頭にくると思っていた上司も、隣りの席でああだこうだ話していると、だんだん好きになってくるから不思議だ。おせんべいをもらったせいかもしれない。あるいは、仕事に人生のすべてをささげる彼の生き方について、少し理解できるからだろうか。
家を寝るだけの場所として、人生を仕事のためのものとして割り切れば(「割り切る」では、少し表現が不自然すぎる。とらえれば、が適切か)、休日・平日、昼夜問わずいつでも仕事をすることは、呼吸をするように自然なことなのだろう。皮肉でもなんでもなく、ふと、そう思った。
彼を憎めないのは、彼にとっての仕事が、上昇や金銭獲得の手段ではないためだ。これがなければ死んでしまう。これがなければ毎日が送れない。そういう何かを見つけた人に対して、かけられる言葉があるなら教えてほしい。
「あの人から仕事を取ったら何も残らないよね」「危ないよね」と彼を批判をする人がいる。たとえば彼が誰にも知られることなく明日過労死したとして、それが寂しい、不幸だと、誰が決められるのだろう。
生きるという人生で一番面倒なことをうまくやり過ごせるなら、何をしたっていいのかもしれない。深夜の仕事場をあとにしながらしばし悩む。
……いや、GW後半は休みますよ、私は。断じて。
おしゃれになった彼の家のために、高円寺の古家具屋さんで椅子を買った。4800円。目黒通りで5万円近辺の「本物」を物色していたあとだったから迷ったけれど、結果的にはよかったと思う。椅子を買ってから、部屋で読書をする時間が増えた。家に帰ってカバンを置くと、電車で読んだ続きを開く。ごはんが炊けるまで、ページを繰る。
山形浩生(『新教養主義宣言』)は格好いいなあ。こんなに誰にでも通じる言葉で、社会にとって、個人にとって極めて本質的なことを突いてくる人はなかなかいないのではないか。とはいえ私はまだ、「本質」というふわふわしたものをつかめていない。山形、保阪和志、橋本治は、好きだし字面は追えるが頭が彼らについていかないのだもの。
そんなわけで、読書ができる部屋に生まれ変わった高円寺邸のお披露目パーティを近々開こうと思っています。よろしければみなさん、いらしてください。
これから土日は「勝手にお越しくださいおしゃれカフェ」を開きたいと思っている。お気に入りのお茶など自分で持ってきてもOK。「今日行っていい?」と電話してくれたら「いいよー、1時半から『アタック25』上映しますよ」みたいな。
ちなみに、「仏様サービス(仏様みたいな感じであなたを見守ってあげます)」「グラビアアイドルサービス(谷間を寄せてあなたを見守ってあげます)」「水道水サービス(高円寺でとれた水道水をお召し上がりになれます)」などユニークなサービスあり(有料)。ピンクサービスやマッサージサービスはございません。よろしくお願いいたします。
2007年04月15日(日) |
かじょうがきいっしゅうかん |
考え込んでいる。考え込んだまま家にいられないので、人に会ったり、話したりしている。地に足がついていない。だから、書けなかった。
せんしゅうのにちようび。 シネマアンジェリカで『春のめざめ』。ジブリ美術館が紹介している世界のアニメ映画シリーズ第1弾らしい。油絵がアニメになっている。おもしろい。日曜の朝いちばんなのに、お客さんは多かった。
もくようび。 chibamaさん(http://d.hatena.ne.jp/chibama/)にお誘いいただき、編集者が集まる勉強会へ。こういうところで「どんな本をやってるんですか?」と聞かれると、人に堂々と自慢できる自分の実績が少ないことに気付く。すごい勢いで仕事が降ってきて、それに全力で取り組んできた3年間のつもりだった。しかし当たり前のことだが、業界全体から見れば自分は「若手」の域を出ないのだ。引き続き頑張ろう。
