エンターテイメント日誌

2002年09月29日(日) 遂にアメリカは宮崎駿にひれ伏した。

8/21の日記など、以前より再三にわたり「千と千尋の神隠し」(英語題名Spirited Away)全米公開の話題を取り上げてきたが、遂に9/20より封切られた。10都市26館という非常に小規模なスタートだが、これも「もののけ姫」US版(Princess Mononoke)の失敗を踏まえてのことであるから致し方あるまい。聞くところによると「千と千尋」全米公開にあたり、今回製作総指揮にあたったピクサー社のジョン・ラセター監督(「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」)は自らディズニー・プロに乗り込み、ディズニーが配給するよう熱を込めて説得に当たったという。そして実際の英語吹き替え版を監督したのは「美女と野獣」「ノートルダムの鐘」で共同監督にあたったカーク・ワイズ。このプロジェクトに対する並々ならぬ意気込みが感じられよう。

ではその実際フタを開けてみると、アメリカでの勝負はどうだったのか?Yahoo! moviesで検証してみよう。

ここをクリックするとYahoo! moviesへ飛ぶよ

まず週末3日間の全米興行成績ランキングBox Officeによると、「千と千尋」は限定公開にもかかわらず、第18位に食い込んでいる。映画館数が非常に少ないので興行成績を館数で割り、1館当たりで計算するとなんと「千と千尋」が全米NO1になるのである!第3週目より20都市と今後適宜拡大公開されていくので、近い将来ベストテンにランクインすることも夢ではなくなってきた。ディズニーも確かな手ごたえを感じている筈だ。

ではそのアメリカでの評価はどうだろう?Yahoo!ユーザー、つまり一般観客の評価は5点満点で9/29日現在平均4.7点。新聞評など(ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズ、シカゴ・トリビューン、etc.)批評家の評価は全てを平均してA-となっている。この評価がどれくらいのものかは具体的に比較対照して検討してみよう。

今年度アカデミー賞の最有力候補といわれる「ロード・トゥー・パーディション」がユーザー評価が4.0、批評家の評価平均がA-である。スピルバーグの最新作「マイノリティ・レポート」がユーザー3.9、批評家A-。昨年度アカデミー作品賞、監督賞を受賞した「ビューティフル・マインド」がユーザー4.2、批評家B。「ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間」がユーザー4.3、批評家A-。フランス映画「アメリ」がユーザー4.5、批評家B+。アカデミー外国映画賞を受章したイタリア映画「ライフ・イズ・ビューティフル」がユーザー4.3、批評家Bなのである。

いかに「千と千尋の神隠し」のアメリカでの評価が桁外れに高いかお分かり頂けたであろか?これは<手放しの絶賛>と表現しても決して大袈裟ではないだろう。

これで今年度の米アカデミー賞長編アニメーション部門は「千と千尋」で100%確定であると断言しよう。いや、うまくいけば作品賞そのものにノミネートされる可能性さえ出てきたといえるだろう。「美女と野獣」がアニメーション史上初めて作品賞にノミネートされたように。アカデミー賞授賞式が大いに楽しみになってきた。ニューヨークやロサンゼルスなどの批評家協会賞も必ずいくつか受賞するだろう。

しかし、アメリカ嫌いの宮崎さんは果たしてアカデミー賞授賞式に出席されるのだろうか?誰がオスカー像を受け取るのだろう?ラセター氏かな?こちらも要注目である。



2002年09月21日(土) とりあえず21世紀最大の問題作<サイン>

と学会(←クリック)をご存知だろうか?いわゆる「トンデモ本」の面白さを世に知らしめ、一代センセーションを巻き起こした集団である。是非この人たちには「トンデモ映画の世界」という本を出版してもらい、例えばマイク水野の「シベリア超特急」シリーズとか橋本忍の「幻の湖」、あるいはエド・ウッド監督作品(「プラン・9・フロム・アウター・スペース」「怪物の花嫁」「グレンとグレダ」)、さらに「死霊の盆踊り」「アタック・オブ・ザ・キラー・トマト」といった常人の理解を遥かに超える映画たちについて語り尽くしてもらいたいと言うのが僕の長年の願いである。

