エンターテイメント日誌

2005年03月30日(水) 邦題にもの申す!<エターナル・サンシャイン>

筆者は基本的に外国映画を日本で上映するときはその映画に相応しい美しい日本語を探して、邦題をつけるべきだと考える。その努力を放棄して原題をそのままカタカナに置き換えるだけの最近の風潮は配給会社の怠慢以外の何ものでもない。「アビエイター」だって「ミリオンダラー・ベイビー」だってそう。大体aviatorの意味が"飛行家"ということを知っている日本人がどれだけいるというのだ!?

しかし百歩譲ってそれを認めるとして、許し難いのは原題とも異なるカタカナを邦題につける場合。「シックス・センス」の原題は'The Sixth Sense'であり、つまり六番目の感覚="第六感"のことだ。シックス・センスじゃ意味不明の日本人英語でしかない。「サイドウェイ」の原題は'Sideways'でこれも微妙に違う。'In the Line of Fire'が「ザ・シークレット・サービス」に、'Man on Fire'が「マイ・ボディガード」に置き換わるという珍妙な例もある。なんでわざわざ原題と無関係なカタカナを探してくるかねぇ??

さて、「エターナル・サンシャイン」だがこれの原題は'Eternal Sunshine of the Spotless Mind'である。つまり全部をカタカナで置き換えたら長くなりすぎるので前半で切ったというわけだ。何と安易な発想。不甲斐ない。原題を尊重するのなら「一点の汚れもなき心の永遠の陽光」あるいは「真の幸福は罪なき者に宿る」で良いじゃないか。

'Eternal Sunshine of the Spotless Mind'の評価はB+。兎に角、アカデミー賞でオリジナル脚本賞を受賞したチャーリー・カウフマンのシナリオが素晴らしい。カウフマンと言えば「マルコビッチの穴」「アダプテーション」など常人の予想を覆す破天荒な展開をする珍奇な物語を書いてきた人だが、そのスタイルは'Eternal Sunshine of the Spotless Mind'でも健在。でも今までの作品の中で今回が一番素直に受け入れることが出来る、愛すべきSF作品となっていた。

これは紛れもないインディーズ映画だが(配給元のFOCUS FEATURESはユニバーサルの子会社でアート系、独立系を担う)、ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット(「タイタニック」)、イライジャ・ウッド(「ロード・オブ・ザ・リング」)、キルスティン・ダンスト(「スパイダーマン」)など出演陣が実に豪華。彼らもメジャーな大作ばかりでは飽きたらず、たまにはこういったインディーズに出てみたいんだろうな。まあこれだけの役者が集まったということがチャーリー・カウフマンの求心力を証明してもいるのだろう。



2005年03月26日(土) ちょっと横道へ〜Sideways

本来は「来年のアカデミー賞を占う」の続きを書くべきところだが、良い新作映画を沢山観たのでここでちょっと小休止。

今日は「サイドウェイ」(Sideways)について書こう。筆者の評価はBである。

本作は今年のアカデミー脚色賞を受賞した。オリジナル脚本賞は「エターナル・サンシャイン」が獲って、いわばこれらの部門はインディーズ映画へ与える賞となっている。アカデミー賞はハリウッドの映画人が投票する賞なので、どうしても作品賞や監督賞はメジャー系映画会社の作品に偏りがちになる。だからまあ、シナリオくらいは優れた独立系作品に与えても良いだろうという、お情けというかオスカーの<言い訳>を担う部門となっているのだ。昨年の「ロスト・イン・トランスレーション」だってそうだし、タランティーノの「パルプ・フィクション」や「ユージュアル・サスペクツ」などインディーズ系は演技賞を除けば脚本賞や脚色賞しか狙えない運命なのだ。

