お金の問題は繊細なところがあるし、こっそりした方がいいという意見もあるかもしれないけれど、 自分が、どうしよう、と悩んでいたとき、 他の人の場合はどうしているのかな、というので、いろいろ他の人の文章を読んでいたら、参考になったので、 あくまで<私の場合は>ということですが、もしかしたら誰かの参考になるかもしれないと、ちょこっとここに書こうと思いました。 (私は、いろいろと迷いの多い人間で、自分のやっていることがベストとは今でも全然思えないし、本当に駄目人間なのですが、その迷いも書いておくと、誰かの参考になるかな、と思ったまでです)。 私の場合は、 郵便局から、日本赤十字社の東北関東大震災義援金の口座へ、 来月に出る文芸誌で発表予定の中編小説と、 来月に出る別の文芸誌の連載小説一話分の、 原稿料を予想して、合わせた額を、義援金として、振り込みました。 出版社から直接に振り込んでいただけたらとも思ったのですがシステムとしてやはり難しいようで、 だからといって、自分の口座に原稿料振り込まれたあとに額を確かめてから自分で振り込むとすると、手間であるし、時期もおそくなるので、 だったら、今、予想した額を義援金にして、行動しちゃおう、と思ったわけです。 (義援金の額を決めるとき、自分の仕事は収入の変動がはげしいので、ぱっと決断できなかったんです。それで、ちょうど今取り組んでいる仕事、を基準にしました)。 この額は、企業とか有名な人とかと比べたら全然小さいと思うのですが、庶民の自分の感覚からでは大きいもので、 ちょっと逡巡したのですが、 でも義援金にしようと思ったのは、 私の場合は、 まず、私には今のところはですが守らなければならない子供がまだいないということ、 今のところはひとり暮らしで家族がいないので、遠くの人に頼りにされたいし、この先、自分が遠くの人に頼らなければならないときもくるかもしれないこと、 最初に揺れたときに「あの小説が書き上がっていて良かった」と一番に頭に浮かんだこと、 進行が変則的になったけれどそのあとの仕事も楽しく、 節電のために湯たんぽに足をのせ自然光を受けてゲラを校正しているときなどにも喜びが湧いてきて、もうこれは自分の生活費のためにやって作業という感覚は全然ないなあ、と思ったこと、 私は今、文芸誌に小説を発表することを主な仕事としているけれども、ありがたいことに文芸誌以外の仕事も結構いただいているので、もともと文芸誌の原稿料を自分の人生プランを立てる際にあてにしていなかったということ、 そして単行本化の際の印税は自分の人生に使わせていただくこと、 それから私は去年今年と、自分が人間として本当に駄目で、嫌な人間だ、と、自分にがっかりすることがいくつかあったので、 決して殊勝な考えからではなく、自分としてすっきりしたい、何かしら人間的なことをして楽になりたい、という、自分のため、という気持ちがあったこと、 といったことが理由です。 あと、原稿料というのは、雑誌掲載料のことであって、雑誌に小説を発表した時点で、すでに額が決まっています。 つまり、たくさんの人に読まれたら増えるという性質のものではありません。 だから、誤解をおそれずに言うと、これによってたくさんの人に読んでもらいたい、という気持ちが私の場合はないです。 (もちろん、こういった感じの小説の需要があるところには届いて欲しいんです。私の書いているような感じの小説が好き、という方々には、たくさん読んでいただきたいんです)。 私が今まで書いた小説はどの本も大方そうなんですが、日常を淡々と、言葉の抑制を利かせ、一文一文できゅんとするような、と考え考え、作っているもので、 そうではないものを求めていらっしゃる読者の方(たとえば、ドラマティックであったり、力強いメッセージであったり、人間的魅力といったもの)の期待には、添えないでしょう(こう書いたのは、そういうものに対する批判ではありません。私は、読む側としては、そういうドラマティックであったり、人間性を深く追求する小説も大好きです。しかしそれを作るのは自分の仕事ではないと感じるので、自分は自分の仕事をしよう、自分だからこそ書ける何かを書こう、と思っている、というだけのことです)。 (これまで、私の名前が派手であることなどから、違う期待で本を手にとってくださった方もいらっしゃったと思うのですが、期待に反して地味だったはずで、時間とお金を無駄にさせてしまったのではないか、と申し訳ないです。そういうものを求めているときは、他の作家の書いた本を読んだ方が、絶対に有意義になると思います。人それぞれ、好きな本、求めている本が別々なのは、当たり前のことなのです。 そして、自分は出版に携わる者という意識があるので、 私は、自分の書いた本だけでなく、他の人が書いた本が売れることにも、 大きな意味での仕事の成り立ちとして、喜びを感じます)。 そして、私が個人の人間として社会にできること(まあ、思いついたのが、自分にやれる範囲の節電や義援金ということですが)と、 作家として、仕事の場でできることは違う、と思ったので、 作家として書く文章は、できるだけ普段通りのものにしよう、と考えています。 メッセージは、 情報のプロ、心のケアのプロに任せます。 私はメッセージを書きません。 小説とエッセイを書きます。 <お知らせ> ○連載エッセイ「男友だちを作ろう」 第14回「詞は、書くときと歌うときとで、別でいい」 「webちくま」(筑摩書房) 3月25日更新 2月の終わりに、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんと、お喋りしてきました。 素敵な方でした。 さて、この「男友だちを作ろう」は、これで最終回になります。 春の間にはまとめて、素敵な単行本を作って、 お届けしたいと思っています。 ○『文藝別冊 石井好子 追悼総特集 シャンソンとオムレツとエッセイと』(河出書房新社) 3月15日発売 エッセイ「物語はちゃんと」 を書きました。 ○『別冊宝島 AKB48 推し!』(宝島社) 4月1日発売予定 エッセイ「高橋みなみさんについて」 を書きました。 ○吉祥寺にある、 Art Center Ongoing (http;//ongoing.jp )での、 利部志穂さんの展示『こい、来る う とき』 のトークイベントにゲストとしてお邪魔し、お喋りさせていただきます。 (来週の土曜日ですね)。 2011年4月2日(土) 19:00〜 利部志穂展 ゲストトーク ゲスト: 山崎ナオコーラ(作家) 参加費:1000円 (先着30名様、ワンドリンク込み ※展示入場料含む) 受付はinfo@ongoing.jpもしくは、0422-26-8454まで。 ご指名、ご連絡先および、 『4月2日(土)トークショー ゲスト:山崎ナオコーラ』 に参加希望の旨をお伝えください。電話受付は月曜と火曜をのぞく 12:00〜21:00まで。受け付け完了はメールにてお知らせいたします。 とのことです。
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