エンターテイメント日誌

2001年11月29日(木) 本年度の映画賞の行方を占う

もうすぐ師走。映画にとっては各種映画賞が発表になるシーズンだ。そこで今年の日本での映画賞の予想を立ててみようと想う。

なんと言っても今年を代表する作品といえば「千と千尋の神隠し」と「GO」であろう。この両雄が作品賞や監督賞を競い合うことは間違いない。「タイタニック」の保持する記録を塗り替えた宮崎アニメの大ヒット作とコリアン・ジャパニーズの青春を瑞々しく、そして軽快なテンポで描き切った秀作。どちらも魅力的であり、映画の醍醐味が溢れ出さんばかりに詰まっている。ただ、宮崎駿監督は今までに数々の栄誉を受けてきたし、心情的には「GO」を応援したい。それは賞の審査員とて同じことであろう。当然脚本賞も勢いのある「GO」で決まりだ。

「GO」で高校生の主人公を、突っ走るような大胆さと、一方で傷つきやすい繊細さで演じきった窪塚洋介クンは新人賞総なめは当然のこととして、主演男優賞にも十分値する名演技であった。このままスピード緩めず行っちまえ!GO!!

ぶっきらぼうでいながら、さりげなく子供のことを愛情を持って見守っている父親を好演した山崎努も大半の助演男優賞をかっ攫うであろう。いや、そうでなければおかしい。母親役の大竹しのぶも良い。存在感がある。

ただ、このあたりに比べると主人公の恋人役・柴咲コウの影は薄かった。彼女が受賞の対象になる映画賞があるとしたらそれは一寸いただけないなぁ。

主演女優賞は個人的に「柔らかい頬」「狗神」「連弾」に立て続けに主演し、一皮も二皮も剥け大躍進した天海祐希に取らせてあげたい。今年の彼女の大活躍こそ、その栄誉に最も相応しいと想う。



2001年11月18日(日) (11/23更新)2002年正月映画を語り尽くすっ!

今年の正月映画は「ハリー・ポッターと賢者の石」で決まり。おしまい(笑)。・・・という訳にもいかないから(^^;、もう少しコメントを。

「ハリー・ポッターと賢者の石」略して「ハリポタ」
世界的な驚異のベストセラーを原作に待望の映画化だから、スーパーヒットは既に約束されている。前売り券も凄まじい売れ行きで(前売りに付くおまけ目当ての人も多かったらしい)、上映館数も空前絶後とか。子供達は皆これを観に行っちゃうから、東映まんが祭りは今回はやるだけ無駄と見た。後の関心は果たして「ハリポタ」が「千と千尋」が樹立した興行成績の記録を抜けるかどうかだけ。宮崎ブランドvs.世界最強の児童文学。その鍵は大人の観客をどれだけ呼べるかにかかっているだろう。「千と千尋」が「タイタニック」の樹立した動員人数の記録を塗り替えた後、興行成績でも上回るまで1ヶ月以上のタイム・ラグがあった。それはシネコンなどの各種割引のためと、子供の比率が多かったからだと分析されている。そうそう、そらからジョン・ウイリアムズが作曲した「ハリポタ」のサントラCDは既に手元にあるが、期待を裏切らない出色の出来。来年のアカデミー作曲賞は「ハリポタ」か「A.I.」でジョンに決まり!

「シュレック」
ピクサー&ディズニーの牙城に、宿敵ドリーム・ワークスが満を持して勝負を挑んだフルCGアニメ。パロディ満載で面白いと大評判。実はアメリカでは既にDVDが発売されていてamazon.com等で入手可。北米版リージョン・コード1のDVDはリージョン2の日本のプレーヤーでは再生できないけれど、ちゃんと我が家にはリージョン1プレーヤーもあるもんね〜(自慢)。今回の正月戦線は「ハリポタ」が一人勝ちになるのは目に見えているが、次点は「シュレック」になるんじゃないかな。大とは行かないまでも中ヒットになると予想。

「アトランティス」
ハッキリ言おう。「ハリポタ」と「シュレック」の陰に隠れてディズニーのこの新作は間違いなくコケるね。3本映画見るほど子供達はお小遣い持ってないよ。ゲームだって買わなくちゃいけないしね。それにこのアニメはハッキリしたコンセプトが欠けている。以前のディズニーならミュージカル・アニメという独自の魅力があったけれど、それを捨ててしまったら一体全体後に何が残るの?絵の力やストーリー・テラーとしての面白さという点で宮崎アニメに太刀打ち出来るわけないし、目の肥えた日本の観客を満足させることが出来る筈ないだろう。奢れるもの久しからず。出直しておいで。