アレクサンダー・ペイン監督が筆者の前に鮮烈に登場したのはあの、秀逸なブラック・コメディ「ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!」(原題:Election)である。劇場未公開で現在はビデオやDVDで観ることが出来るが、それにしても酷い邦題だなぁ。邦題はトンデモだけれどこの映画でアレクサンダー・ペインはアカデミー脚本賞にノミネートされたし、NY批評家協会賞の脚本賞やインディペンデント・スピリット賞の作品賞・監督賞・脚本賞を受賞している。途轍もなく面白い映画なので未見の方は是非。

「サイドウェイ」を観て「ハイスクール白書」(1999)の頃に比べると、ペインの人間を見つめる眼差しが優しくなったなぁという印象を受けた。ワインのように時を経て熟成したと言うべきか。「ハイスクール白書」の結末は登場人物を突き放すかのような実に苦い終わり方なのだが、「サイドウェイ」の行方には仄かな希望の光が差し込んでいる。

男ふたりのワイナリーを巡る珍道中が可笑しいし、男っていつまで経っても子供だよなぁと微笑ましくなる。ワインの蘊蓄も愉しい。ジョージ・クルーニーがシナリオを読んで落ち目の役者役を熱望したそうだが、無名の役者達で固めたキャスティングが功を奏している気がした。

目を瞠る傑作ではないけれど、ほのぼのとした暖かさが心に残る佳作ではなかろうか。



2005年03月19日(土) 来年のアカデミー賞を占う

気の早い話だが、来年のオスカーを賑わすであろう有力作品について語ろう。

まず何と言っても「The Producers:The movie Musical」である。メル・ブルックスが脚本・監督し1968年にアカデミー賞でオリジナル脚本賞を受賞したコメディ映画の大傑作「プロデューサーズ」を同じくブルックスが舞台ミュージカル用に脚色し、さらに作曲まで手がけて2001年のトニー賞を史上最多の12部門独占という快挙を成し遂げた作品なのである。

待望の映画化でメガフォンを取るのは舞台版の振り付け・演出を担当し、これが映画監督デビューとなるスーザン・ストローマン。トニー賞に続きオスカーも手に入れるのか大注目だ。彼女が受賞出来ればアカデミー史上初の女性監督受賞となる。その機運は熟した。

トニー賞主演男優賞を受賞したネイサン・レイン(同役をロンドンで演じる予定だったリチャード・ドレイファスが椎間板ヘルニアで出演不能になり、急遽代役に立ったレインは英国演劇界で最も権威のあるローレンス・オリビエ賞まで受賞した)、トニー賞助演男優賞受賞のゲイリー・ビーチをはじめ、マシュー・ブロデリック、ロジャー・バートなど舞台のオリジナル・キャストがこぞって出演する。筆者は初演された年ブロードウェイで幸いにもこのオリジナル・キャストによる「プロデューサーズ」を観劇する機会を得たが、そりゃあもう最高に面白かった。パーフェクトな作品である。ネイサン・レインはオスカー当確だろう。マシュー・ブロデリックも助演男優賞のカテゴリーに入ることさえ出来れば受賞の可能性がある(トニー賞では主演の枠だったのでレインと競合する形になった)。

残念だったのはおつむが空っぽで英語が喋れない金髪のスエーデン人グラマー秘書、ウラ役に当初ニコール・キッドマンがキャスティングされていたのだがニコールはラッセル・クロウ、ジェフリー・ラッシュなどオーストラリア俳優が大挙出演する予定だった「ユーカリプタス」のスケジュールの都合で「プロデューサーズ」を降板してしまったのである。おまけに結局、「ユーカリプタス」はクランクインの3日前に突然中止、無期限の製作延期となった。ニコールの代わりにウラに抜擢されたのはユマ・サーマンである。ユマには悪いけどやっぱりニコールで観たかったなぁ。映画の撮影は既に2月にクランクインしているので、今更致し方ない。

