ほとんど一睡もできなかった。
明かりが消えている部屋で、目を開けたまま宙をみる。
気付くと泣いている。 涙を拭く。 鼻をかむ。
顔を洗う。 涙が流れる。 顔を洗う。 顔を拭く。 鼻をかむ。
息子の部屋を覗く。 父親に布団を取られて寝ている息子に、 「風邪をひくから布団かけて寝なさい。」 と声をかけ、布団をかけてやる。
娘の部屋へ行き、はだけた布団をかけてやる。
また布団に入るが、目は天井を見つめている。
気付くと泣いている。
それを繰り返して朝になった。
娘を起こし、娘のベッドの上で話す。
「今日が最後。今日が駄目ならこの学校には入れないかもしれない。去年は繰り上げは無いって言ってた。だから悔いのないようにね。」
「ママ、なんで泣いてるの?」
娘も泣いている。
娘を抱きしめてトントンする。
大根のみそ汁、ご飯とみそ汁と明太子で朝食。
夫は後から行くとのこと。
会場には娘のクラス担当も来ていた。 昨日の時点で、クラス担当は他の学校に行くはずだった。 娘が先生の名前のところに「4日○○学校」と書かれているのを見ていたのだった。 明日先生はそこにいくんだよ、なんて話を昨日していた。
でもクラス担当は、娘の受験する学校に来ていた。
照れくさいのか、下を向き、娘が辿り着くまで落ち着きのない様子だった。
娘のクラスでは何人かが今日も受けにくる。 だからというのもあるかもしれないんだけどさ。
娘は嫌だ嫌だと言いながら、とても嬉しそうだった。
「昨日、一緒にやったよね。しっかり文章読めば大丈夫だから。」
朝から夫の携帯に、義父から何度も心配する電話があったようだ。
「朝の様子はどうだったか。」 「大丈夫だったか。」
今日は二科目受験。 合格発表の時間が早い。
私たちが座る前の席に、かけこみ組が話している。 こんなはずじゃなかった、とか。 こんなことならここの過去問をやらせておけばよかった、とか。
難関校と書かれた偏差値表を広げて話している。
一人は願書をタクシーの中で書いたらしく、タクシーの運転手さんの子は優秀で運転手さんの言葉が辛かったとか話している。
今日は少ししか取らないのに、R4が時々越える程度のうちの子と、60近くの学校を受けられるほどの余裕の子とでは、もう結果は見えているようなもの、と落胆した。
11時前には家に着き、昨日の揚げ出し豆腐でご飯を食べる。
合格発表まで1時間くらい時間がある。
娘と二人で昼寝した。
支度して合格発表会場へ。
スライドで答えが出てくると算数の時に娘の顔が青ざめていく。 自分が書いた記憶の答えと違う答えがそこにいくつも見えたからのようだった。
受験者の算数の平均点は20点台だった。 合格者の平均点は40点台だった。 10点と20点に大きな波があり、60点くらいのところに小さな波がある。 きっと上位校を落ちてきた子たちがその上の小さなな波にいる。
「ひとつも合ってないの?」 「3つは合ってる。でも後はわからない。」
合格者の算数の最低点は22点と書かれていた。
3問正解していれば可能性はあるよ。 そうでなければ落ちてる。
その後、算数の答えが映し出される度に、カバンから算数の問題を出してぐちゃぐちゃに計算が書かれている文字を目で追い、
「わからない、わからない。」
と呟いていた。
発表の時間になる。
娘の番号はなかった。 娘の友だちの番号もなかった。
夫に電話する。 塾に連れていく。
先生と話す。 明日の試験のこともあるので、できれば遅くても7時半まででお願いしたい、と話す。 本人の進み具合もあると思うので何かあれば連絡ください、とのこと。 帰りは迎えにくるので電話してほしいとのこと。
今日は息子の新4年生としての初の塾登校日である。
娘を電車で塾まで連れて来たのに、電車で家まで帰ってまた息子を連れてまた電車に乗って塾へ、というのはキツすぎる。家と塾を電車に乗って2往復しなければならない。
夫に電話する。
私はこのまま帰るけど、息子の塾の送り迎えはお願いできないかなあ。
でも夫は、俺じゃわからないから一緒にいてくれ、という。 一緒に送り迎えするんじゃ意味がない。 同じ忙しさってことだ。
とにかく一旦家に帰る。
息子は午後練からさっき帰ったばかりだという。
電話が鳴る。
入力の仕事の依頼だった。 断りたかった。 でも「どうしても」と言われ、結局断れなかった。
明日の午前中まで、と言われたが、明日は朝5時半起きで、帰りは午後になる。
午後の納品でよければ引き受けます。
午後、出来次第・・・、ということになった。