「スパイ・キッズ」
「デスペラード」のロバート・ロドリゲス監督とアントニオ・バンデラスという超濃厚な(^^;コンビの新作だが、今回は趣向を変えて子供達を主人公にした明るい冒険活劇らしい。個人的に楽しみなのはアラン・カミングが出演していること。カミングは舞台版「キャバレー」でトニー賞の主演男優賞を受賞した妖しい怪優。ディズニー版TV映画「アニー」でも何とも愉しそうに演じていたのが印象的だった。「タイタス」のローマ皇帝役も怪しさ爆発!最高にご機嫌な俳優だね。

「アクシデンタル・スパイ」
まあ、ジャッキー・チェンのアクション映画だからそこそこヒットするだろう。それにしてもジャッキーも年なのに、相変わらず体を張って頑張るねえ。関心するわ。

「スパイ・ゲーム」
スパイもの大流行(^^;。ロバート・レッドフォードとブラッド・ピット共演というのが最大の魅力かな。ブラピがレッドフォードが監督した名作「リバー・ランズ・スルー・イット」に出演した当時、若き日のレッドフォードにそっくりと評判になった。どれ、この際二人をじっくりと見比べてみようかな?しかしこの映画、正月映画の中では影が薄いね(^^;。

「千年の恋 ひかる源氏物語」
女優が豪華で正月らしい文芸大作ではあるが、監督はテレビの人だし何だか大味な映画になりそうな予感。宝塚の男役で一世を風靡した天海祐希が光源氏をどう演じるかに興味は尽きないが、他の女優陣に全く魅力を感じないんだよなあ。そうそう、それから音楽を富田勲氏が担当することには期待しています。

(以下11/23更新)

「バンディッツ」
ブルース・ウィリス主演の犯罪映画。ルパンみたいなスタイリッシュな盗みを身上とする泥棒のお話だそうだが、内容といい出演者といい、正月映画としてはちょっと地味では?・・・というのは裏があって、20世紀FOXとしてはデカプリオの新作「ギャング・オブ・ニューヨーク」を準備していたのだが、映画製作が遅れ予定の12月公開に間に合わなくなって、苦肉の作で急遽上映繰り上げとなったという曰く付きの作品なのである。
僕が監督のバリー・レビンソンの映画で今まで良いと感じたのは自伝的色彩の強い「わが心のボルティモア」だけ。「レインマン」にしたところで演出のテンポが悪いんだよね、この人。だから新作も全く期待していません。

「バニラ・スカイ」
スペイン映画「オープン・ユア・アイズ」のリメイク。主演はニコール・キッドマンとの離婚で男を下げたトム・クルーズ。だって、「ニコールが流産したのはユアン・マクレガーと不倫して出来た子供。」なんて公言しちゃったんだゼ。信じられる(^^;?例えそれが仮に事実だったとしても、そんなこと暴露するような奴は男の風上にもおけねえなぁ。これでトムは全世界の女性達を確実に敵に回しちまったと言っても過言ではなかろう。それに引き替え同時多発テロの影響で映画スターの来日キャンセルが続く中、果敢にも東京にやってきたニコール・キッドマン。曰く「私は約束を守る女」。何て男気のあるいい女なんだ!惚れたぜ。
さて、「バニラ・スカイ」でトムと共演するのは今年の東京国際映画祭での来日を再びドタキャンし、ニコールの爪の垢でも煎じて飲めと日本の映画ファンの顰蹙を買ったキャメロン・ディアス。そんなふたりの出演作がこの激戦が予想される正月戦線を無事に生き残れる筈もなかろう。

「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」
なんてったって新生ガメラシリーズを傑出した作品にに仕上げた金子修介監督だから大いに期待してまっせ。前評判も上々だし、大人の鑑賞に堪えるハイレベルな仕上がりになっているのは間違いないだろう。それにしても果たして今度はどんな美少女を登場させるのか?<だってそれが金子監督の趣味だから(^^;。
しかしねえ、なんといっても惜しまれるのはガメラを生み出した名脚本家、伊藤和典氏(「機動警察パトレイバー」シリーズでも有名)と金子監督が「ガメラ3」で激しく衝突して、決別したこと。名コンビだったのに惜しいなあ。まあ、確かに「ガメラ3」は現場の混乱を反映して支離滅裂な展開になってしまっていたけれど・・・