筆者は「The Producers:The movie Musical」を来年の作品賞候補ナンバー1と考えているが、この作品に死角があるとすればオスカーはコメディに冷たいということである。深刻な重いテーマの映画の方が過大に評価される傾向がある。だからもし、「宇宙戦争」を撮り終え、現在ポスト・プロダクション真っ只中のスピルバーグが次のプロジェクト、1972年のミュンヘン・オリンピックで、パレスチナ過激派によりイスラエル人選手11人らが犠牲となった事件を描く新作(タイトル未定)に直ちに取りかかり、年末までに仕上げてしまえば、これが最大のライバルとなるであろう。脚本は既に出来上がっているそうだし、スピルバーグは早撮りで有名なのでその可能性は十分にある。ハリウッドはスピルバーグを含めユダヤ人の巣窟なので、こういうユダヤ人が犠牲になる映画に弱いんだよね。まあメル・ブルックスもユダヤ人なので次回はユダヤ人対決になるのかも。

さて、少々長くなったのでこれくらいにして続きは次回に。読みたい人は投票をよろしく。



2005年03月11日(金) ローレライ浮上せず

筆者は遡ること昨年2/25の日誌にローレライよ、米国を撃て!という表題で映画「ローレライ」への期待感を書いた。

映画「ローレライ」を批判する人たちの多くは、まるで設定がアニメみたいだと異口同音に書いているが、筆者はそんなことは観る前から自明の事であると受け止めている。何故ならば一年以上前に書いたように原作自体が明らかにガンダムや宇宙戦艦ヤマト、新世紀エヴァンゲリオン、そして天空の城ラピュタ等の影響を受けているからである。

映画はあの長大な原作を2時間程度に要領よくまとめているし、役者も悪くない。しかしながら期待はずれであったと書かざるを得ないところに忸怩たる想いがある。筆者の評価はB-である。

何に失望したと言えばズバリ特撮である。「ローレライ」の監督、樋口真嗣は特技監督として参加した平成ガメラ・シリーズを、ハリウッド映画に匹敵するレベルで仕上げた特撮の鬼だけに今回も多大な期待をしていたのだが、兎に角オールCGの特撮がしょぼいのである。潜水艦にしろ駆逐艦、原爆搭載機にしろあくまでCGで描かれた「絵」にしか見えない。中に人が乗っていると信じられるリアリティが皆無なのである。まるで実写とアニメを融合させた「メリー・ポピンズ」とか「ロジャー・ラビット」、あるいはアニメーション総指揮を手塚治虫が担当した市川昆監督の「火の鳥」を観ているような感覚で、潜水艦内のドラマで盛り上がっていると突然CGアニメに切り替わるので萎えてしまうのである。

映画「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督は昔からミニチュア特撮が大好きで、特撮工房WETAワークショップは最新作「王の帰還」においても、登場する建築物の大半にミニチュア(あまりにも巨大なミニチュアなので<ビガチュア(bigature) >と呼ばれている)を使用している。だからあれだけの質感が出るのである。樋口監督はミニチュアを用いで平成ガメラシリーズで確かな成果をあげているのだから、今回も少なくとも登場する乗り物についてはCGのみに依存するべきではなかったのではなかろうか?それから予算がないから仕方ないのだろうが、テニアン島まで全てCG処理してしまったのには落胆した。せめて近場の島ででもロケをしてほしかったなぁ。殆どスタジオ撮影しかしていないのがバレバレである。トホホ・・・



2005年03月05日(土) 続・アカデミー賞で演技賞を受賞する方法<Ray/レイ>

筆者は昨年10/17の日誌で、アカデミー賞で演技賞を受賞する方法について書いた。それを映画「Ray/レイ」に当てはめて考察してみよう。

「Ray/レイ」でジェイミー・フォックスが演じるレイ・チャールズはまず全盲という身体障害者である。さらにヘロイン中毒ときた。これはアル中演技のバリエーションと言っても良いだろう。完璧に受賞の法則に当てはまった役柄なのである。さらに近年のオスカーは有色人種に対しても広く門戸を開いているということを必死にアピールしているので(今年の司会、クリス・ロックの起用が良い例だ)、フォックスがアフリカ系アメリカ人であるというハンディキャップ(と敢えて書く)も有利に働いたことは否定出来まい。だから彼の受賞は獲るべき人が当たり前のように獲ったと言えるだろう。

