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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2006年04月26日(水) --

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『ひとときの永遠』

全米ロマンス作家協会の「RITA賞」、そのベスト・ファーストブック賞を2004年に受賞したスーザン・クランドルのデビュー作。 どうやって探したのか忘れてしまったが、ネットで最近見つけた。 シチュエーションに惹かれて入手。

原題は『Back Roads』、インディアナ州の田舎町「グレンズ・クロッシング」を舞台に、女性保安官と「町へやってきた流れ者」(注:カバー見返しより)の恋を描く。

保安官のリー・ミッチェルは30歳の誕生日を前に、これまでの優等生ぶりを返上しようと決意している。女性保安官という職業自体がアメリカンだが、選挙によって選ばれるらしい。「新しいリー」(英語ではnewlyとの語呂合わせ?)は、カーニバルの夜出会った見知らぬ男性、ウィルに惹かれてゆく。 直後に起こった18歳の少女の蒸発事件。小さな町は混乱に陥り、流れ者が疑われる。

ウィル・スコットと名乗る男は、リーにとって理想的な相手なのだが、決して過去を話さず、後ろめたい影がつきまとっている。職業上の経験や勘と、これまでまったく知らなかった恋愛感情とのせめぎ合いのなかで、「新しいリー」は成長していった。

ロマンス小説としての面白さという点では、情況設定さえ受け入れられれば、深い味わいがあると思う。自分自身の過去にある傷を自覚している大人にとっては、リーとウィルがお互いに見つけた感情に、段階ごとの癒しがあることだろう。

リーもウィルも、これまでの苦しい経験から「あきらめていた」にもかかわらず、「逃げられない」恋愛モードを呼び込んでしまう。「新しいリー」になる決意がそうさせたのだろうし、ウィルにとっても、この町には幸せな思い出があったのだ。

ロマンス小説だから、きちんとハッピーエンディングになることは承知しているとはいえ、二人とも立場的には相当苦しいものがある。女性の立場としては、途中まで不安だったリーがウィルを信頼する経緯に共感する。とりわけ、直感的にウィルの無実を信じるようになる場面など、「街中が敵」でも「私だけは味方」というのだから。

ここに描かれる町の住民たちの姿も、興味深い。 ちょっとデートしただけで、全員に知られてしまうような町だけれど、知られざる美点もある。ロマンス小説とくくるには文学的、それでも中心にはロマンスがしっかり呼吸している。こういう物語は日本にはないなあ、誰か書いてよ、といつもながら思う。

そしていつもながらフンフンと思うのは、誰の本を読んでも、主人公たちが相手の年齢をまったく考慮していないことだ。ほとんど尋ねもしないのだから。(マーズ)


『ひとときの永遠』著者:スーザン・クランダル / 訳:清水寛子 / 出版社:二見文庫2006

2004年04月26日(月) ☆私の「癒し系」ブック
2002年04月26日(金) 『ニーベルンゲンの歌』

お天気猫や

-- 2006年04月22日(土) --

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『コサック軍シベリアをゆく』

コサックの首領にしてロシアの歴史に残る実在の英雄エルマークと、彼に従って旅をした少年、ミーチャの物語。

ヴォルガの河口から北上し、ウラル山脈を越えて、東へ東へと進むコサック軍。 チンギス・ハーンの末裔がタタール人とともに支配していたシベリアの奥地まで、彼の遠征は続く。皇帝の旗を大陸の端まで掲げるために、反逆者とみなされていたコサックの名誉回復のために。

そんなロシアの歴史をほとんど知らなかった私には、物語全体が、まるで『指輪物語』のホビットが体験した冒険のようでもあった。故郷を離れてはるばると、戦いに明け暮れる苦難の旅をし、ふたたび故郷をめざす旅。 夢見た村に帰りついたミーチャが感じた思いを誰よりも知る人は、フロドというよりもかのビルボ・バギンスだろう。

最初から物語の強い流れがぐんぐんと引き込む。馬にまたがり、いかだを組んで、コサック軍は進んでゆく。ミーチャのような少年が一人ぐらい、コサック軍のあらくれ達のなかに混じっていたとしても、不思議はないだろうと思える。彼の葛藤と成長を映し出すたぐいまれな描写は、ローマ軍の若者たちを描いたサトクリフの血をも思わせる。

ミーチャは故郷の村を訪れたエルマークに魅了され、彼とともに行動する決心をする。 唯一の友人だった少女イリーナの制止を振り切って、すべてを捨て旅に出てしまう。 行く先にどんな苦難が待ち受けているのか、どれほどの名誉が微笑むのか、まだ何も知らずに。エルマークはそんなミーチャを見守ってくれた。

大いなるロシアの領土が東へとひらかれゆく決定的瞬間が、本書の火薬であるとするなら。感受性の豊かなミーチャが戦いの日々に体験した人生のマイルストーンは、物語を照らすキャンドルのようだ。

余談だけれど、日本人にもおなじみのロシア料理「ビーフ・ストロガノフ」を生み出したスロトガノフ家も、本書の重要な役どころを担っている。彼らの祖先は皇帝に貸しがあり、この16世紀後半には、モスクワの東方、ウラル山脈の手前に、ゆるぎない領地と身分を確保していたのだった。塩や毛皮をはじめとする通商で財を成した一族である。

そのストロガノフ家が、コサック軍の強力なパトロンとなった。エルマークたちの東征を援助したという事実を初めて知り、自分がロシアの歴史をほとんど知らないことも思い知る。

著者は女性で、ロシアを舞台にすぐれた作品を残している。現在のポーランド領で育ち、兄はロシア軍と戦って死んだ。戦争の残した民族の禍根を克服するためにロシアの歴史を研究しはじめたのだと、あとがきに書かれている。あえて実際のロシアを訪れずに書いたという歴史小説がこれほどリアリティーを放つという事実に、イマジネーションの可能性を讃えたい。