2001年11月13日(火) 凋落する岩井俊二

岩井俊二監督は天才だった。と、敢えて過去形で言い切ってしまおう。

僕が初めて観た岩井映画はLOVE LETTER。話の持って行き方は些か強引であるが流麗なカメラワーク、美しいショット、そして全編を包むリリカルな詩情が印象的だった。付け加えるならばあの頃の酒井美紀は無茶苦茶可愛かったなあ(^^;。旬というのは残酷な物だ。しかしその今は失われてしまったけれど、煌めいていた一瞬の「時」は永遠にあの映画に刻印されている。そして岩井映画との決定的遭遇でノック・アウトされたのが「打ち上げ花火、横から見るか?下から見るか?」である。この本来はテレビ放送用に製作され、日本映画監督協会新人賞を受賞した50分余りの中編は日本映画史上に燦然と輝く金字塔となった。一夏の少年の日の忘れ得ぬ想い出が鮮烈に息づいている。夏の日差し、花火の色彩、キラキラ光の反射するプール・・どれもが余りにも眩しすぎる。嗚呼、何という切なさ!

岩井監督が変調を来し、おかしくなり始めたのは「スワロウテイル」からである。当時若い世代から圧倒的支持を得て、観ることが自体がファンションにもなった作品であるが、僕に言わせればあれは屑に等しい。変に作家ぶった「自意識過剰」「気取り」が全編を通して鼻につき、異臭を放つ醜い作品であった。アジアとか無国籍とかに拘りながらそれが上手くプロットに噛み合っていない。偽札を造る子供達を肯定的に描く姿勢もどうかと想った。カメラは始終揺れて見苦しく、映像もくすんで汚い。岩井監督としては今までの自分のスタイルを捨て去ることによって飛躍したつもりで悦に入っているのだろうが、僕にはそれが似つかわしくないとしか想えなかった。

その後岩井監督は松たか子主演で中編「四月物語」に取り組む。これは以前の美しい映像で撮るスタイルではあったが、いかんせんシナリオが弱すぎた。直線的でひねりのないプロットが詰まらなく、ムードだけで見せる「出来損ないの少女漫画」みたいな作品に仕上がった。決して嫌いではないけれど繰り返し観る気にはならない。そういうことだ。

それから何年か沈黙が続いた。ドキュメンタリー「少年達は横から花火を見たかった」を撮ったり(さほど大した出来ではなかった)、映画「式日」に俳優として出演したり細々と活動はしていたけれど本業の方はご無沙汰だったのは確かだろう。そして今年遂に満を持して世に問うたのが映画「リリイ・シュシュのすべて」である。

まあ観る前から嫌な予感はしていたのだが、案の定「スワロウテイル」の延長上にある作品であった。少年達の万引きを決して否定的に描かない姿勢も「スワロウテイル」の偽札造りを彷彿とさせる。インターネット、携帯電話、援助交際、虐め、自殺など現代的なキーワードが散乱するこの映画を「痛い」と感じ共感する十代も多いようだ。僕から見れば「荒れる中学生」に対して「おじさんはね、君達の気持ちが良く分かるよ。悪いのは君達じゃない。君達を取り巻く環境のせいだ。」とでも言いたげな岩井監督の姿勢が痛々しく、いやむしろ気色悪い。ただ自己中心的な思考能力しかない連中を甘やかすんじゃないよ!貴方みたいな駄目な大人が世の中に溢れていているから、ろくな躾も出来ずに低級な子供達が育つんだ。

それからカリスマ歌手リリイの掲示板に投稿するハンドル名「青猫」の正体は誰か?という謎が一応この映画のクライマックスになってはいるのだが、思わせぶりに引っ張った挙げ句そこには全く意外性もなく、「だから何なのさ?」という白けた気持ちにさせられた。 