今年の年末にはロブ・マーシャル期待の新作「SAYURI」(原題Memoirs of a Geisha)の公開が控えているのでチャン・ツィイー、コン・リー、渡辺謙、役所広司などアジア勢(黄色人種)が来年のオスカーで沢山ノミネートされることを期待したい。

「Ray/レイ」の映画としての評価はB+である。非常に良くできた音楽映画。大人になってからのレイの旅路を追いながら、時折挿入される子供時代のエピソードが実に効果的で母と子の強い絆が観る者の心を打つ。

音楽もたっぷり愉しめるし、なんてったってジェイミー・フォックスはやっぱり凄い。レイ・チャールズの魂が乗り移ったかのような迫真の演技を是非ご堪能あれ。

まあ唯一の欠点といえば少々長すぎることかな。この物語を描くのに152分という上映時間は必要あるまい。



2005年03月01日(火) 検証-第77回アカデミー賞

オスカーナイトが終わった。前回の筆者の予想と合わせてご覧戴きたい。

本命のみで予想が的中したのは主演女優賞・助演女優賞・主演男優賞・助演男優賞・オリジナル脚本賞・脚色賞・外国語映画賞・美術賞・撮影賞・編集賞・メイクアップ賞・音響編集賞・視覚効果賞・長編アニメーション賞・長編ドキュメンタリー賞の全15部門である(対抗まで含めれば20部門であるが、まあこれは的中したとは言えないだろう)。昨年の本命のみの的中が16部門、一昨年が15部門なので例年並みか。

「アビエーター」の受賞数が6±1と予想し、蓋を開けてみると5部門だったのだが、「ミリオンダラー・ベイビー」が作品賞・監督賞を含め4部門も受賞したのは意外だった。それにしてもクリント・イーストウッドは既に「許されざる者」で監督賞を受賞しているので、今回は彼ではなく無冠の帝王・マーティン・スコセッシにオスカーをあげたかったなぁ。今後スコセッシにチャンスはあるのだろうか?

「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」の作曲家ジョン・ウイリアムズは毎年のようにノミネートされているが、今回も獲れなかった。残念。まあ、ジョンは今年「スターウォーズ エピソード3」とスピルバーグの「宇宙戦争」、それに「SAYURI」が控えているので、また次回もノミネートされるだろう。

そうそう、その「SAYURI」でヒロインの芸者=さゆりを演じるチャン・ツィイーがプレゼンターとして登場し(←クリック)、一寸緊張気味だったけれど相変わらず奇麗だった。

レニー・ゼルウィガーは今回黒髪で登場したけれど似合っていなかったなぁ。彼女は断然金髪の方が素敵だ。

今年のワースト・スピーチは断トツで主演女優賞のヒラリー・スワンク。感謝する人々の名前を羅列するだけの退屈なスピーチのくせに、家族に感謝して関係者に飛び、また家族の名前を挙げて、関係者に戻るという支離滅裂さ。おまけに最後に弁護士の名前まで飛び足すという醜態を晒した。ワースト・ドレッサーも彼女に謹んで進呈しよう。なんなんだ、あの拘束服みたいな地味でみっともないデザイン(←クリック)は??

クリス・ロックの司会も頂けなかった。政治ネタが多すぎるし面白くない。それから自分がアフリカ系アメリカ人であることを強調しすぎ。言いたいことは分かるがくどい。オスカーナイトは主義主張を訴える場ではないのだからもっとスマートにやって欲しい。今後彼が続投しないことを望む。やっぱりビリー・クリスタルが近年の司会者の中では一番巧いな。

ジェイミー・フォックスのスピーチは良かった。それからスペイン語の歌が歌曲賞を受賞するのは史上初だそうだが「モーターサイクル・ダイアリーズ」で受賞したJorge Drexlerがスピーチの代わりに歌で喜びを表現したのが洒落ていた。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]