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消えちゃう
2004年08月18日(水)

大学のときの同級生たちと旅行に行ったとき、ビデオを持ってきてくれた子がいた。演奏会のビデオだ。「プレリュード1」とかいう、やらしい曲をみんなで弾いているのだ。
私はそれを聴きながら思う。「ここ、11番せつないよね。13番うっとりする」「このキューンっていうクレス、まじめにやった」「この高くて目立ちたがりの音は私」そういうのが私にはわかる。
でも他の人にはわからない。
つまり消えちゃうってことだ。

「消えちゃう、消えちゃう」
と人に言うと、怪訝な顔をされてしまう。
過去は消えちゃうんだよ。でも上手く説明できない。

そして、また「思い出嫌い」のように思われてしまう。
違う。違う。思い出すのが好きなんだよ。だから悲しくなるんだよ。
今が楽しいから「消えちゃう」って思っちゃうんだよ。

海にいるとき、みんなが笑うと私は思う。
「消えちゃうのに、笑ってる」
別にシニカルな意味じゃなく。
今が楽しい、それが言いたい。


例えば、みんなでラーメンを食べたあとに、私以外のみんなが「カレー食べたよね」って言うと、ラーメンは消える。
「思い出のラーメン」はどこにもない。
消えちゃうんだよ。本当だよ。

例えば、恋愛をしたあとに、他の女の子との兼ね合いがあって男の子は「そんなことは言ってないよ、してないよ」と言う、そう言う気持ちはわかるけれどそうすると、その何ヶ月間あるいは何年間は消えちゃうんだよ。
「他の人が覚えてなくても、自分が覚えていればいいじゃない」と思うかも知れない。でもそんなことない。
「言ってないよ」って言われたら、全部消えるんだよ。全員の心から消える。本当に消えちゃう。

消えちゃうものを、誰も止めることは出来ない。
でも消えちゃうということを悲しいと思わない方法はある。
それから、今から先を楽しくする方法はある。




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