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 2019年05月01日(水)   慧眼 

仕事に行くよりも早起き・早出して甲賀市のミホミュージアムに行ってきました。

静嘉堂文庫で曜変(稲葉天目)を見て、3碗同時展示プロモーションに対し
ひねくれていた自分を一瞬で反省させられ、BRUTUSを帰り道で買った私。
3碗の中でも美術館ではなく社寺それも拝観謝絶の大徳寺龍光院が所蔵し、
今回久しぶりに外に出てきた物をどうしても見たいとスケジューリング頑張りました。
まさか弟一家の実家泊と重なった結果、瀬田の健康ランド隣接ホテルに
泊まる羽目になるとは思いませんでしたが(GWなのに通常料金で助かりました。詳細後述)

大徳寺にはたくさんの塔頭があります。戦国大名が父の冥福を祈って…は
お約束の建立パターンで、織田信長は黄梅院、細川忠興は高桐院を造りました。
そして龍光院は黒田長政が如水のために造ったのです。如水の法名は「龍光院殿」。
代々の藩主が寄進を行い(藤巴紋の箱も展示されていた)、今も黒田家の霊屋があります。

事実上の開山である2代目・江月宗玩(初代春屋宗園はすぐに亡くなったため)は
豪商にして茶人だった津田宗及の次男。実家・天王寺屋が大坂の陣を経て没落し、
使われていた茶道具などが龍光院で伝来したと推測されています。

曜変天目は意図的に作れる物ではないと考えられており(再現を目指す
陶芸作家の作品もBRUTUSに載っていたけど、まだまだ遠く及ばない)
当時からそんなに数あるものではなかったようです。海渡るだけでも大変ですし。

織田信長が持っていた足利将軍家伝来の曜変天目は現存3碗を超える逸品で、
名物狩りを行った信長もかなり愛用していたらしく、ゆえに本能寺にも持ち込まれ、
持ち主と共に燃え尽きたと言われています。曜変っぽい(厳密な定義があって、
それをクリアしているのが現在世界で3碗のみ)天目は他にもあって、
前田家伝来の耀変を所蔵しているミホミュージアムの館長が
茶道具の専門家なのもあって今回、借りてきての展示が可能だったようです。
(ミホミュージアム自体はMOAと同じで宗教団体のコレクションが起源の美術館)

耀変でも充分美しかったですが、国宝のそれは、稲葉天目同様に、宇宙を感じました。
いや、1時間並んだ果てに見られたのは、少人数で区切られてケースに近づき、
観覧する1分間をきっちり測定され追い出されるという、数年前に
小夜左文字が展示された時に行われた方式と同じやり方でしたが!

自伝を元に書き起こされた宗玩の年表を見ると、幼少期から神童的存在のようでしたが、
帰依という形で見いだしたのは黒田長政のようでした。柳生家を徳川家康に
引き合わせたのも長政ですけど、時折父親譲りの慧眼を発揮するのが面白いですね。
如水・長政親子の僧形肖像画掛け軸も展示されていました。実は展示は一部入替で、
終了した前期には「あんらくの空」で知られる長政辞世の句の掛け軸も出ていたのです。

図録(めちゃくちゃ分厚くて重そうだったので断念…)で見ただけでも
胸が締め付けられたので、実物を見たらどんな気持ちになったのか、
想像がつきません。宗玩には僧衣によく使ったお気に入りの柄があるみたいなんですけど、
辞世の句もその柄の布を使って仕立てられているとのこと。二人の親密さがうかがえます。

長政は京都で病に倒れたのですが、亡くなる直前まで公案に取り組んでいたようです。
狗子仏性―人生は無の一字に始まり、そして終わると悟りを得たとされます。
この姿を描いた…犬と長政と師が並ぶ参禅図、実は3枚も描かれたようです。
公案に取り組んだというのも、真実なのかどうかは分かりません。
如水の僧形図同様、長政もクリスチャンだった時期がありますから、
幕府が禁教政策を進める中では、禅宗に帰依しているアピールが必要だったのでしょう。

それにしても山の中(宗教団体の方針で自然農法を行っている)なのに
凄い人でした。恐るべしGW。レストランも激混みで何も食べられず、
行きの新幹線…名古屋からこだまに乗り換える時に、名古屋めしを挟んだパン
(中身はエビフライ、味噌カツ、小倉あん)を食べておいて正解でした。

石山駅から向かうバスも強烈で、瀬田川沿い、夕照の道辺りは美しかったのですが、
山に向かうにつれ、基本1車線で、これまた遠くから自家用車で来ただろう人たちと
すれ違うのが崖端に用意された待避所でぎりぎり…という光景の繰り返し。
今まで“どこに連れていかれるか分からないバス”と言えば、
ビッグアーチに向かうのと呉・郷原グラウンドに向かうの(後者は厳密にはタクシー)でしたが、
そのインプレッションを更新できそうなすさまじい道のりでした。

龍谷大生(私大は10連休ではなかった模様)あふれる石山から隣駅の
瀬田(快速非停車駅)へ向かい、健康ランドの無料送迎ワゴンで寝床へ。
これまた昭和臭のあふれる空間でしたが、ラドン温泉はともかく、
ジェット水流で身体をもみほぐせたのだけは良かったです。
併設の居酒屋で頼んだ焼きそばが鰹節の山と化していたのにもビックリ…。

ともあれ長い1日でした。

2019.5.9 wrote


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