Land of Riches
Index|Before|After
2023年04月06日(木) |
Lack knowledge |
舞台ダブルを見てきました。買った後に追加された原作者トークショー付き回。
私の推し・和田さんが演じるのは天才役者……一目惚れした男・鴨島友仁が 持たない才覚を持ち、それ以外の生活能力が著しく欠けている男・宝田多家良。
つかこうへい「初級革命講座飛龍伝」にインスパイアされた、 ある特殊状況(飛龍伝では学生闘争、ダブルでは演劇)にないと関係が成立しない、 そのためにはヒロイン(ダブルではアイドルの愛姫)すら踏み台にする男二人の物語。
友仁役が劇団柿食う客の俳優にして演出家、そして大河出演俳優でもある玉置玲央さんで、 あまりの再現度ゆえに並び立つ和田さん(しかも稽古がカミシモの撮影と平行になって 時間が足りてない。一度オファー断ったが原作者の指名でもあり受諾)が相対的に そこまででもなく見えるのは、もう仕方ないのかな…とも思いつつ、 演劇が好きな人の感想ブログでイマイチと評されているのを口惜しく感じました。
「演者と役 2つの人生が板の上で重なって芝居が生まれる」 「あなたがどう生きてきたかでお話がまるで変わってくる」
作中で、過労で声を失った後に復活した多家良を飛龍伝にキャスティングした女性の台詞です。 和田さん本人も言っていましたが、彼は天才などではなく努力で食らいついている役者です。 映画とうらぶ黎明でも、エキストラの人に見られながら練習するのは…と言いつつも どの役者よりも長く入念に殺陣の練習を繰り返していたのを周囲に目撃されています。
天才とは努力とは反対側に立つ人を称する概念です。 原作ダブルの多家良は友仁への好意の発露(無意識)として自己表現手段、 自らを削りだして磨いていく演技を深めていきます。彼が自らを削る過程は 友仁とのセッションであり、つまり演技なので、演技と愛に境界線がありません。
セットを多家良の自室に限定し、練習という体の再現劇を多用。 演技を通して近づいているようで、人生における演技の位置づけが異なるがゆえに すれ違う二人の男の切ない物語(多家良は友仁にBL的な意味では振られる)でした。
原作を読んだ時の多家良の印象は、これは絶対に現実にはいないタイプ!―でした。 現実世界では多分彼はヒトという動物として社会で生きていけないでしょう。 たまたま演技という共通肉体言語を持っていたがゆえに、愛におぼれ傷ついていく男。
板の上に現れた多家良も、演技が好きで、自宅なので素足でのたうち回る アル中野郎を演じてくれた(俳優は足の指一本一本まで役者なんだと思いながら、 原作者がペンをノックする運動能力を評したシーンで私は足の裏を見ていました)し、 マイルームなので基本薄着、一番脱いだ場面ではトランクス一丁にもなってくれました。 和田さん細すぎて、骨と皮しかないようで心配になりました。私が見る半裸は 大体フットボーラーだったので基準がずれているのかもしれませんが、それにしても…。
和田さんの多家良はなんだか可愛らしくて、周囲が放っておけないのも必然だという 原作とは少し違う味に感じました。作中で再現された三人姉妹や飛龍伝は 私の観劇経験が無さ過ぎて(2.5次元から入り『普通の』演劇はかじった程度、という 意味では役者としての和田さんとそんなに大差ない)表層的にしか受け止められませんでした。
オープニングに大音量の白鳥の湖が流れるのは、劇中では多家良が先輩に 勝手に設定された着メロと説明されていましたが、これとて同じくつか演劇の 「熱海殺人事件」の開幕オマージュだそうです。そもそも今回の会場が 紀伊國屋ホールなのも、つか演劇の聖地だからこそだそうで。
6人の役者さんは声を揃えて楽しいと言い、原作者も感激していたようだから、 それでいいじゃないかと思考停止したくなります。でも私は間違いなく、 板の上で役者が表現したものの3割もキャッチできていないでしょう。 それが…悔しいんです。悔しさが感想として残る観劇、珍しいと思います。 だからといって本多劇場などへ行って経験値を積もうとも考えてはいませんけれども。
もともとドラマなどに出たくて芸能界に入り、間口が広い舞台へ足を突っ込み、 ひょんな縁から長谷部に抜擢された和田さん。長谷部以降、2.5次元俳優扱いされますが、 2.5次元作品はオーディションを受けず、オファーがあったものしか出演していません。 今回の過密スケジュールは映画とうらぶ継承と薄ミュ以来の印象で、 あの時以降、仕事数は増やさない方向で来たように見えるのに、今回は…。
……私、和田さんの演技が浅いとつかファンにブログで書かれたの、 かなり口惜しいんですね(苦笑) 書く理由も理解できるんですけれど。
でも和田さんは心が折れそうになった時も鯨井さんに出会って蘇ったし、 それからも出会いを重ねて成長してきました。彼が最も長く演じている役が長谷部で、 ゆえに長谷部には和田さんが得た経験値が如実に反映しています。 (和田さんはこれを、どんな時も長谷部と一緒にいた、と表現している)
虚伝初演、長谷部のキャラをつかむのに苦戦しながらも大人っぽいのではと 感じた和田さんに対して2016年の末満さんが用意したのは青臭い長谷部でした。 2022年、映画黎明に出てきた長谷部を和田さんが大人っぽく演じようと考え、 実現できたのは経験の賜物です。殺陣もうまくなりましたし、表情演技も。 仮の主・実弦との別れの表情が絶賛されているのも、今の和田さんゆえ。
だからこそ、今回の舞台ダブルもきっと和田さんの糧となって、いつかの未来で 出会える長谷部に結実するのだと信じれば、尊い観劇経験だったと私も思うのです。
長谷部を演じるのが、和田さんの夢とは直接繋がっていないと分かっているからこそ、 演じてくれるのに感謝しつつ、夢を追いかける楽ではない道のりを応援したいです。
2023.4.9 wrote
|