いつか何かを
 いつか、恩返しをしやうと思つてゐた人がゐました。
 いつか、いつか、いつか…。いつもいつかこの恩を返さうと思ふだけで、僕はその人に何も返せずにゐました。
 
 その人が守らうとしたものを守れるだけの財力と知力が欲しかつた時期が僕にはありました。
 その人の苦勞を少しでも減らしたくて惱んだ時期もありました。
 僕や周圍の者が寄つてたかつてその人に背負はせてしまつた重荷を、その人の背から下ろすには如何すればいいのか、さう考へて居た時期もありました。
 
 その人は今日亡くなりました。
 
 僕は結局何も出來ませんでした。
 惱み、考へはしたけれど、結局僕はその人に手を差し伸べて助け出す事が出來ませんでした。
 
 いつか何かしやう。
 さう思ふだけでは何の役にも立たないのです。
2005年12月08日(木)
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