懇親会の席上、chibamaさんに「終電帰りなのにどうして毎日自炊できるですか?」と尋ねる(仕事を続けていくうえで極めて切実なことです)。彼は休日にまとめて自炊をして、そのおかずを毎日お弁当として持っていくのだそうだ。「毎日1時に炊飯器をタイマーセットして寝ます」とのこと。天才。彼ぴに早速提案したら、もごもご言い訳をしたあと、「これから食べ物が腐る季節だけど、その対策はどうするの」と。どうするんでしょうか……。
どようび(ひる)。 彼の家の大々的改造をしていただく。予想の100億倍くらいおしゃれになり、大興奮。そうだ、ここでブックカフェを開こう。アパートの一室のカフェ……。いいじゃないか。『北斗の拳』から石田千まで、なんでも揃ってますよ。
部屋がおしゃれになって、彼が完全に萎縮。「この部屋では『なにわ金融道』とか、読んではいけないのでしょうか」と。等身大のダサさに、ちょっぴり戻す予定(ダメじゃん)。
どようび(よる)。 ちえこと大宮で会食。大宮のmaru(http://www.geocities.jp/yuccopy/index.html)を教えてもらう。埼玉、物価が安い(タイカレーが500円)。ちえぽんとは、いつも通りいくら話しても楽しい。つき合う男の子(注:我々は今年26歳になります)は、「いちいち面白い人がいい」ということで一致。かっこよくても日々のちまちましたネタが面白くないと、人生飽きてしまうでしょう。
にちようび。 おされな家(土曜日参照)で寝る。近所のおまんじゅう屋さんで肉饅頭を買って食べ(12時)、再び17時まで寝る。サラリーマンのおじさんみたいだなあ。最近。ゴールデンウィークは、また尾道に行くか、別を考えるか迷っている。
暮しの手帖に載っていた「落ち穂拾い」の農夫のエプロンがとても素敵で、ミレーの画集が欲しくなる。ブックファーストで「ミレー、ミレー」と美術コーナーを探したが、見つからない。同じ棚にモネの分厚い画集が1900円(TASCHEN)で売っていたので思わず買ってしまった。自然の絵はいいなあ、と思う。色がきれいだ。色に注目すると、世界の見え方が変わる。そこらへんの壁も、道路も、バケツも、すべてが感動を秘めていると気付く。絵のことなんてさっぱり知らないのだが、私はこの人の、庭の絵が好きだと思った。
日曜に、雑誌でお世話になったデザイナーさんとお茶を飲んだ。私が異動した節目に。セツモード卒業の正真正銘の乙女。会社を退職されるとき「どうしても絵を描きたくて」とおっしゃっていた。それがずっと頭にあって「絵は、描いてますか」と聞いたら、「衝動的に……。衝動は抑えずに描いています」という。たぶん、きれいな色の絵を描く人だと思う。
●追伸1 乙女の間では、やはり「アリヤマ(達也)さん離婚したらしいですね」というのが最近の大きな話題だ。「私も狙ってたんですよ〜」と2人で勝手に盛り上がる。ライバルは多い。それにしても乙女の情報網はすごい。
●追伸2 クルックカフェを教えてもらった。本屋があるのがいい。小林武史の経営だそうです。 http://www.kurkku.jp/
昼、神楽坂のキイトス茶房へ。石牟礼道子のエッセイを読み始める。うつくしいもの、を書いているのだろうか。それとも、うつくしいぶんしょう、なのだろうか。難解ではない。仰々しくもない。奇跡の雨ではない。コートにまとわりつく湿気、空気とともにやってきた水分、それが私の乾きを、救ってくれた。海や、夕暮れや、田んぼ。簡素な田舎の風景。名もない女の言葉。男の言葉。文字から絵が立ち上がって、いつの間にか春のやわらかい雨になり、降らずにそのまま心に留まった。ページを繰るたび自分の中の何かが変わる。書きたくなる。何を? グレーの空に映える桜の暗さを、うつくしいと思ったこと。
(引用) 海は満々と光を含み、木の葉のような小さな舟を、あちこちに浮かべていた。町の方を眺めると、工場の煙が夕べの色に染められて、家並みの上にうっすらと漂い、その下に人間の暮らしがあるのが不思議に思えた。
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