身が誰であれ変わらない事で。 例えそれが『僕』でなくとも。 いや、例えなんかではなく。 『本当』だったはずの彼がいなくなって、 『黒』や『僕』が演じていても、誰も気づきはしない。
今にしてわかる。 『本当』の彼が壊れたのも『気づかなかった』事に対するショック。 僕達が押し殺す事に長けていると仮定しても、 気づいて欲しかった。 思いは口にしなければ、形にしなければなかなか伝わらない。 そんな事はとうの昔に知っていたはずだったけど。
…悪循環かもしれない。 このまま『息子』の仮面を演じきる事はすなわち 『気づかれなかった』トラウマを繰り返している事に他ならない。 『彼』の願いを叶える事は…困難だ。
何度か死んでいる筈なのだ。 当然のペナルティかも知れないが。
逃げろ逃げろ逃げろ 全てから目を逸らして逃げ続けるがいい 逃げろ逃げろ逃げろ 目の前の全てから 感覚が戻る世界で 感情は急激に失われ
感情が消えていく。 少しづつ、解けていく。 これでよかったのか、 もうわからないくらいに。
助けて、寂しいよ。
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