で、ナイト・シャラマン監督の超話題作、「サイン」を先行オールナイトで観た感想は、「これは文句なしに殿堂入りだな。」ということ。しかもこの究極のトンデモ映画に湯水のごとく莫大な製作費をかけ、全米NO1のヒットにしたのだからこの監督はただ者ではない。またこの監督、ブルース・ウィリスとか今回のメル・ギブソンとかいった典型的<大根役者>を好んで起用するというのも確信犯であろう。ちなみに「サイン」でのメル・ギブの出演料は$2,500万(約30億円)、シャラマンが獲得した脚本料は史上最高の$1,000万(約12億円)だそうだ!!いやはや・・・

では「サイン」とはどのような映画なのだろう?予告編を観るとSF映画?あるいはサスペンス映画のようにも一見思われる。しかし、それがシャラマンが仕掛けたとんでもないミス・ディレクションなのだ。実はこの作品を一言で言い表すなら<信仰を失った牧師が、神のお示しになった啓示、その奇跡に触れ、信仰を取り戻す>というお話なのだ。つまり一番近いジャンルは「天地創造」とか「十戒」、「偉大な生涯の物語」といった聖書物語なのである。しかしシャラマンはインド人なのだが、彼はヒンズー教徒でも、はたまたゾロアスター教徒でもなく、クリスチャンなのだろうか!?う〜ん、謎は深まるばかりである。

実はこの作品、仕掛けを公開前に明かさないため、全世界で試写会禁止令が発令されたのだが、それは単なるハッタリに過ぎず、「シッスク・センス」みたいなサプライズ・エンディングなどここには全く存在しないのだ。僕は予告編を観て、「矢追純一のUFO番組で日本人にも良く知られたミステリー・サークルをシャラマン監督が取り上げるのだから、何か新解釈を提示してくれるのかも。」と大いに期待したのだが、本編を観てみると<宇宙人が作った目印>というのだから全くそのままじゃないか!?シャラマンは、な、なんとアメリカの矢追純一だったのだ!

という訳でこの映画は「トンデモ映画」が大好きで、本作を観終わった後、酒の肴にして友達と笑い飛ばしたい人にお勧めする。もし貴方がこの映画を観て感動の涙を流したのなら、気をつけた方が良い。貴方は新興宗教に嵌まって、教祖の命令でサリンを撒いたり集団自殺を図ったりする危険性が大いにある。あるいはもし貴方の隣で彼氏、あるいは彼女が泣いていたら、悪いことは言わない、別れた方がいい。そいつはヤバイぞ。

しかし大作なんだからせめてUFOとかの特撮はしっかり見せて欲しかった。だってそういった事は全て不鮮明なテレビ映像でしか提示してくれないんだもん。あれじゃUFOなのか蛍光灯が灯っているだけなのかさえ、判別つかないよ。もっともシャラマンの脚本料とメル・ギブの出演料だけで予算オーバーになったから節約したのかも知れないけれどね(笑)。

シャラマンは「インディー・ジョーンズ4」の脚本執筆を正式に依頼を受けたが固辞したらしい。いやはや全く危ないところだったが、これで一安心。しかし、依頼する方もする方だよなぁ。

以下大いにネタバレし、映画に突っ込みを入れる。内容を知りたくない人はこれ以上先へ進まないように。
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心の準備はよいかな?


・この映画に登場する宇宙人は水が苦手だそうである。そして地球には人間を食べに来た。しかし人間の体は約60%が水分で構成されているのだ。どうして水が苦手なのに食べられるんだ??

・彼らはUFOで地球にやってきた。非常に文明が発達している。しかしどうして未開人みたいに素っ裸なんだ??水が苦手なんだろう?防護服をどうして着ないんだ??

・彼らはUFOで地球にやってきた。非常に文明が発達している。しかしどうして木のドアも破れないんだ??レーザー光線銃とか、せめてドリルとか斧とか、道具の一つも持っていないのか??

・どうして彼らは一日で地球侵略をあっさり諦めたのか?その理由を教えてくれ!!

・彼らは人間を食べる為にやって来た。だから人口が密集している都市部にUFOが集結するのは分かる。しかしどうしてメル・ギブが住んでいるあんな田舎の農場が狙われたのか??

・メル・ギブとその家族は妻の残したサインにより助かった。しかしテレビのニュースで言っていた。沢山の人が殺されたと。ではどうしてその人々には救済される為のサインが示されなかったのか?メル・ギブは<元牧師>だから救われたのか?しかしそれでは<選民思想>なのではないか!?

