エンターテイメント日誌

2006年09月29日(金) X-MEN:最後は華やかに打ち上げ花火

「X-MEN:ファイナル・ディシジョン」は面白い。シリーズ最高傑作ではなかろうか。評価はB+。正直2作目は退屈で退屈で映画館で身をよじり続け、今後このシリーズは絶対観ないぞと決意したくらいである。しかし3作目の余りの前評判の高さに心が揺らぎ、清水の舞台から飛び降りる覚悟でまたシネコンに足を運んだ次第である。

監督は前2作のブライアン・シンガーが「スーパーマン・リターンズ」を撮るために降板し「レッド・ドラゴン」のブレット・ラトナーに交代したのだが、これは両者の映画にとって大正解だったと想う。とにかく今回はハリウッドの娯楽映画の王道を往く物量作戦で、さまざまな能力を持ったミュータントがまあ出てくるわ出てくるわ。それでもってそいつらが派手に超能力合戦を展開してくれるからたまらない。特に凄いのがパワーアップしたジーンで、こりゃ人間水爆だね。手がつけられない。余りの破壊力に一度その力を使ったらそれでゲーム・オーバーという感じ。これじゃあ肉弾戦において兵器として使用できない。恐れ入りました。

この映画、アンナ・パキンとハル・ベリーというふたりのオスカー女優がいて、ヒュー・ジャックマンとイアン・マッケランという大スターも出演しているわけだが、よくぞまあ誰も降板することなく3作全てに出たもんだと感心する。特に舞台「アマデウス」のサリエリ役のオリジナルキャストとしてトニー賞を受賞したサー・イアン・マッケランは高齢にもかかわらず嬉々として演じており、観ているこちらも思わず笑みがこぼれた。

それにしても2作目だけ出てきたナイトクロウラーを演じたアラン・カミングは一体なんだったのだろう?ミュージカル「キャバレー」の圧倒的パフォーマンスでトニー賞を受賞したカミングだが、映画出演の選択には迷いを感じる。リバイバルの舞台「キャバレー」は「シカゴ」「SAYURI」のロブ・マーシャルと「アメリカン・ビューティ」「ロード・トゥ・パーディション」のサム・メンデスの共同演出という豪華版だったわけだが、是非どちらかの監督で再映画化を望みたいところだ。勿論主演はアラン・カミングで。

またヒュー・ジャックマンは舞台ミュージカル「ボーイ・フロム・オズ」でトニー賞主演男優賞を受賞したわけだが、ウルヴァリンみたいな役だけではなくミュージカル映画にも出演してその美声を聴かせて欲しい。「回転木馬」のリメイクに出演予定だそうだが、「オペラ座の怪人」のロイド=ウェバーが製作するミュージカル映画「サンセット大通り」のジョー役も是非!(彼はオーストラリア公演でこの役を演じ最優秀男優に与えられるオーストラリアMO賞を受賞している)



2006年09月19日(火) グエムルvsゴジラ

2004/5/8の日誌で、筆者はポン・ジュノ監督のことを<韓国の黒澤明>と評した。で、いつの間にか彼のことを<韓国の黒澤明>とか<韓国のスピルバーグ>と形容することが世間でも定着してしまった。その最新作が「グエムル−漢江の怪物−」である。デビュー作「ほえる犬は噛まない」はコメディ、「殺人の追憶」がサスペンスで、今回は怪獣映画と来た。内容が非常にバラエティに富み一筋縄ではいかない曲者である。

「グエムル−漢江の怪物−」の評価はB+。やっぱりポン・ジュノは期待を裏切らない映像の魔術師である。今回のVFXは「ロード・オブ・ザ・リング」のWETAワークショップなど海外ににまる投げ状態で、だからCGのクオリティはきわめて高い。日本映画のVFXも頑張っているとは思うが、スタッフの数やかけている時間などWETAには到底敵わないな。

今回の映画で一番驚いたのは反米という意志で全編が貫かれていることである。これは韓国映画では極めて珍しい。しかしそのイデオロギーを、頭でっかちになることなく娯楽映画の範疇で通奏低音のように響かせるという匠の技が見事である。

