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2004年09月29日(水) メモ以前

ひとつ前の早稲田駅で降りた日は、閉店間際のあゆみブックスによってから、思い出をたどって帰る。とても安心する。穴八幡宮には「早稲田青空古本市」の看板が出ていた。昔彼が住んでいたアパートの近くを通り過ぎて、ああ、ある特定の人と、おんなじ布団で寝たとしても誰もとがめないような瞬間が私にもあったのだと思い、それが夢のような、全部嘘のような不思議な気分になった。毎日毎日「へこんだ」と言って寝ていても、まあそれなりに許される学生時代もやはり、あったのかなかったのかあやふやな時間に思えた。ただ、この道を歩いているとひたすら安心した。

食欲の秋なのでよく食べている。今日は秋なすときのこの味噌汁にした。ラジオをつけたら台風情報が流れた。

今更、『木村伊兵衛と土門拳』(平凡社ライブラリー)を読んでいる。朝日新聞の記者の人が書いているという文章がいい。うまいのだけれど、そこには良い意味で、「私」がなく、巨匠の二人を、写真を説明することを邪魔しない。報道の人が書く文は、書く内容に従属していてとても好きだ。

眠いからまた。



2004年09月25日(土) 田中

言葉が何より大切だと思っている私だけれど、深夜の月明かりに浮かび上がる市ヶ谷のお堀の水面には、ただ黙って立ちつくす。毎日終電で帰る。





前の彼に会った。高田馬場のつぼ八で、ちびちび飲んだ。鼻があんまり美しいのでずっと見ていた。私は鼻が美しい人が好きだ。

話の途中で急に上目遣いで、「緒川たまきさん?緒川たまき?緒川たまき?」と繰り返してくる。髪を切ったねということが言いたかったらしい。「やっぱり変?」と聞くと、絶対に、「かわいいよ」とは言わずに「変じゃないよ、変じゃないよ」を連発する。むかついたのでしくしく泣いた。

「髪の毛が長いとゴスって言われるから切ったのに」
「髪切ったってゴスはゴスだよ」



彼には心がないので、私が泣いても笑っても、怒っても、何を話してもどうでもいいみたいだ。私はそれがとても気持ちがいい。くすぐった時だけ本気で笑う。面白がってずっとくすぐっていたらずっと笑ってくれた。私は彼が笑ってくれるのが好きだ。



法事で東京に来たおじいちゃんと会ったこと。
妹さんに2年ぶりに会ったらすっかり性格が明るくなっていて驚いたこと。
村上春樹は『神の子〜』までしか読んでいないこと(文庫が出るまで買わないから)。
『神の子〜』はかえるの話が良かったこと。
春樹の中では『1976年のピンボール』が一番好きなこと。
それから『ねじまき鳥クロニクル』もいいなと思うこと。
家にずっと帰れないこと。
『華氏911』の虚無。
マイケル・ムーアが昔RAGE AGAINIST THE MACHINEのPVを作っていたこと。
社会における「ガス抜き」について。
好きな人が殺されたら殺しに行くということ。



色々話すのを聞いていた。

ピンボールが好きな理由は、”結局どこにもたどり着けない感じ”が一番出ているからだという。ねじまき鳥がいいのは、結局どこにもたどり着けなくても「世界」と対峙していくのだという意志が見られるからだと。

「今私バンプのアルバムを聴いててね、そこに『汚れたって受け止めろ世界は自分のもんだ』っていう歌詞が出てくるんだけどそれって世界と対峙するってことと違う?」と聞いたら、「違う」と言われた。



彼は心がないけれど優しい。心がないから優しいのかもしれない。



彼の手がなくなったり足がなくなったり、ものすごーくデブになったりハゲになったり(このへんはもう既に進行中)して、もう彼女も誰も振り向かないようになればいいのにな、といつも言っている(こういうのをゴスっていうのか)。「最近背中がぴきぴきって痛くなるのは田中の呪いでしょ」とひどい罪をなすられた。



「俺はぜんぶ分かってて全部知らないふりをしてるんだよー」
路地を曲がる前に彼がぼそっと、きっとその通りなのだろうと私も思った。



2004年09月22日(水) Listen To The Silence




明日は長い日記を書こう。



2004年09月12日(日) 無題

母が泊まりに来た。一緒に吉祥寺に行く。誰かといると安心する。ずっと体がだるいことも、責任が重いことも忘れられる。何が辛いわけではないのだが、色々と忘れてずっと眠れたらいいな、と思う日がある。ずっと眠りたい。土曜日は夕方の4時まで寝ていた。

例えば前の彼に会って、高田馬場の「力」で飲みたいなあと考えた。彼のことが好きだとか、そういうこととは関係ない。学生の時のようなどうでもいい気楽な夜を過ごしたい気がした。「つらい、つらい」と泣いたからって、もう誰も助けてくれない歳なのだ。そう思ったら夜中にとても泣けてきた。みんなが多かれ少なかれこういう気持ちを味わって夜を過ごしていると思うと、不思議な感じがした。自分だけ助けてだなんて、言ってはいけないのだと思った。

