左の景色と落書き。
坂の道を歩いていた。 隣に居るのは、夕陽に照らされた石垣。 影の濃い石の継ぎ目を歩きながら前へ前へ、目で追った。 いつか来た道。 すぐ先で石垣は途絶えることも知っていた。 立ち止まってみた。 石の継ぎ目を追うのを止めた。 体ごと太陽の方向に向き、手をかざした。 指の隙間越しに太陽を見た。 夕陽の粒子が零れていた。 茜色が眩しくて視線を下ろした。 見下ろした先は懐かしい町並。 いつか自分も居た町。 夕陽に照らされた帰り道を駆けた町。 見下ろしていて、ふと気付いた。 寄り添う石垣に向き直った。 影の濃い石の継ぎ目に指を這わせてみた。 そのまま、上へ。 継ぎ目は続いていた。 上へ、上へ、指で追った。 指が届かなくなった先を目で追った。 石垣は高く続いていた。 確信した。 茜色に染まった石垣が、影で濃くなった継ぎ目が、笑って頷いた。 確信を両手で包んだ。零さないように。 夕陽の中笑って頷き、石垣と別れ、町に下りる道を歩き出した。 |
零と壱の綴れ織。 | ||
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