漢江の怪物は米軍施設のホルムアルデヒド不法投棄により生まれるのだが、このあたりが水爆実験で生まれたゴジラの生い立ちと似ているのが実に興味深い。日本も韓国も事実上いまだに米国の属国であり、イラク派兵などアメリカ大統領の方針にNOが言えない悲哀が滲み出している。そう、ゴジラとグエムルは精神的兄弟なのである。

劇中アメリカはグエムルに接触した者はウィルスに感染すると騒ぎ立てるのだが、後にウィルスなど存在しなかったと発表する。このあたりイラクが核兵器を製造しているという理由で侵略し、でも結局核兵器なんて存在しなかったという顛末を痛烈に皮肉っている。

予定調和に収束しない観客の期待を裏切る結末も上手いし、怪物が現れてからしとしとと降り続ける雨などの自然描写、クライマックスに米軍が空中撒布するガス兵器で空がかき消されていくショットなど演出が光る。

最後に「箪笥」でも実に美しい音楽を書いた作曲家のイ・ビョンウが、今回も卓越した仕事をしていることを追記しておく。



2006年09月12日(火) UDONをめぐる冒険 <後編>

映画UDONには前回取り上げた「山越」「谷川米穀店」「がもう」「中村」「山内」は勿論、「恐るべきさぬきうどん」第5巻に登場し一躍有名になった、瑠美子おばあちゃんの「池上製麺所」など沢山のうどん店が登場する。麺通団も出てくるし、映画で描かれた地方出版社でのさまざまなエピソードは「恐るべきさぬきうどん」にそっくりそのまま書かれている。

で結局、映画UDONで面白いのは実際にあったエピソードばかりで、肝心のオリジナル部分、主人公と父親との確執とか、キャプテンUDONとかが実に通俗的で退屈である。2時間14分という上映時間もこの内容ではいくらなんでも長すぎるだろう。香川県出身である本広克行監督の思い入れの深さが、商業映画としてのバランスを崩している。筆者の評価はC-程度。

本広監督が同じく郷里で撮った前作「サマータイムマシン・ブルース」が傑作だっただけにがっかりした。ただ、「サマータイム・・・」の出演者たちが、その役柄のまま友情出演していたのは愉しめた。所詮内輪受けに過ぎないという感も否めないが。

むしろこの映画は「恐るべきさぬきうどん」の著者であり、うどんブームの仕掛け人・田尾和俊さん(うどんフェスティバルの客として映画にも登場)を主人公とした実録物に仕上げた方が遥に面白かったのではなかろうか?だって一介の地方出版社の発行人が大学教授にまで登り詰めるんだぜ。こんなシンデレラ・ストーリーが他にあるだろうか?正に事実は小説より奇なりである。



2006年09月09日(土) うどんをめぐる冒険 <前編>

今回のタイトルを村上春樹の小説「羊をめぐる冒険」風にしたのには理由がある。村上さんも紀行文集「辺境・近境」(新潮文庫)で讃岐うどんを取り上げているのである。それも「中村」とか「がもう」とかかなりディープなうどん屋(製麺所)が紹介されているのだ。これらの店は当然映画UDONにも登場する。

さてまずはうどん巡りのバイブルであり、香川県で「ハリー・ポッター」シリーズやシェイクスピア、夏目漱石よりも読まれている本「恐るべきさぬきうどん」のことから話さないといけないだろう。全てはここから始まったのだ。

「月刊タウン情報かがわ」に連載されていたコラム「ゲリラうどん通ごっこ」(通称:ゲリ通)が一冊の書物にまとめられ、地方出版社であるホットカプセルから単行本「恐るべきさぬきうどん」として出版されたのは1993年04月のことである。当時筆者は仕事で香川県高松市に住んでいて、たまたま書店で平積みにされていたこの本を手に取り「面白そうだな」と購入した。だから今でも手元に初版本を所有している。

まず読み物としての面白さに魅了された。語り口が巧いのである。本の中に登場する麺通団なる怪しげな集団の団長がホットカプセルの社長・田尾和俊という人であり、田尾さんが後にうどんブームの仕掛け人として一躍脚光を浴び、その功績が認められて四国学院大学に(カルチュラル・マネジメント学科の)教授として招聘されようなどとはその当時、知る由もなかった。 

そして読めば当然そこに紹介されているうどん屋を探訪したくなる。まるで道に迷ってくれと言わんばかりに簡略化された地図を頼りに休日ごとに車で探し回った。そうやって今ではすっかり有名になってしまった「山越」「谷川米穀店」「がもう」「中村」「山内」などを発見していったのである。