・息子は喘息発作のおかげで宇宙人が放った毒ガスを吸わずに助かったという。しかし毒ガスを吸わないということは清浄な空気も吸えないという状態なのではないか?何で窒息死しないんだ??

・映画のクライマックス、ホアキン・フェニックスはなにもあの貴重なバットで宇宙人を殴りつけて撃退しなくても単に水をぶっ掛けてやればそれで済んだのじゃないの!?彼らは水が苦手なんだから。



2002年09月14日(土) SF映画二題。<バイオハザード><リターナー>

<バイオハザード> 

有名なTVゲームの映画化である。この類いの作品は「トゥームレーダー」など今まで幾つかあったが、今回がいちばん出来が良いとの専らの評判。日本でも興行成績ランキングでトップに躍り出た。

悪趣味な映画である。品などない。ホラーとしての驚かせ方がハッタリというか、こけおどしに終始。まあそれもロメロの「ゾンビ」へのオマージュということを考えれば致し方ないことか。ただ、監督のゲームに対する思い入れが十分伝わってくるし演出の切れも悪くない。上映時間も1時間40分程度とコンパクトな仕上がりで途中飽きさせることがない。

また、ミラ・ジョボビッチがカッコいいし、全く必然性なく過度にセクシーで(笑)、サービス精神がおう盛なのもよろしい。肩の力を抜いてお気楽な気持ちで観れば腹が立つこともないだろう。佳作。

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<リターナー>
 
まあプロットが「ターミネーター」そのままで、「レオン」風味をタップリと振りかけたのはよろしかろう。巷でかしましい<過去のいろいろな映画のパクリ>とは敢えて申しますまい。ただ、恐らく企画の段階では<和製マトリックス>をという志でプロジェクトが動き出したのであろうということは想像に難くない。しかしどうもこの監督はファンタジー嗜好が強くて、どうしてもそっちの方へそっちの方へとベクトルが向こうとするのが映画のバランスを崩し、齟齬を来たしているのが非常に気になった。

終盤の主人公とヒロインの別れの場面は大林宣彦監督の「異人たちとの夏」を彷彿とさせた。それに大体こういうSFアクション映画(であるべき筈の作品)に'E.T.'もどきを登場させて「お家に帰りたい」と言わしめる必然性が何処にあるの??こんな詰まらない脇道に入り込まなくても、十分ハードボイルドな物語として成立する筈である。山崎貴監督は下手に自分でシナリオを書こうなどという色気を捨て、潔くプロのライターに委ねるという勇気を持つべきである。

…とまあ、悪口を言ってはみたが、サニー千葉(別名、千葉真一)の「宇宙からのメッセージ」とか、アメリカかぶれの原田真人監督が意味もなく全編英語で撮った「ガンヘッド」とか、大林監督の「漂流教室」とかショボイ和製SF映画を見さされる度に失望して溜め息をつき続けていた身としては、今回の映画は「よくぞここまで頑張ったなぁ。」と労いの言葉を掛けたくなるレベルに達していたことだけは評価したい。少なくとも映画を観ている途中で、退屈の余り席を立ちたくなる衝動には駆られなかったのだから。まあ逆に言えばその程度の出来でしかない作品ということだ。

役者陣の中で鈴木杏がずば抜けた好演。TVドラマ「青い鳥」に出演していた頃から名子役として光っていたが、彼女は魅力に富む大人の女優に成長しそうで今から頼もしい。ただ太り過ぎには気をつけてね。

CGの登場のおかげで、余り予算がなくてもハリウッド映画に拮抗出来る特撮映画が日本でも製作出来る可能性が生まれてきたことは素直に喜びたい。若い日本のフィルム・メーカーたちよ、大志を抱け!



2002年09月07日(土) 地方発、全国へー映画<なごり雪>始動

大林監督の最新・最高傑作との呼び声が高い映画「なごり雪」については既に4月22日と5月12日のエンターテイメント日誌で触れた。大分県臼杵市で撮影されたこの作品は、4月の大分での上映を皮切りに大林監督と伊勢正三さんのトークとコンサート付きの上映会が山口や広島などで行われ、現在北上中である。そして筆者は9月6日に愛媛県松山市の全日空ホテルで開催された「スクリーン・コンサート」に往ってきた。東京、有楽町スバル座での上映は9月28日、大阪OS劇場C.A.Pでの上映は10月5日から。まさに<地方から発進し全国へ>というこの映画の姿勢に相応しい展開である。

