別に、書くことがないわけじゃないんだけど、ここのサイトのメインは、「よみかき」宿屋であることを、主人であるあたくしがすっかり忘れておりました( ̄∇ ̄;)実はここ数ヶ月・・・・いや、もう、年単位になるだろうか?その最重要のカテゴリに用意してある、読みきり小説のアップデートが一向に進んでいない。オマケに、目に触れる頻度も少ないようで、コレは少々困ったものだと、前々から思っていたわけでして。初心に戻るためと、もしよろしければ、まだ1度も当方の作品を目にしていない新しいお客様のために、日を置きながら、特別抜粋を施行していきたいと思っています。本日はその第1弾。「平成夕雅流小倉百人一首恋愛考」シリーズ記念すべき第1作目、「オンナのいのち」をお送りします。作品としては、あたくしにしたら珍しく、メチャクチャ短いので、こうして前置きなんかを書けるそんなわけなので、読んでってください♪ よろすくm(_ _)mこのシリーズは、あたくしの気に入った小倉百人一首の歌を取り上げ、それを自分なりの解釈、口語訳を小説にして、〆に自分の短歌を持ってくる、という、どこぞの「サラダ記念日」の人がやったようなスタイルですが、こっちは既に、1999年の『雑』に発表済みですんで、発想が貧困と自分を卑下したりはしません。彼女よりも寧ろ、自由な短歌、型にとらわれた短歌を重視しているつもりです(笑)。まぁ、そんなことはさておき、コレからもまだ手直しの余地十分ですが、コレを機に、より完成形に近づけるため、これからも精進していけるようにこの企画も、いうなら自分に対する発破です。では、お楽しみください。1 待賢門院堀川長からむ 心もしらず 黒髪の みだれて今朝は ものをこそ思へ あなたは知らないでしょう。わたしがひとり、どんな思いで髪を梳かすか。どんな思いでコーヒーを飲むのか。平成の朝。とあるアパートの一室。女が目覚めると、男はもういなかった。 カーテンの隙間から漏れてくる陽光に、それがすでに早朝のものではないことに気づき、すごくはっとするのと同時に、見当はずれに調子の良い玩具のような動きで飛び起きた。ヤバイ、寝過ごしたか! が、よくよく辺りを見回すと、ここは自分の部屋じゃない。 あ、そうか。ゆうべは泊まったんだっけか。そういえば今日は休みだった。週の真ん中、水曜日。考えに考えた私の週間スケジュール、大学の講義もバイトも、この日は入れないことにしていた。ああ、損した。だったらあと2時間は眠れたはずじゃない。 私はのそのそと起きだして、灰皿代わりの空き缶をたぐり寄せ、テーブルに置きっぱなしになっていたヤツの煙草を、1本だけ失敬する。と、その横にメモ用紙が・・・・。―― バイトに行ってくる。昼には戻るよ。メシよろしく。 随分と勝手なことを。 自分が吸うのより重い煙草を二口含んだところで揉み消し、私はバスルームに立った。 鏡に映る21歳の私の顔。 あの人、私の事を抱きながら、何を考えていたんだろう。ヤツの指先や唇に雑念を感じ取ってしまう私は、決して敏感すぎるわけではないと思う。ゆうべ、ヤツは明らかに何か他のことを考えていた。「長くなったよな、髪。そうしていると、背中が全然見えないよ。」俯せでベッドにいる私の横でそう言いながら、ヤツは指で毛束を弄んでいたけれど、ただそれだけ。私は「あぁ・・・・」とか「うん・・・・」とかしか言わずに、されるがままになっていた。 どうでもいいの。髪のことなんて。 開けっ放しのバスルームのドアから、部屋の方を覗く。ベッドに細く射す陽光。私は派手にカーテンを開け、空を仰いだ。なんて、いい天気。朝からこの長い髪をザブザブ洗うにはもってこいだわ。私の髪は朝のシャンプーには向かない。洗ってしまったら最後、信じられないほどの長時間、ドライヤーを手から放すことができないし、仮に半乾きのまま朝のラッシュに飛び込むとするなら、周囲の人たちはさぞかし迷惑することだろう。私だって濡れたままの髪が脂っぽいオヤジの顔にくっついたとしたら、それこそ早朝から気合いもろとも洗った甲斐がないというものだ。 丁寧にブラシをかける。 今日はよくからまる。痛くてたまらない。悔しいが、ヤツとの夜伽には翌朝のブラッシング戦争がおまけのようにしてついてくる。本当に悔しい。・・・・この長い髪は決してヤツのためのものではないはずだ。 熱めに湯を出し、髪を濡らす。長いからといって、私は決して「オガミ洗い」はしない。そう、昔から。夜伽を知る前から。そのせいでか、私の髪は長いわりには枝毛が少ないことで有名だった。 それが、だ。 大学の友人、ヒサコと学食で昼食をとっていたある日のこと。彼女は器用にもエビフライをくわえたままで、こんなことを言った。「あんた、最近、髪、痛んできたんじゃない?」 冗談じゃない。 パーマやカラーリングの回数だって、極力抑えているし、週に2度のヘアパックも欠かさずやっている。