Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2016年01月30日(土) |
岩崎洵奈 『ジェイ・ファースト』 2015 |
そうね、運転手控室から出て、いつも東京タワーの夜景を見て、まるで一枚の絵のような無焦点な風景を見てから帰るのが日課。代ゼミのときは原宿から世田谷方面を走ったよ、模擬試験や夏期講習を営業にほとんどの中学校、葬儀屋のときは荒川区中心に、現金輸送のときは足立区から大きく筑波や宇都宮まで、アウトゼアのときは文京区と新宿渋谷世田谷杉並、亀戸のガールフレンドとは雪谷池上江東区、ドンキのときはほぼ全店舗をテリトリーに走っていた、結婚式を挙げた学士会館やフクシと青春した水道橋御茶ノ水、四谷いーぐる喫茶茶会記四谷三丁目、はじめての東京は高田馬場早稲田通り、三鷹の新聞配達、増上寺、武蔵小金井、国分寺。
今日はどこを走って帰ろうか。どこをどう走っても、ああ、そういえばここは、あの時は、この街角は、今知っているコトなんてなんとおぼつかないことか、あたかも無尽蔵のように過去の情景が降ってくる、はたしてそれは過去なんだろうかとも思う、そんなわけで、でたらめに交差点を縫って走り回るとストラヴィンスキーの音楽のようなのである。
岩崎洵奈 『ジェイ・ファースト』 2015 シフやピリスや舘野泉や渋谷毅やフレッドハーシュくらいには十分に官能的である。岩崎洵奈のファースト・アルバムが出た。Jazz Tokyo にライブ・レポートをした■52の自分もまぶしい、セカオワを聴きながら書くタガララジオ41■はただのミーハーに堕ちているのが愚かしい。YouTubeをみればショパンコンクール■から最近のラフォルジュネまで。ロシアンピアニズムが規範のクラシック王道という耳の立場もあるよね、そこんとこ、ぼくの耳の基準は呼吸とか重力のカーブとかに寄るよ、インプロヴァイザーを捕獲するアンテナを適用させているよ、こんな他の何物でもない美しい演奏があるかいな。いや、だからさ、トリスターノとかファジルサイだとかはしたないピアノとは対極だからさ。夜勤帰りの車中にNHKラジオ「リサイタル・ノヴァ」」で耳にして、このピアノの価値に気付いた自分が誇らしいし、アルゲリッチが彼女の特質に気付いていた(それは旧然としたショパンコンクールからはみだすものだ)ことも。21世紀の新しいありようであることは気付いているんだけれど、それがどんな言葉で記述されるべきなのかが、うまくできないでいる。
インプロヴァイザーとして捕獲することで、あがた森魚を掲揚したこともあった。あがたさんがそのことをとても喜んでくれていた対談記事もあとから知った。
たださんは最近ぜんぜんインプロを聴いてないですよね、そりゃそうですよ、彼らはインプロだけを目指しているんですから。謎でもなんでもない。ここには何かがある、名指すことのできない何かがある、聴くことでサッと身構えてしまうような、岩場から岩場へふっと転移するときの無重力の一瞬のような、そのような音楽にしか出会いたくない。
身体の変性は、いつも暖を取る深夜の郊外にあるコンビニで、ふと、周囲の山並みや茂みのオーラや老朽した駄菓子屋の看板や、道の連なりが、まったく見知らぬ時代の風景の中にいるような気分にさせること、と、どこか似ている。
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