コンサート・ホールなどで行われる他会場が大体入場料3500〜4000円なのに対し松山だけは前売り6000円当日7000円というぼったくり(笑)。さすが全日空である。だから非常に高額なので集まる人数は少ないだろうと高をくくっていたら、甘かった。開場時刻30分前に着くと既に100人くらいの列が出来ていて目を剥いた。最終的に用意された1000席弱の椅子がほぼ満席となった。

大分県では「千と千尋の神隠し」に匹敵する大ヒットとなったこの「なごり雪」だが、その他の地域でも着実な観客動員を望めそうな手ごたえを感じた。こういうユニークで手作りの温もりのある配給の仕方を決断した映画会社、大映(山本洋プロデューサー)の大英断をこそ、まず讚えたい。そういう意味で、この「なごり雪」は21世紀の新しい日本映画のあり方に一石を投じるものとなった。

スクリーン・コンサートが始まったのは午後6時半。まず大林監督のピアノ演奏、伊勢さんのギターによる「なごり雪」の旋律に基づく即興演奏があり、トークに突入。そして映画の上映が終わったのが8時50分。それから1時間の休憩があり、その後約1時間の伊勢さんによるコンサートが行われ、終了したのが午後11時であった。

映画「なごり雪」には「ショムニ」などに出演し人気女優となった宝生舞のヌード・シーンがあり、この話題は先日同時期に「週刊現代」「週刊ポスト」に記事として取り上げられた。大林監督曰く
「あれは『宝生舞が脱いだ!』ではなく、何も着てないだけなんです(場内爆笑)。」
大林監督の映画「あした」でデビューした彼女は今回脇役にもかかわらず「大林映画に恩返しがしたい」とひとり大分県臼杵市まで足を運び、映画に参加した。撮影中に書いていた絵の題名を監督に聞かれて彼女は<泣く前>ですと答え、ひっそりと微笑んだという。そんな彼女を思い遣り、大林監督は<泣く前>という詩を書いてそれに伊勢さんがメロディを付け新曲が生まれた。そのお披露目も今回のコンサートであった。筆者は今まで宝生舞のファンでは決してなかったが、今回の彼女の男気というかその心意気に心底惚れたゼ。

しかし今回特筆すべきはなんといってもヒロインを演じた須藤温子ちゃんだろう。もう無茶苦茶、可愛い!きりりと背筋が伸び、美しい日本語を喋る古典的美少女である。筆者は劇場公開された大林映画を全て観てきたが、彼女は歴代の大林ヒロインの中でも間違いなくトップ・クラスに属するだろう。もう映画を観た男性諸氏がメロメロになってノック・ダウンされるのは間違いなし。特に彼女が演じる<雪子>が暗い夜空を見上げ、雪が降るのを希う横顔のショットが魂が震えるほど美しかった。この奇跡のようなワン・カットの為だけでも「なごり雪」は観る価値がある。

映画の終盤、主人公の祐作と友人・水田の別れの場面で、号泣する水田を見ながら
「ああ、ここにヒロインの雪子が不在であるのがなんと物足りないことか!やはりこの映画の最後には絶対に雪子が登場しないと納得がいかない。」
という想いがあり、それをまるで予期していたかのように主題歌「なごり雪」の流れるエンド・ロールにおいて、雪子が再び登場しカメラの向かって歩み寄ってきて微笑むアップのカットを見た瞬間「あっ!」と唸った。これはまるであの「時をかける少女」の伝説的カーテンコールそっくりではないか!!そこで須藤温子ちゃんと原田知世の面影が重なり合い、大林恭子プロデューサーが掲げた<『転校生』の初心に還る>という製作意図の真の意味を理解した。

だからこそ、別の側面から眺めるとこれは正統的<アイドル映画>でもあり、そういう意味ではあの美少女チャン・ツィイーを愛情を込めてなめるように撮ったチャン・イーモウ監督の「初恋の来た道」と、この「なごり雪」はあたかも姉妹のような関係にあるのである。「初恋の来た道」をこよなく愛する者たちよ、「なごり雪」もゆめゆめ見逃すことなかれ。

「なごり雪」という唄が生まれて28年。その高度経済成長期に拝金主義に走った日本人が見失ってしまった心、そしてその間に破壊し尽くされ荒廃した日本の国土、そして日本語。かつて美しかった日本、そして日本映画が誇らしく保有していたものがこの映画の中に息づいている。これは古里自慢の映画である。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]