大学のときの同級生たちと旅行に行ったとき、ビデオを持ってきてくれた子がいた。演奏会のビデオだ。「プレリュード1」とかいう、やらしい曲をみんなで弾いているのだ。 私はそれを聴きながら思う。「ここ、11番せつないよね。13番うっとりする」「このキューンっていうクレス、まじめにやった」「この高くて目立ちたがりの音は私」そういうのが私にはわかる。 でも他の人にはわからない。 つまり消えちゃうってことだ。 「消えちゃう、消えちゃう」 と人に言うと、怪訝な顔をされてしまう。 過去は消えちゃうんだよ。でも上手く説明できない。 そして、また「思い出嫌い」のように思われてしまう。 違う。違う。思い出すのが好きなんだよ。だから悲しくなるんだよ。 今が楽しいから「消えちゃう」って思っちゃうんだよ。 海にいるとき、みんなが笑うと私は思う。 「消えちゃうのに、笑ってる」 別にシニカルな意味じゃなく。 今が楽しい、それが言いたい。 例えば、みんなでラーメンを食べたあとに、私以外のみんなが「カレー食べたよね」って言うと、ラーメンは消える。 「思い出のラーメン」はどこにもない。 消えちゃうんだよ。本当だよ。 例えば、恋愛をしたあとに、他の女の子との兼ね合いがあって男の子は「そんなことは言ってないよ、してないよ」と言う、そう言う気持ちはわかるけれどそうすると、その何ヶ月間あるいは何年間は消えちゃうんだよ。 「他の人が覚えてなくても、自分が覚えていればいいじゃない」と思うかも知れない。でもそんなことない。 「言ってないよ」って言われたら、全部消えるんだよ。全員の心から消える。本当に消えちゃう。 消えちゃうものを、誰も止めることは出来ない。 でも消えちゃうということを悲しいと思わない方法はある。 それから、今から先を楽しくする方法はある。
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