十あるもの
 ええと、何時から何處から諦めたのでしたでせうか。
 確か全部手に入れるのを諦めたところからだつたと思ひます。

 十あるものを十、自分のものにするのを諦めて、其の内の四割か五割でいいと思ふやうになつたのです。
 初めは全てが欲しかつたのに。慾が失せ諦めが増すにつれて全てが必要ではなくなつておりました。

 十あるものの四か五。そんな中途半端でも良いと考へ直したところから僕の諦めはより深刻化しました。
 諦めたおかげで十あるものの九を一時は手に入れられました。
 けれど、今は十の内の一も手にしてゐるのか怪しくなつてしまひました。

 全部が全部僕のものになるとは思へなくて、全部が全部欲しいのだとは口に出せなくて。

 「十あるものは十あらねば、假令手に入れても最初から無かつたものと同程度の價値にしかならぬのだともつとよく自分に言ひ聞かせればよかつたのに。」
 後悔しさうになる度に誰かにさう言はれてる氣がします。
2006年07月12日(水)
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