家族が欲しい。弱くなった時にはいつもそう考える。帰ったら「れいちゃんれいちゃん」と言って迎えてくれ(、私も彼らを迎え)る夫や子どもが欲しい。私が育った家庭のような、温かい家にしたい。子どもと公園に行きたい。少し大きくなったら一緒にバスケットがしたい。『月刊バスケットボール』の広告に載っている、リングを買って庭に置こう。

未来の話をするのは好きだ。

うだつの上がらなかった女子高生時代、大好きだった英語の先生がよく「将来天ぷら屋やるのが夢でさー」と話していた。いつか先生の天ぷら屋に遊びに行きたいな、そのころには私ももう大人になってて、今みたいにちまちました受験の重圧に毎日苦しめられることもないんだな、と思ったらなんだか肩の力がすうっと抜けたものだ。



母に、切り干し大根の作り方を教わる。

母はわがままばかりの私を、思い切り甘やかして育ててくれた。少し前、『暮しの手帖』の特集に「大切なものは?」というテーマがあった。なんとなく彼女に、「大切なものって何?」と聞いたら、「れいちゃん」と即答していた。驚いて笑ってしまった。

私はあまり切れる方ではないし、要領が悪いコミュニケーション下手の人間だけれど、深く付き合った友達に、「心がまっすぐだね、真面目だね」と言ってもらえるのは、両親のおかげだと感謝している。



ここ一年くらい、好きな男の子がいた。とても繊細で、いまにも壊れそうな最後の部分を持っている人だった。しかし彼は自分のとても繊細で、いまにも壊れそうな部分を否定した。考え込みすぎること、複雑なこと、簡単に自意識を表に出すこと、またそういうことをする人たちを嫌っていた。そして、私と徹底的に向き合うことや、涙を流してまでぶつかり合うことを、避けた。「言葉の人」ではなかった。感覚の人だったと思う。すべてを言葉で解決できると思っていた私とは、大きな溝があった。

何故惹かれたのだろうかと、しばしば考える。

先日、「お互い友達も少ないし仲良くやろうね」ということになり、私は彼に好きだというのをやめた。彼は友達が少ないので、一年前にできた私が最新の友達だという。そんな暗い人とは、これからも細々ながら長続きするんじゃないかと思う。



インターネットの文章をきっかけに知り合った人(こういう言い方ってなんだか電波系みたいだけど)と実際に会うと、「イメージと違った」とよく言われる。「もっとクールで、そっけない感じの人かと思った」と。「アニメ声だから驚いた」という感想もあった(失敬な)。

書くことは唯一の救いであると、勝手に思っている。得意だとか不得意だとか、うまいとか下手だとか、そういうことではない。ただ、書くことで進めるし書くことで止まれる。涙も流せる。何もできない私の、最後の何かだと思っている。



先日、嬉しいメールもらった。私が学生時代に(ここの日記に)書いた、雑誌の感想文を読んでくれた方からだった。無断で一部だけ、引用させて頂く。


……
あんな稚拙な特集をあそこまで熱く感想を書いてくれていて、とても感動しました。ありがとうございます。

入社して一年とちょっと、いろんなことが動いて(動かして)、運が良いのか悪いのか特集を任されることになり、それで過食気味になりながらあの号は作りました。あれですね、一冊雑誌などを作ると、ものすごいスピードで人生は動くものなんですね。
……


まさか、雑誌の作り手からレスポンスがあると思っていないから、どんな無礼があっただろうかとおそるおそる過去ログを探した。何も考えていないそれこそ稚拙で粗野な、(悪い意味で)学生らしい勢いだけの文章だった。でも、本当に書いておいて良かったと思った。



「状況はどうだい?」
恥ずかしいからこっそり買ったバンプ・オブ・チキンのアルバム『ユグドラシル』で、藤原くんが耳元で尋ねる。どうしようまたこういう音楽に、本当にまいった時には救われてしまう自分を本当に気持ち悪いと思う。

村上春樹を読了して、楽しみにして待ち続けたものが終わってしまった虚脱感に襲われる。『アフターダーク』、夜明け前。



2004年09月05日(日) アフターダークアフターダークアフターダーク!

