東京裁判シリーズといっても、東京裁判そのものではなく、 証人喚問に呼び出された紙芝居屋の男やら、 証人台に立つ彼らを弁護する弁護士をやらを主人公にした、 三部作の三番目。 しかも、”東京裁判”がほとんど出てこないシリーズ完結編。
終戦から二年目後。 天皇陛下の東北行幸がまもなく行われるという夏の日。 その宿泊先の候補に上がった大地主宅が、 行幸に備えて、模擬訓練をすることに。
その指導をかっての陸軍参謀である男にお願いします。
彼は敗戦の責任を感じ、自殺を試みるが、失敗して、 今は親戚の手伝いをしている男、三宅徳次が角野卓三造氏。 陛下に顔向けできないとしながらも、一目お逢いして、 お詫びがしたいと、この任を引き受けます。
彼が陛下、そのもになり、奇妙な形で模擬訓練は進行していくのですが、、 次第に熱を帯び、天皇陛下そのものになっていく男。 そんな男に対して、その地主の娘、佐藤絹子@三田和代さんは、 陛下に戦争責任の所在を問いかける。
実は、絹子さんは大地主の娘ながら、アカ思想の持ち主と恋に落ち、 しかし、彼を兵隊に取られ、飢え死にさせられたという過去を持つ女。 今もたくさん来るお見合い話を袖にしています。
今のままでは前に進むことが出来ない彼女は、 天皇陛下に一言、謝罪を求め、そして、陸軍参謀は、偽りの陛下は、 彼女の想いに応え、そして、ついに……という話が本編の縦糸。
横糸には、女学校の国語の先生でもある佐藤絹子さんが、 その時々の状況を主語とする日本人にも、問題はなかったのか?と、 天皇陛下の戦争責任だけではなく、日本人全体の責任をも広い意味で言及しています。
その上に、泣けて、笑えて、戦後風俗を盛り込みながら、 歌もありなんて、井上先生やはり偉大だわ。
実は私はこの話は、二度目で、初演の時も、 そして、再演も筋は判っていたのですが、 やはり、ほろほろ泣いてしまいました。
内容そのものだけではなく、恐らく、 演劇の持つ力にもう、涙してしまいました。
目の前に居る陛下に謝罪を追及する娘。 すまないと、実はずーーと思っていたことを、とうとう口にしてしまう男。 その言葉を聞いて、つき物が落ちたようにほっとする娘。
一種の代替行為、それは絹子さんだって充分判ってはいるのですが、 この場面を見て、きっと多くの人が彼女のように、どこかほっとした気分で、 涙するんだろうなと。それが演劇がある意味で、芝居の力なのだと、 なんだか妙に納得してしまいました。
だからというわけではありませんが、他の井上作品よりも、 一直線に目的に向かっている気がします。
いつもより2時間(休憩15分)というコンパクトさもあいまって、 初演の時って、井上先生の時間が無くてもしかして、 1エピソード減らした説がにわかに浮上しました。←ひどい。
でも、初演よりはなんか、遊びの場面が多くなっていて(多分) 熊谷真美さんなんて、こんなに面白かったんだなと、素直に脱帽。 単にこなれただけなのかもしれませんが、でも、可愛くて面白かった。
後、三田和代さんはやっぱり、良いです。 正直、声が辛そうでしたが、ちゃんと可愛いを演じられるんですもの。 絹子さんがラストに徳次にラブラブが成立するのも、 その可愛らしさのおかげかも。
この駆け込みラブストーリーのおかげで、最後なんとなく、 幸せな気分で終演を迎えられて、東京裁判三部作を飾るオオトリの 役目を果たしているのかなと思いました。
さて、お亡くなりなってから作成されたパンフレットだったので、 井上先生の、に簡単な上演歴史とチラシとかも載ってました。
その中には上演中止の運命になったものも多々ありまして、 その一つに【オセロゲーム】というお芝居がありました。 夏木マリさんが出演予定だったみたい。 そして、背後にはシェースクピアと思しき人物が。
見たかったなあ。
【ロマンス】のチェーホフから先、モリエールとシェースクピアをお書きになると、 仰っていられたのに、本当に勿体ないなあ。
今なら、もう少し、【ロマンス】の価値が判るのに。
改めて、先生のご冥福を祈るとともに、 その創作意欲に、改めて、敬意を表したいと思います。
|