Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2009年03月21日(土) |
ニューヨーク・デイズ / エンリコ・ラヴァ CDレビュー |
目をあけてみる夢のことを考えてみたり、まぶたのうら側で生きていることをだれかとこっそり分かち合ったり、そんなことをECMに教わっていたはずなのに、だれもいなくなってた。へたくそな叙情もみせびらかしのノートもいらない。2009年を告げるリリース。
ジャケを観て、ビルの谷間の曇り空をすっと流れる電線のラインに魅入られたなら、それがこのセッションのマーク・ターナーだ。
ペット、サックス、ピアノ、ベース、タイコ、という編成に。マイルス、ショーター、ハンコック、カーター、トニーで「フットプリンツ」あたりをピピっと耳に描くのが正しいジャズファンだろ。おいらなら、チェット・ベイカーとポール・デズモンド、ボブ・ジェームス、ロン・カーター、スティーブ・ガットのセッションをYou Tubeで観て、やっぱり待ってしまうのはデズモンドのトーン・・・と、描いてみたくなる。まさかここで、マーク・ターナーの快楽をデズモンドにつなげようってわけ・・・、だ。00年代の最後の年になって、すでにポスト・ターナーを虎視眈々と狙う若手奏者がいろいろ出ているそうだが、おいらは保守なもんで、ね。
前回レビューした日野=菊地カルテット『アンダーカレント』もその編成なんだが、ECMのこのディレッタントなレコーディングと対比させてはいけない。あっちはリアルジャズだ。
今年創立40周年を迎えるECMレーベルの総帥アイヒャー(独)がニューヨークに進出したい野心の30年の軌跡は。みずから、と、化したラヴァ(伊)〜ボラーニ(伊)組とともにニューヨークに(何度目かの)上陸をした2008年の2月、アヴァター・スタジオ、での録音。出迎えたのが、ターナー(米)〜グレナディア(米)〜モチアン(米)組という、大西洋をはさんで3者と3者、欧州とアメリカが夢を描く。
ジャケのビルとビルを欧州組とアメリカ組と見立ててみて、このCDを何度か再生してみると、騒がしい3ねん2くみのクラスメートたちのなかにますみちゃんの姿だけしか見えなくなってしまうようなターナーのテナーの身動きばかりを耳が追ってしまうのであるから、曇り空をすっと流れる電線のラインはターナーだと思う。これ、ターナーがいなければつまらないセッションだぜ。7・8・9曲目あたりで、ターナーからインするトラックが続きはじめるから、そっちも待ってて、ね。
1967年から6年間暮らしたニューヨークに帰省してラヴァが描いた、という作品紹介なのだが。ニューヨークに居たころのラヴァは何をしていたのだろう・・・と、ネットで調べてて・・・
マーク・ターナーが電動ノコギリで左手の指2本を切断する怪我を負ったというニュースに遭遇。
縫合手術がうまくいって、現在リハビリ中だとか・・・。ど、どうなんだ、マーク・ターナー。ピアニストのアーロン・パークスが、「マークは禅スピリットによって静かに事態を受け入れており」などと書いているが・・・。
おれは2年連続でJazz Tokyo年間ベストに、そろそろ出てきたターナー本領の録音を挙げていた。ターナーは単なる奏者としてばかりではなく、演奏を触発する、共演者に気付かせる、現代ジャズの重要な触媒として視ている。この『ニューヨーク・デイズ』だって、単なる初コラボレーションとしてのクインテットではなくて、個々の奏者を変容させていたものを今後に予測するものだ。アイヒャーだってターナーに耳が釘付けだったに違いない。おれがアイヒャーだったら、ターナーのドラムレスの作品、ソロも含む、を、録音したくなっている。くっそー、手をグーにしたままで何も書けない。
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