なんだかんだ、30分もゆっくりしないうちに息子を連れて電車に乗って塾に行く。
息子の塾の時間、1時間ちょっと。 娘の時には息子を連れて一緒に時間を潰していた。 おもちゃ売場に行けば、ずうーっと怪獣で一人芝居をして遊んでくれていた。 その間、私はベンチに座って本を読んで待っていたりしたものだ。
そういえば、娘の友だちも、勉強しに塾に来るって言ってしたなあ。 明日も同じ学校を受けるんだよなあ。
昨日、娘がクレープを食べたいと言ったのを思い出した。
娘の分と友だちの分、2個買い、塾に差し入れに行った。
今日の夕飯用にと、ポテトサラダとハムのマリネを買う。 スエヒロのビッグなメンチカツサンドを買う。
平日だとケーキセットが半額というお店に行き、チョコレートシフォンケーキとミルクティを頼む。 472円なり。
時間になって駅の改札口で待ってると、息子が走ってくる。
「あれ?なんで(改札口の)中にいないの?僕を信用してないなー。」 「いや、家に帰らなかったんだ。」 「なあんだ。」
家に着くなり息子はおなかが空いたという。
ビッグなメンチカツサンドを切って食べるように伝える。
夫がハム&卵をフライパンで、朝の残りのみそ汁とで、息子が食事。
娘から電話がくるまでの時間、夫と話す。
もし明日も駄目だったら・・・。
夫はずっと駄目だったら・・・、という話をしようとしても、駄目なわけがない、と言い続けた。 そんなことありえない、と言い続けた。考えていない、と言い続けた。 その時はその時、だとも言った。
でも、駄目だったら、どういう言葉を娘にかけてやればいい? きちんと二人で話しておく必要があるんじゃない?
私は滑り止めを受けさせなくて申し訳なかったと今になって思ってる。
夫も落ちてしまったらただ挫折感だけを抱かせてしまって申し訳ないと言い出した。
「俺、謝るよ。全部俺のエゴだったんだって謝るよ。落ちたら、いくら謝っても謝りたりない。あいつは頑張った。すごくプレッシャーもあったろうに、よく頑張った。お前もよく頑張った。ありがとう。」
そう言ってくれた。
しばらくして、 「でも、落ちてもお前は自分を責める必要は全然ないんだ。本人のせいなんだから。」だと言った。
私は、本人のせいじゃない。私の責任だ、と泣いた。
子どもが一人で学校を選ぶんじゃない。 私が学校の説明会に行って選んだんだ。 子どもは自分で選んだ気にはなるが、本当は親がそこを受けるようにし向けているだけに違いない。
それで対立して喧嘩になった。
本人は公立には行きたくないと言っている。 初めは落ちたら公立でいい、と言っていたが、今は落ちたら学校に行けないと言っている。 まだ願書を受けつけてくれるところはある。 明日ならまだいくつか残っている。
これ以上傷口を広げてどうする。 行きもしない学校を受けてどうする。
でも、受かった学校があったけど行かなかった、というのと、全部落ちて公立にきたというのと、どっちがいいのだろう。
夫は、頑なに、 「滑り止めは受けない」と決めたのだからそのままでいく。 あの子なら公立中学校へ行っても上位の成績を取れるだろう。 それでまた高校受験頑張ればいい。 そう言った。
私は泣いた。
やりたいことも我慢して頑張ってきたのに、また高校受験だから頑張れ、なんて言えないよ。 かわいそうだよ。 やりたいことさせてやりたい。 あの子は、絵を描いたり本を読んだりするのが大好きなんだよ。 ピアノもやりたいんだよ。(受験ということで数ヶ月休んでいる) 中学受験駄目だったらまた頑張れ、なんて私には言えないよ。 私には言えない・・・。
息子はその喧嘩の中で静かにご飯を食べていた。
夜7時半、娘から電話。
「まだ質問が一つ残ってるからあと少し。」 「じゃあ今から行ってもいいのかな?終わってるかな?」 「終わってると思う。」 「じゃ行くね。」
電車に乗って塾へ。 着くとまだ質問が終わっていなくて待っていた。
自宅に着いたのが8時40分。
夜9時前、家に着くと、義父母からFAXが届いていた。
あしたもう一日おちついて ガンバッてきて下さい ファイト!! きびもちをたべて元気でいこう!! じじ&あーたん
テーブルには義父母が届けてくれた「きび餅」が置いてあった。心配で来てくれたようだった。
出がけに散々喧嘩したのに、明るく「お帰り〜。」と言う夫。
娘を風呂に入らせ、ご飯を食べさせ、寝かせる。>PM10時半
夫は寝ている。
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