Land of Riches
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2024年06月27日(木) |
レインボーホログラム |
刀ミュで長谷部を演じる木原さんは割と細かく仕事を受けるタイプみたいですが (2024年は1月から毎月違う仕事をこなしているし、来月はヨナミュの休演日に朗読劇…) 資金面やオタク素養の乏しさもあって、長谷部以外を演じる『芝居』はスルーしてきました。
今回、GIRLFRIENDのチケットを取ると決めたのはLHIのライブでフライヤーが 配布されたのが大きかったです。やっと発売された乱舞野外祭の円盤でも 高い歌唱力を披露している木原さんですが、LHIではそんな彼も全く目立ちません。
中でも図抜けた歌唱力を見せつけてくれたNORD所属・島太星さんには圧倒されまして、 この人と組む東宝ミュージカル(花影から1年しか経ってませんが、まさか自分が シアタークリエに行く日が来るとは驚きです)はどんなものだろうと思い、 あえて本来のペアではないシャッフルウィーク回を東宝ナビザーブで押さえました。
GIRLFRIENDとは元になったアルバムのタイトルで、劇の内容は語感とは裏腹に 卒業を迎えた男子高校生同士の甘酸っぱい恋愛を描いたガチガチのBLです。
LGBTQ+と弊社でもやたら謳われる2020年代の今でも、USAでは異性のパートナーが いるのが当たり前で、独り身には非常に当たりがきつい文化だと聞きます。 高校卒業時のプロムが男女が交際する前提のイベントなのを考えると、 島さん演じるウィルにマイノリティの自覚があるのは凄まじい設定です。 この物語、年代設定1993年で、黒電話ややたらでかい家電の端末が出てきますので。
妄想力が強い繊細な陰キャとして高校生活を“逃げ切り”教科書類をウィルが ゴミ箱に捨てるシーンから始まります。もう1人の主人公・木原さん演じるマイクは スポーツ万能のプロムキングタイプで、当然のようにガールフレンド持ちでしたが、 別の進路を歩むことになり事実上別れます。医師の息子であるマイクは進路も 親に脳外科医と定められていて、進学に伴う転居を拒むこともできません。
惹かれ合った二人はドライブインシアターでの映画鑑賞(凄くつまらない作品なのに ウィルは好きだと嘘をつき続けた。マイクが出場して負けた野球の観戦も同じ)や その後のドライブで距離を縮め、キスを交わす仲になりますが、周囲の冷たい当たりに 陽キャで周囲の視線を意識せずには生きられないマイクは苦しめられ、その葛藤が ウィルをも傷つけていきます。ボロボロになって別れた後、偶然、二人は再開して…の 場面でエンディングを迎え、後は演者二人がやたら楽しく歌うミニライブでした。
相手を想い過ぎるがゆえに自分を押し殺し、その結果、誤解が生まれまた傷ついていく。 ティーンエージャー特有の繊細な心の揺れ方をシンプルな舞台装置(恐らく コストは生演奏の方に振られている)と演者の細かい演技で表現した佳作でした。 私は1回しか見てませんが、通った人の感想をXで見ていると、ウィルとマイクの 立ち位置や細かいモーションは特に指定されておらず、演者の解釈や心情に 委ねているようで、回によってかなり違いができているようです。 (そもそもグッズのビジュアルと本番とで木原さんもビジュアルが全然違う…!)
木原さんは大好きなウルトラマンに変身した数少ない2.5次元俳優である 高橋健介さんと共演歴はすえひろがりのみですが、プライベートでも 頻繁に食事などに出掛けていて、そんな相手とこんな濃密なBLを演じ切ったのだと (健介さんとのシャッフルは私の観劇回前に完了)想像すると、私の中では 木原さんはずっとシンガーになりたい人なのですが、役者魂強いと感嘆しました。 (後日配信された木原市場によると、健介さんは歌は下手だからお前に任せた、 俺は演技で引っ張る的な発言を事前にしていた模様です)
島さんだってLHIを通して5年も仕事をしてきた間柄で、BLをやるのは大変だったと 思うのですが、それを感じさせない繊細なパフォーマンスで…ウィルは 妄想力が強い絵に描いたような陰キャなんですけど、島さんは歌唱になると 物凄いパワフルな歌声なので、内なる強い恋心が伝わってきたんですよね。
とにかくハモリに聞き苦しさが全くなくて、耳がとても心地よかったです。 LHIはもともとアカペラグループとして立ち上がっているので、劇中でも何度かあった アカペラがあまりにもナチュラルだったんですよね。それでも、強いて言えば 来年フランケンシュタインにも出演が決まっている島さんは木原さんの更に上を行くというか。 どんな領域にも上を見たら上がいて果てがない、そんな世界に木原さんはいるのだと 改めて感じました。木原さんだって前述の通り幅広く仕事を受けているのですが。
あと18時開演が非常によろしくなく…隣の人はずっとおなかが鳴っていました。 生理現象だから仕方ないのですが、ずっと咳き込んでいる客もいました。 私は午後半休を取得し、時間を潰すために森美術館のアフロ民藝展を見ました。 現地で見た時はピンとこなかったのですが、GIRLFRIENDがマイノリティを 題材にしているだけに、黒人文化も、無名人の作品が構築した民藝も、 そこに在るのだと主張しなければ目にも留めてもらえないのだと共通点を 観劇中、唐突に感じました。このタイミングで展覧会見れて良かったです。
シアスター・ゲイツは作品を制作するだけでなく、『場』を保持し続けることに 価値を感じるタイプらしく、廃校を入手して発表会場にリニューアルしたり、 常滑焼職人の遺作を棚まるごとコレクションに加えたり、貧乏徳利を大量に譲り受け これまた自らのブランド名を刻んで棚に膨大な数を並べたりしています。
そんな展覧会の途中に年表がありました。ゲイツにゆかりの深い常滑の陶芸史、 いわゆる民藝運動の歴史、そして黒人差別の歴史。この展覧会ではリンクしているものの、 一般には繋がっているとは考えられないジャンルごとの年表が縦に並んでいるのです。
私は審神者ですが、歴史上の出来事…年表に何を載せるかは、編者の意図や 価値観に左右されるという冷酷な現実にぶち当たった心地がしました。 特に黒人差別でいろいろな事件が報道されず、なかったことにされ続けていた事実が 重く感じられました。出来事は語り継がれなけば残らないのです。物より脆い。
劇中でウィルは「やりたいことだけやる」と歌っていました。それは最上の人生。 けれど、自分が最良だと信じて歩んできた過去が良くなかったと感じられたら、 ウィルの場合は大学へ行きたいと出願先も見つからないだろうタイミングで思ったら、 どうしたらいいのか。ウィルは結局、高卒で働き始めるのですが…。 いろいろと考えさせられることの多い、良い作品でした。ご縁があって良かったです。
2024.6.29 wrote
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