洗いすぎは却って良くないと聞いたから、シャンプーは1日1回までと決めている。 なのに、どうして!?「そりゃ、毎日のようにコウ君とナニしてりゃ傷むわな。気になるなら、むすぶなり、あむなりした方がいいんじゃない?」 結ぶ・・・・編む・・・・!?「髪の床ズレって案外コワいのよ。あんたはそんなに長いんだから、特に気をつけなきゃ。」ヒサコはカラリと言い放つと、グラスからグビッと水を飲んだ。 シャンプーをすると首が痛い。 長い髪が水を吸って、強烈な重さになるのだ。シャンプーを使う量だって人の倍以上になる。それを丁寧に泡立てて指の間に髪をすべらせるようにして洗う。 そっと泡をしぼり、また丁寧にすすぐ。ヤツの家にヘアパックなどという気の利いたものなんかあるはずもなく、やむなく揃いのコンディショナーで妥協する。 すっかり全てを洗い流した私は、タオルで頭を包んで、まるでインド人みたいな恰好でバスルームから出てきた。 さっき消した煙草にもう1度火をつける。頭のタオルを取ると、昔の怪談噺の本に出てきた幽霊さながらの姿になった。 この髪、一体誰のもの・・・・? やつが好きだと言った長い髪。私はそれを従順に伸ばし続けるバカ女。そういえば、どうして伸ばし始めたんだっけ。短い髪が似合わないと言われたから・・・・長い方が何かと便利・・・・理由なんか忘れた。 私はタオルで叩くようにして髪の水気をとった。そしてゆっくりと櫛をいれる。つやつやと輝く漆黒の流れ、こういうのを烏の濡れ羽色というんだよと、幼い頃、祖母が私の髪を撫でながら言っていたことを思い出した。その頃の私は、俗にいうおかっぱ頭で、祖母は目を細めながら「本当に日本人形みたいだこと」と事ある毎にそう言った。今のこの長い髪を亡き祖母が見たらきっと「平安美人」などと言うのだろう。ワンレングスは水に濡れるとそういうふうにも見える。 鏡の中で口を曲げている私。自分はこの姿に決して満足していないと、その時ふと思った。 この姿、美しくない。 私はヤツの部屋をあちこち物色し、ひきだしから鋏を見つけだした。そして徐に一束の髪をつかむと、そのままざっくりとやった。耳に届く残酷な音。髪を切るとは、こういうことだったのか。 ふふふ・・・・。 何だかよくわからないけれど、体の内側から気持ちのいいものがこみあげてきて口唇の端から笑みがこぼれた。 手に握ったままの毛束を手首にあった輪ゴムで留めると、さっきまでヤツと私が横たわっていたベッドの上に放った。 不気味。 びっくりするだろうな。 私は髪が乾ききらないうちに洋服を着て、口紅だけつけた。そして手帳のメモを1枚破り、一言だけ。――お昼は一人で食べて。 私は美容院に行かなくちゃ。どんな私になれるのか確かめなくちゃならない。ああ、本当にいい天気。変身を決め込むにはもってこいだわ。夕雅流みそひともじ男には髪の重さのストレスも解してもらえぬこの後朝なりいかがでしたでしょうか。待賢門院堀川という女流歌人の歌は、平成のこの世でもじっくりと味わい深い、女性ならではの「本能の歌」であると思い、初回、この歌を抜粋参考し、短編を書き上げました。副題、「オンナのいのち」というのは、後から他人様につけて頂いたのですが、自分自身で気に入ったので、そのまま、「紫苑の間」にもそのタイトルで載せています。既に106号のゲラを返還した『雑』ですが、これは84号に掲載されたもので、既に5年以上の月日が経ってしまいました。なので登場人物も大学生なのですが(爆)。↑まぁ、日常の中でありそうな出来事の時は特に(笑)とかく、「事実は小説より奇なり」などと言われますが、元になった「事実」はもっとえげつなく、小説にするには、あんまりにもあんまりで、よって加工を施す・・・・という、他の方々にはあんまりありえないルートで小説を書いたりしていますが、こんな感じで、週〜2週に1度くらいのペースで、昔の作品をちょいちょい載せたりします。見苦しい箇所がある・・・・とわかっていても、あえて改訂版にせず、潔くそのままいこうかとも思ってます。そんなわけで、不良ゲージツ家・アサミンジャー、未だ不滅の証拠を残すべく、今日もまた、未確認・未曾有の敵と派手に戦うのだ〜! わ〜い!!↑もう、金の心配をしてるわけじゃない。連載を始めているので、何とかアレを完結させなければいけないんだけど、完結が一体いつになるのか、作者もまだよくわかってなくて、毎回限られたページ数の中、もんどりうって七転八倒・・・・起き上がってきません( ̄∇ ̄;)来年中に終わるといいんだけど(爆)・・・・如何せん、季刊誌なモノで(爆笑)。・・・・っつうことは、あと4〜5回で終了の目処を立てねばならぬのだな(ぶつぶつ)。連載がこんなに難しいとは思わなかったぜ。昔は、短編こそ難しいと思ってたんだけど(爆笑)。