打ちのめされた。たった一玉80円とか100円でこれだけ美味いうどんが食べられるのか。カルチャー・ショックと言っても過言ではなかった。こうして<うどん巡り>が筆者の趣味のひとつとなったのである。

それからうどんブームがどのように広がっていったかは映画UDONに描かれている通りである。ウィキペディアのここも参考になるだろう。

釜玉発祥の地、「恐るべきさぬきうどん」誌上でS級指定店として認定された「山越」のある綾上町へは高松市内から車で約1時間くらい掛る。筆者が初めて訪れたのは土曜日の正午前くらいだったろう。簡素な製麺所だった。そのとき並んでいたのは数人程度、テーブル席に座れるのは10人程度だった。しかしそれから訪問するたびにどんどんお客さんの数は増えていき、最終的には朝9時半に到着しても100人くらいの行列が出来ているという有様。店舗は改装され客席数も膨れ上がり、最初は車を路上駐車していたのが、専用駐車場が近辺に数箇所出来た。それでも収拾がつかず警備員まで雇う始末。GW中は待ち時間が最長2時間、車の列が延々2キロも続いたという。日本庭園やお土産物売り場なども増築され、セルフのソフトクリームコーナーまで出現、今では店内に安っぽい有線放送まで流れて一大観光地と化した。

そしてある日のこと、狂騒の「山越」を訪れたとき筆者は愕然とした。明らかにうどんの味が落ちている!!大量生産するようになった結果、どこか製麺工程で手抜きをし出したに違いない・・・。その日が「山越」を訪れた最後となった。今から2年位前の話だ。この筆者が体験したのと同じような現象が映画UDONでも描かれている。

ただ、映画で描かれたのと現実が異なる点は、映画でのさぬきうどんブームは1年足らずで去ってしまうが、実際は10年以上たった今でも続いていることだ。というか熱気は加速する一方である。

映画の感想は次回に。



2006年09月02日(土) 帰ってきたスーパーマン

ブライアン・シンガー監督の「スーパーマン・リターンズ」は「スーパーマン」(1978)「スーパーマンII冒険篇」(1980)の後日談という体裁をとってはいるが、ロイスとの空中散歩はあるし、レックス・ルーサーも出てくるしこれは実質的なリメイクだろう。そして元祖を上回るくらいに出来の良いリメイクである。評価はB。

今回の音楽担当はジョン・オットマン 。しかし、ジョン・ウイリアムズが作曲した元祖「スーパーマン」のメイン・テーマ(マーチ)は無論、愛のテーマやクリプトン星のテーマまでそのまま登場するのには恐れ入った。シンガー監督の思い入れの深さが窺える。ちょっとジョン・オットマンが気の毒。

映画の冒頭、元祖同様オープニング・クレジットがびよーんと尾を引いて飛び、低弦がリズムを刻む。音楽が次第にクレッシェンドで盛り上がってきて、頂点に達したところでトランペットの華々しいファンファーレが響き渡る。正に四半世紀前の再現である。これに胸が熱くならないファンがいるだろうか?

今回クラーク・ケントを演じるのはブランドン・ラウス。面影がクリストファー・リーブに似ているのは決して偶然ではない。ただ、そういう観点でオーディションされているので、個性とか演技力は弱いかなぁ。

一番ノリノリなのがレックス・ルーサーを演じるケヴィン・スペイシー。まるで水を得た魚である。スペイシーはブライアン・シンガーの出世作でもあるインディペンデント映画「ユージュアル・サスペクツ」に出演し、これでアカデミー助演男優賞を受賞している。正に友情出演と言えるだろう。

飛行機が墜落する場面はユナイテッド航空93便を彷彿とさせ、船が沈没する場面はまるで「ポセイドン・アドベンチャー」みたいで、内容はてんこ盛り、サービス精神旺盛である。ただ新鮮味があるかと問われれば疑問符がつくし、近年のヒーローものとしては「バットマン・ビギンズ」の方が面白かった。だから本作の<そこそこ感>は拭えない。しかし、翻ってみれば元祖もどこか牧歌的でのんびりした<そこそこ映画>だった。スーパーマンという作品世界にはそういった雰囲気が相応しいのだろう。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]