やはり映像は暗く醜く、特に西表島のシーンで出演している子供達に撮らせた映像を延々と見せられるのには閉口した。まるで「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の悪夢再来である。またライトを正面一方向からのみ当ててみたり、わざとに素人が撮った自主映画風にしているのだが、その監督の意図が僕には全く不可解である。プロの映像を見せなくてどうする!?単なる無意味な「気取り」としか考えられないのだが・・・僕の大好きなドビッシーの「アラベスク」をこの作品に使用したことも許せない。まるで大切な人が汚されたような心境である(笑)。

と、ボロクソに書いてきたが、確かにはっとするような美しいショットも数少ないながらあるのは確かである。田園風景の中、少年が真剣にCDウォークマンの音楽に聴き入っている姿。援助交際の後、ホテルから出てきた少女が絶望して川に入っていき、それを少年が追いかける夕刻の情景。鉄塔の回りを風に舞う沢山の凧。・・・それらに僕はこの駄目映画の救いを見出し、希望を持った。

監督は「リリイ・シュシュのすべて」について「自分で遺作を選べるなら、これを遺作にしたい」と語っている。もはやあちらの世界に逝ってしまった岩井監督。是非こちらに戻ってきて欲しいと今は只、願うばかりである。

この映画を観たことを、時間の無駄だったとか後悔はしていないけれど、それにしてもこの程度の物語を語るのに上映時間2時間半というのはいくら何でも長すぎない?



2001年11月05日(月) テルミン博士の大冒険

「テルミン」という摩訶不思議な音色を奏でる電子楽器の存在を知ったのは、僕が中学生の頃である。ヒッチコック映画が好きでイングリット・バーグマンにも憧れを抱いていたうぶな少年だったので(^^;、当然の成り行きで「白い恐怖」を観た。アカデミー作曲賞を受賞したそのミクロス・ローザ作曲による音楽は、美しく浪漫的でたちまち魅了された。そしてグレゴリー・ペック演じる主人公が白地に縞模様を観ると眩暈に襲われるその場面で、テルミンが効果的に使用されていたのである。

ローザは当時テルミンがお気に入りだったらしくビリー・ワイルダー監督のアル中映画「失われた週末」でも導入している。これまた僕のお気に入りの作曲家バーナード・ハーマンもSF映画「地球が静止する日」でテルミンを用いている。このサントラCDは勿論愛蔵版として所持しているが、実は映画自体は観たことがない(笑)。

こうして、僕にとってテルミンはオンド・マルトノ(オリビエ・メシアンが「トゥーランガリーラ交響曲」で使用したことで有名な電子楽器)と並んで20世紀に生まれた最も謎めいた、魅力的な楽器として記憶されてはいたのだが、実際のところ楽器自体を見たことはなく、オンド・マルトノ同様鍵盤楽器なのかな?などと、いい加減な想像していた。

この度遂に今年最大の話題作、ドキュメンタリー映画「テルミン」を観ることが出来て、まずその異様な演奏法に驚いた!楽器に一切触れることなく、手を近づけたり遠ざけたりする事により音程や音の強弱が決定されるなんて前代未聞、想像だにしなかった。自分の絶対音感だけが頼りだからある意味それは最も「うた」に近いかも知れない。電子楽器という近代性とは裏腹のアナログな奏法。このギャップが面白く、又テルミンを演奏する姿は何処か滑稽ですらある。それこそSF的光景と呼んでも良いだろう。

この奇天烈な楽器を創作したテルミン博士がまた、想像通りの変わり者だから可笑しい。彼が発明したという他の楽器も映画の中で紹介されるが、どれも実用性の乏しい奇妙な物ばかり(^^;。「テルミン・ダンサー」というのが存在したという事実がまた爆笑もの。映画に登場し、コメントする博士の知り合い達も何処か風変わりな人たちである。でもそこが魅力的であり、何だか愛おしいんだなあ。テルミン博士が辿った驚天動地、波瀾万丈の生涯にも触れたいのは山々なのだが、そこのところは貴方自身で映画をご覧になりご確認下さい。しかし、博士の発明品を見る限り、国家の役に立つ研究とは僕にはとても思えないのだが・・・

その想像を絶する人生には語り尽きせぬ苦悩もあっただろう、絶望的な境地にも追い込まれたであろう。しかしその人生の終わりに、愛弟子であり生涯の恋人でもあったクララと長い年月を経て再会した博士の表情は穏やかな笑みを浮かべ、満足そうであった。その時の博士の顔こそがこの映画最大のクライマックスである。必見。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]