2001年05月29日(火) |
韓国映画ニュー・ウェーブ |
昔観た韓国映画と言えば「風の丘を越えて/西便制」の印象が強烈であった。 韓国の伝統芸術「パンソリ(歌い手ひとり、奏者の鼓手ひとりによって演奏される)」を継承しながら旅する父と娘。ある種ストイックで、民族意識が全面に出た重厚な映画であった。
しかし、その印象が変わったのはいつごろからだろう?ここ数年、韓国映画は確実に変わってきている。「8月のクリスマス」は静謐な抒情を内に秘めた恋愛映画であった。「シュリ」はジョン・フランケンハイマー監督の「ブラック・サンデー」やウォフルガング・ペーターゼン監督の「ザ・シークレット・サービス」などを彷彿とさせる、サスペンスとアクションてんこ盛りの娯楽作品だった。それは「韓国映画のハリウッド化」と言い換えることも出来るだろう。「シュリ」を観たとき、「この監督はジョン・ウーみたいに将来ハリウッドに招かれるだろう。」と予感したが、今年「シュリ」の全米公開が決まったそうで、着実にその第一歩を踏み出しているなと感じた。
現在公開中の「共同警備区域JSA」にも同様な印象を受けた。38度線の国境で響き渡る銃声。一体何が起きたのか?・・・映画はミステリイ仕立てで進行する。そして最後に真実が明かされるとき民族分断の悲劇の構造が浮かび上がるという仕組みである。語り口は滑らかでテンポ良く、観ていて小気味よい。凝ったカメラワークも新鮮。そんな作り方が如何にもハリウッド的なのだ。同じ様な構成の映画として「将軍たちの夜」「戦火の勇気」「将軍の娘 エリザベス・キャンベル」等が思い出されよう。だから内包するテーマは重いのだが、エンターテイメントとして仕上がっているのでそれほど心にはズシリと響かないのだ。それがこの映画の長所であり、同時に短所でもあるだろう。しかしながら、意表を突く鮮やかなラスト・シーンには唸らされた。上手いっ!
北朝鮮兵を演じたソン・ガンホがなかなか「男気」があって格好良く、印象的だった。ヒロインを演じた「酸素のような女」との異名を持つイ・ヨンエは驚異的な美貌で、なかなか日本の女優さんでこれだけ綺麗な人にお目にかかることは出来ない。「ニュース・ステーション」にゲストで登場したとき、久米宏さんがメロメロだったのも頷ける(^^;。ただし、映画で彼女が演じた役がシナリオの弱さから中途半端で、狂言まわしとはいえ物語の流れから浮いてしまっていたのが気の毒だった。今度は軍服姿ではなく、彼女の清楚で華やかな魅力が生かされた役で是非再会したい。
余談だが38度線ってあんな風に、簡単に行き来出来るものなのだろうか(^^;?? ジャン・ルノワール監督、不朽の名作「大いなる幻影」で国境というものの重みを深く胸に刻み込まされたのだが・・・ 「ベルリンの壁」みたいなものもなければ鉄条網さえないのには些か驚いた。
2001年05月20日(日) |
幻の名作<プロデューサーズ>は21世紀に花開く |
メル・ブルックス監督の長らく日本未公開だった映画「プロデューサーズ」(1968)が今年遂に公開された。この映画、以前ビデオやレーザーディスクが日本でも出ていた様なのだが、僕は残念ながら今まで観るチャンスに恵まれなかった。そして今回「プロデューサーズ」がBS-iで放送されたのを機会に、とうとう観ることが叶った。
メル・ブルックス監督第1作で、映画公開翌年にアカデミー脚本賞を受賞、2000年AFI(全米映画協会)が発表したコメディ映画史上ベスト100の11位にこの映画は選ばれている。 主演は有閑マダムから制作資金を集めるだけ集めて、わざと出来の酷い作品を上演して直ぐにクローズし、大金を猫ばばしようと計画するブロードウェイのプロデューサーにゼロ・モステル、彼に協力する会計士にジーン・ワイルダーが扮している。 兎に角、劇中ミュージカル『ヒトラーの春』(作詞・作曲ブルックス)がもう最高!! ♪Springtime for Hitler and Germany...♪という旋律が頭にこびり付いて離れないこと、請け合いである。 映画「四十二番街」の群舞を俯瞰ショットで捉えた幾何学模様などで有名なバズビー・バークレイ振り付けのパロディあり、エリノア・パウエル主演「踊るアメリカ艦隊」(1936)ばりの大砲まで登場し、これはもう抱腹絶倒の面白さであった。惜しむらくはこの劇中劇が短いこと。もっともっと見続けていたかった・・・ ただ、このヒトラーを笑い飛ばした前代未聞のミュージカル、迫害を受けたユダヤ民族であるメル・ブルックスだからこそ許される、きわどいギャグだということも同時に感じた。もしこれをアングロサクソンが作っていたら 「ユダヤ人を大量虐殺したヒトラーを笑いのネタにするなんてけしからん。」 と非難されたのではないだろうか?
さてこの映画、今年ブロードウェイで舞台化された。 メル・ブルックスが脚本、作詞、作曲も手掛け、「クレイジー フォー・ユー」「コンタクト」「ザ・ミュージック・マン」で有名なスーザン・ストローマンが演出、振付。出演はマシュー・ブロデリックとネイサン・レイン。トニー賞史上最多の15部門にノミネートされ、作品賞、演出賞、そしてネイサン・レインの主演男優賞受賞は確実な状況といわれている。 このミュージカルをどうしても観たくて僕は遂に初めての渡米を決意した(笑)。 チケット手配を専門業者に委託したところ、凄い人気でなんと8月一杯まで3階席しか残席がないとのことである。プレミアだと既に1枚$600(約7万円)以上で、6月に発表されるトニー賞の結果次第では更に跳ね上がるだろうとのことだ。 今年の夏、ブロードウェイに往くことを計画されている方は、迅速に行動されることをお勧めする。
2001年05月09日(水) |
<トラフィック>を観終わって残るもの |
スティーブン・ソダーバーグ監督作品はカンヌ映画祭でグランプリを受賞した彼の処女作、「セックスと嘘とビデオテープ」を観ている。これを観て感じたのは「ソダーバーグってまず頭で考える監督だなあ。」ということ。なんだか理屈っぽくて余り感情移入できる要素がなかったのだ。 同様の感覚を新作「トラフィック」でも味わった。ドキュメンタリータッチで硬質な印象。3つの場所で起こるエピソードを巧みに絡ませて最後にそれらが収斂していく脚本は見事の一言だし、そのそれぞれを「画調(質感)の違い」で描き分けた演出は成る程面白くて分かり易いのだが、「上手い」というただそれだけで、映画を観終わった後の感銘というか充実感が希薄なのだ。つまり、この映画は麻薬を主題にしているがそれはただの「素材」に過ぎず、其処に込められた製作者の想いがこちらに伝わってこないのである。 だからアカデミー賞で脚色賞や監督賞を受賞したのは「技巧賞」として頷けるし、それにもかかわらず作品賞を受賞できなかったということも、アカデミー会員の見事な判断だったと今更ながらに関心してしまう。
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