とりわけ、ロシアの人々の心の英雄であるエルマーク・ティモフェイエフの描写には、複雑な精神と数奇な運命に翻弄される男の、明日をも知れぬ不安と高揚が絶妙のタイミングで見え隠れする。終盤近く、皇帝から賜った壮麗なよろいを身に付けたエルマークを見て、一人の老コサックがつぶやく。

「ただね、エルマーク。そうすると、全然別の人みてえに見えるんだ。おれたちの仲間じゃねえようにな。その鉄の堅さが、おまえをおれたちから奪っていくような……」(引用)

見ることは決定的なことだけれど、想うことはひらめきを連れてくる。確信に満ちたひらめきを。(マーズ)


『コサック軍シベリアをゆく』著者:バルトス・ヘップナー / 訳:上田真而子 / 出版社:岩波書店1973

2003年04月22日(火) 「児童文学最終講義」(その2)
2002年04月22日(月) ☆映画・オブ・ザ・リング

お天気猫や

-- 2006年04月15日(土) --

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『流れついた紋章』

女には、力も権力も支配力もない。運命が、わたしたちを 自分では変えられない情況に置く。わたしたちはあやつり人形と 同じで、糸を引かれれば動かなければならないの。 (引用)

まったくそのとおり、などと相づちを打つようになったのは 年齢のなせるわざだろうか。少なくてもかつてはそんな風には考えられなかったから。

原題は『Highlander』。 ロマンス小説が読みたくなって、ふと手に取ったヒストリカルロマンス。 舞台は原題にあるように、スコットランド。イングランドとフランス、そして スコットランドの政治的な関係がそのまま、ヒロインたちの苦境でもある。

歴史的な陰謀劇をのぞく面白さもあれば、人生を学ぶ言葉にも出会い、 そして何よりも濃厚なロマンス。 カヴァーに「全米の批評家から絶賛された」と書いてあった理由もうなずける。

章ごとにシェイクスピアやバーンズなど、古典の大御所の言葉を引用しているのも心憎い。 スコットのアイヴァンホーからも適切な引用がされていた(笑)が、 これは他の作家にくらべると状況説明に過ぎたかも。 著者はヨーロッパを舞台にしたヒストリカルものを得意とするアメリカ人。

ヒロインは生粋のお姫様で、ブルボン王家の血を引くソフィー。 意に沿わぬ婚約から逃れるため乗った船が難破し、ハイランドのクランを率いる ジェイミー・グレアム(モンリー伯爵)と出会い、恋に落ちる。

最初が浜辺で半裸、というあたり、 とっさに記憶喪失を演じてしまったため、真実が言えなくなってしまうあたり、 ジェイミーに凄腕の婚約者がいるあたり、展開は『人魚姫』を下敷きにしているらしい。 もっとも、ソフィーが逃げて行こうとしていた国は、アンデルセンの国デンマークではなくて ノルウェーだったのだけれど。

まがうことなき悪役のロッキンガム公爵も、最後は翻弄されて気の毒ですらあった。 ジェイミーの弟で、ジェイミーの婚約者の性悪美女ジリアンに肩入れしていたカルムの恋情については解決されていなかったし、ジェイミーの母親についても決着は見なかったが、ひょっとして続編などあるのだろうか、と期待しているところ。 (マーズ)


『流れついた紋章』著者:エレイン・コフマン / 訳:後藤美香 / 出版社:MIRA文庫2006

2002年04月15日(月) 『王様はロックンローラー』

お天気猫や

-- 2006年04月07日(金) --

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『チアガール・ブルース』

原題は『To Die For』。現時点でのリンダ新作。 コメディタッチで、『Mr.パーフェクト』や『パーティーガール』に 共通するトーンの作品。 私にとっては気分が乗らないままエンディングを迎えてしまった。

金髪の元チアリーダーという、絵に描いた見本のような典型的タイプの ブレア・マロリーは、経営するジム「グレイト・バズ」の客が犠牲となった殺人事件に巻き込まれる。 そう、彼女は見かけによらずやり手のキャリアウーマンなのだ。

法的にも個人的にも彼女を守るのは、警察官のワイアット・ブラッズワース。 実は彼とは、二年前に何度かデートして別れた仲だった。 そのときの納得いかない思いが噴出し、ワイアットの好意に素直に応えられないまま、 しつこくブレアを狙ってくる犯人のおかげで二人は接近してゆく。

後半はケガをしたブレアと、彼女を自宅にかくまうワイアットとの、まさに闘い。 犯人そのものよりも、こちらの闘いが細やかに描かれている。

歴史物から現代物、サスペンスからスパイアクションまで 幅の広いジャンル設定がロマンス小説の女王リンダの魅力の一面だが、 どうも私は本作のような軽妙タイプが苦手らしい。 おそらく、だーっと一気読みするエネルギーが持続しないからだろう。

あえて言えば、ワイアットがかつてなぜブレアを遠ざけたのか、 正直に告白する場面はいい感じだ。

そして、ブレアとすれちがっていた妹との関係回復、 ブレアとワイアットそれぞれの、魅力的で個性の強い母たち。

本人たちのロマンスよりも、そのあたりが面白く読めた。 どう考えたって、この二人はうまく行くに決まっているから。 それにつけても、リンダは警官がお気に入りのようだ。 (マーズ)


『チアガール・ブルース』著者:リンダ・ハワード / 訳:加藤洋子 / 出版社:二見文庫2005

2004年04月07日(水) 『リビイが見た木の妖精』
2003年04月07日(月) ☆「おもちゃ文学」としての鉄腕アトム。

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