久しぶりに月が見える。下弦の月。食器を洗っている時だけ、仕事のことを忘れる。テレビ番組表に、『ヘイ!ヘイ!ヘイ』を見つけ、この番組が始まる時間に家に帰る生活とは、どんなだろうと想像してみた。

■対話

「華氏911を見たよ。考えていたものとは違って、良かった。インテリはこういうの見ないという人が多そうだし、私もそれぶっていたけれど、反省した。おすすめです。多分、ほおって置いたら見なそうなインテリの君に、強く勧めます。私は泣いちゃいました」

「映画としては観たくないな。映画にすることに意味があるんだろうけど。テレビで夜中にやってる番組を観るくらいの気持ちでみたい。でもそうじゃなくて映画として作ったことに意味があるんだろうけどな。嫌だけど。嫌だけど、それくらいウンコなんだろうな、状況は。むかつくなあ」

「例えば負傷したアメリカ兵士がいる病院の映像とか、貧乏な家の子が軍隊に行くことになる構造とか、子どもが死んだら親が泣くこととか。こうやって文字にするとああそうだよね、知っているよということをしっかり取材して映像にしてある。堅実な映画です。田中宇という知識人がムーアと同じようなこと(っていうと語弊があるか)を言っているようです。サイトを見てみようと思います」

「こういう表現の仕方が映画祭で賞を取るほど、事実、切迫した状況にあるっつーことにむかつきます。僕はエイリアンの映画やバックトゥーザフューチャーが好きだー!」

「高校の時に初めて付き合った男の子と行った映画が『エイリアン』でした。タイタニック大ブームの時です。私、愛人だったのでしょうか」





「あと、『ほおっておいたら見なそうな』とか、『インテリ』とかほんとどうでもいいことだと思います」

「うん、すまん。君のそういうところ(どうでもいいことだ、とムカつくところ)は私ほんとにいいと思います」





「今日ほとんど生まれて初めてアキバに行きました。凄いね。ラジオデパートっていう、部品とか基盤とか売ってるところが、相当熱かった。世界堂以来の興奮。凄いの。60円の部品3個買ってるおじさんとか。萌えの店は予想通りであんましだったけど」

「なんかさあ、全然詳しくないんだけど、誰かが考えた『萌え』をメディアが捕らえて発信すると、あとから『萌え』に乗っかってくる人や物があるじゃん?そうなってくるともう「萌え」って形がある範囲の中で固定されちゃって、とたんにツマラナクなるんだろうね。『萌え』が、後からできた『萌え』を追っちゃうの。そーするとつまんなくなっちゃうの。こういうの他にもよくあるよね〜」

「君の言うことなんとなく分かる。他に、例えばどんな例がある?

萌え、という枠ができたおかげで、その中ならアニメキャラに欲情することが恥ずかしいって気持ちももうないんだろうという感じはした。エロゲーや同人誌に群がれるというか。絶対に言えなかった性癖、秘密が公になって、つまらなくなっている気がしました。これって君の言うこととずれてる?」

「そうそう、そのへんの後ろめたさとかにドキドキ感てあるのかなあ? つーか、悪いんだけど電話かけてくれませんか?10分で説明するから」



2004年09月02日(木) メモなど

日曜日の夜は毎週死にたくなる。月曜日がくると治る。日々は充実している。アレルギーの薬を飲むと、食欲が一気に減退する。ダイエットペプシのガンダムを集めている。


■最近はこれと真鍋かをり、あと室井佑月ブログ

峯田和伸の★朝焼けニャンニャン

1日何千というサイトを見ているヤフーの社員が「おもしろいよ」と教えてくれたブログ。すごく、いい。遡って過去ログなど見ていたら、ほろりとさせる場面もあった。作者はゴーイング・ステディの元ボーカル。峯田くんが紹介していたオーケンの『リンダ・リンダ・ラバーソール』も読んでみよっと。



■仕事

画像のことがよく分からなくて、苦労している。いつも校了時に、「これ荒いよ?大丈夫?」と先輩が言って、サシカエになるのだ。

dpiとか、有効解像度とか、そのへんの知識がとてもあいまい。そして、荒いことに指摘されないと気が付かない。印刷所から、「ここの解像度が」と問い合わせも来た。



今回、誌面でフォント(書体)を紹介したのだが(どんな本だよ)そのキャプチャ画像のまわりがぶつぶつに、汚くなってしまった。私はbmpで入稿したんだけどなあ……本当は、「イラストレーター」で文字を打ち、アウトライン化しなければいけなかったらしい。

「jpgっていうのは全体をなめらかに整えようとするんだよ。だから、色の区切れ目がぼやけちゃうことがある」(部長)そう。

DTPのことを、もうすこし分かるようになりたい。



ラフを工夫したくて、まずはレイアウトの本を買って読んでいる。参考にしながら色々な雑誌のレイアウトを見ているのだが、いかに自分が今まで感覚だけで仕事をしてきたかが分かった。

心から反省した。

こういうことを、きちんと調べる余裕が必要なのだ。そうしないと、いつまでたってもこなす仕事になる。こなすだけなら、徹夜すれば終わるのだ。

ここはなんとなくこのくらいの大きさ。
なんとなくこの写真。
デザイナーさんにおまかせ。
カメラマンさんにおまかせ。



そんなの絶対にだめだ。
がんばろう。


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